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玄関へと続く扉を開けようとしたところで、真白がソファから立ち上がって俺に詰め寄り、ぎゅっと抱きしめてきた。
「伊吹。お願いだから僕の前から消えないで? 伊吹が真鍋くんや南波ちゃんといるところを想像しただけで胸がかきむしられるんだ」
「じゃあ……じゃあ、昔の真白に戻ってよ」
そう問うと真白が眉根を寄せた。
俺が言っていることの意味が全くわかっていないような表情だ。どこか不可解な瞳で俺を見つめながら包み込む腕を弛緩させた。
「昔の僕ってどんな? 僕はどこか変わった? 伊吹をちゃんと愛しているよ?」
もうダメだ、そう思った。
何を言っても、どんな想いも、もう今の真白には通じない。俺の言葉なんて一欠けらも届かない。伝わらない。響かない。
「それがわからないんだったら、真白はもう重症だよ」
俺は真白の腕を思い切り払いのけて玄関へ出た。
背中に「伊吹!」という声が飛んできたけれど、もう振り向かなかった。
これでいい、これでいいんだ。
大好きだったよ、真白。昔の真白が、大好きだったよ。
俺たち、何でこんな風に歪んじゃったのかな──。
明日、出社したらクビを言い放たれるかもしれないな。
こうやって、真白の家を出たけれど、俺はただただ根無し草で。
真白を失ったら、何もかも失ってしまうんだ。
それが情けなくて仕方がなくて、自分は今まで如何に真白の庇護の下、生きていたのかを痛感させられた。
スマートフォンを取り出して、着信履歴をタップする。
『もしもし? 伊吹くん? どうしたの?』
要先輩の優しい声が聴こえて嗚咽がこぼれた。
俺が助けを求められる相手は、事情を全て知っている要先輩しかいない。
「かな……め、せんぱ……助けて……くだ、さ……」
涙で途切れ途切れに喋ると電話の向こうで要先輩が息を呑んだ。
真白のマンションの前で、要先輩と通話を繋いだまま、立ち尽くして嗚咽をこぼし続けた。要先輩が『伊吹くん? 伊吹くん?』と呼び掛けてくれるけれど、言葉が出なくて。
こんなに泣くほど昔の真白を愛してるって、今、真白は考えられてる?
「伊吹。お願いだから僕の前から消えないで? 伊吹が真鍋くんや南波ちゃんといるところを想像しただけで胸がかきむしられるんだ」
「じゃあ……じゃあ、昔の真白に戻ってよ」
そう問うと真白が眉根を寄せた。
俺が言っていることの意味が全くわかっていないような表情だ。どこか不可解な瞳で俺を見つめながら包み込む腕を弛緩させた。
「昔の僕ってどんな? 僕はどこか変わった? 伊吹をちゃんと愛しているよ?」
もうダメだ、そう思った。
何を言っても、どんな想いも、もう今の真白には通じない。俺の言葉なんて一欠けらも届かない。伝わらない。響かない。
「それがわからないんだったら、真白はもう重症だよ」
俺は真白の腕を思い切り払いのけて玄関へ出た。
背中に「伊吹!」という声が飛んできたけれど、もう振り向かなかった。
これでいい、これでいいんだ。
大好きだったよ、真白。昔の真白が、大好きだったよ。
俺たち、何でこんな風に歪んじゃったのかな──。
明日、出社したらクビを言い放たれるかもしれないな。
こうやって、真白の家を出たけれど、俺はただただ根無し草で。
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それが情けなくて仕方がなくて、自分は今まで如何に真白の庇護の下、生きていたのかを痛感させられた。
スマートフォンを取り出して、着信履歴をタップする。
『もしもし? 伊吹くん? どうしたの?』
要先輩の優しい声が聴こえて嗚咽がこぼれた。
俺が助けを求められる相手は、事情を全て知っている要先輩しかいない。
「かな……め、せんぱ……助けて……くだ、さ……」
涙で途切れ途切れに喋ると電話の向こうで要先輩が息を呑んだ。
真白のマンションの前で、要先輩と通話を繋いだまま、立ち尽くして嗚咽をこぼし続けた。要先輩が『伊吹くん? 伊吹くん?』と呼び掛けてくれるけれど、言葉が出なくて。
こんなに泣くほど昔の真白を愛してるって、今、真白は考えられてる?
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