44 / 58
44
しおりを挟む
結局俺は送別会を固く辞退して。
今日は最終出勤日で、もうこの立浪市役所商工観光課に来るのも最後となって、デスクの荷物を段ボールに詰め込んでいた。
次の仕事は何も決まっていない。
由貴と別れて身も心もズタボロで、更には職まで失うことになるほど自分が恋に溺れるとは思わなかった。
皆に改めて挨拶をした。
課長が握手をしてくれて、主任の由貴はまるで他人のように肩に手を置いて「頑張ってね、風早くん」と微笑んで、その笑みに胸が痛んだ。
課を出ると、段ボールを抱えてエレベーターに乗り一階に辿り着きエントランスへ向かう。
見慣れた職場を目に焼き付けると、後はもう振り返らずに外に出て、呼んであったタクシーに乗り込む。
(もう二度と由貴の顔を見ることもねぇんだ……)
心の中で嘆息して、タクシードライバーに住所を告げた時だった。
後部座席の窓ガラスがドンドンと叩かれて驚いて顔を向けると必死の形相をした小鳥遊が窓を叩いていた。
ドライバーが様子を察してドアを開けてくれて「どうした? 小鳥遊」と声を掛けると、小鳥遊が走って来たのか息を切らしている。
「あーもう、風早先輩あんな悲しそうな顔で主任を見つめないでくださいよ。可哀想になってきたじゃないですか……」
ポーカーフェイスには自信があったつもりだが、なるほど、事情を知る者にはそんな顔で映っていたかと苦笑する。
「まぁな。もう俺はいなくなるんだから、好きなだけアイツに言っていいぞ。未練タラタラだって」
「……もう諦めました。教えてあげます。主任の風早先輩への不満」
その言葉に目を瞠ってしまうと、小鳥遊が両肩を竦めてやれやれと言った様子で溜め息を吐いた。
「……アイツの不満って……」
今日は最終出勤日で、もうこの立浪市役所商工観光課に来るのも最後となって、デスクの荷物を段ボールに詰め込んでいた。
次の仕事は何も決まっていない。
由貴と別れて身も心もズタボロで、更には職まで失うことになるほど自分が恋に溺れるとは思わなかった。
皆に改めて挨拶をした。
課長が握手をしてくれて、主任の由貴はまるで他人のように肩に手を置いて「頑張ってね、風早くん」と微笑んで、その笑みに胸が痛んだ。
課を出ると、段ボールを抱えてエレベーターに乗り一階に辿り着きエントランスへ向かう。
見慣れた職場を目に焼き付けると、後はもう振り返らずに外に出て、呼んであったタクシーに乗り込む。
(もう二度と由貴の顔を見ることもねぇんだ……)
心の中で嘆息して、タクシードライバーに住所を告げた時だった。
後部座席の窓ガラスがドンドンと叩かれて驚いて顔を向けると必死の形相をした小鳥遊が窓を叩いていた。
ドライバーが様子を察してドアを開けてくれて「どうした? 小鳥遊」と声を掛けると、小鳥遊が走って来たのか息を切らしている。
「あーもう、風早先輩あんな悲しそうな顔で主任を見つめないでくださいよ。可哀想になってきたじゃないですか……」
ポーカーフェイスには自信があったつもりだが、なるほど、事情を知る者にはそんな顔で映っていたかと苦笑する。
「まぁな。もう俺はいなくなるんだから、好きなだけアイツに言っていいぞ。未練タラタラだって」
「……もう諦めました。教えてあげます。主任の風早先輩への不満」
その言葉に目を瞠ってしまうと、小鳥遊が両肩を竦めてやれやれと言った様子で溜め息を吐いた。
「……アイツの不満って……」
3
あなたにおすすめの小説
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?
藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。
なんで?どうして?
そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。
片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。
勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。
お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。
少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。
(R4.11.3 全体に手を入れました)
【ちょこっとネタバレ】
番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。
BL大賞期間内に番外編も完結予定です。
君に二度、恋をした。
春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。
あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。
――もう二度と会うこともないと思っていたのに。
大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。
変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。
「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」
初恋、すれ違い、再会、そして執着。
“好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか――
すれ違い×再会×俺様攻め
十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
双葉の恋 -crossroads of fate-
真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。
いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。
しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。
営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。
僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。
誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。
それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった──
※これは、フィクションです。
想像で描かれたものであり、現実とは異なります。
**
旧概要
バイト先の喫茶店にいつも来る
スーツ姿の気になる彼。
僕をこの道に引き込んでおきながら
結婚してしまった元彼。
その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。
僕たちの行く末は、なんと、お題次第!?
(お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を)
*ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成)
もしご興味がありましたら、見てやって下さい。
あるアプリでお題小説チャレンジをしています
毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります
その中で生まれたお話
何だか勿体ないので上げる事にしました
見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません…
毎日更新出来るように頑張ります!
注:タイトルにあるのがお題です
明日の君は俺を知らない。
マジ卍
BL
幼なじみの蓮と悠人。
一緒に生きていくはずだったふたりの関係は、ある日突然崩れた。
病気、記憶喪失、そして──再会。
「俺を……置いていかないで」
切なくて、優しい。再び心をつなぐ、純愛BLストーリー。
ストックの方は完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる