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しおりを挟む古い格式ばった老舗料亭。
そこは祇園でも国賓級の人々がお忍びで通い詰める
という、老舗料亭「胡蝶」
あつし達と別れた後、有無を言わさず連れて
いかれた。
絢音の教育係になったらしい松浪は先に着いていた
ようで、女将は2人を席に案内するとき、微妙な
表情をしていた。
きっと、暴力団の幹部と女子高生という
組み合わせが、
女将の目には奇妙に映ったのだろう。
「来ましたか。どうぞ、こちらへ」
朋也と蒼汰は、一礼すると、扉を閉め、
部屋の外廊下に立つ
「これが会の幹部?」
上座に現総長補佐筆頭の”佐竹”という50絡みの
男と松浪が座り、その両側に2人ずつ強面の男達が
座っている。
絢音は、佐竹・松浪の向かいへと腰を降ろす
「お疲れ様です。何か不便はありませんでしたか?」
と、佐竹。
「特にはありませんでしたが、しいて言えば、あんな
大人数で学校に来られるのはちょっと……」
「本日ご挨拶にあがったのは、本部の幹部達です。
二次団体以下の幹部を含めると、ざっとこの10倍は
おります故」
(日本最大って比喩は伊達じゃないって事か……)
松浪が絢音のグラスにソフトドリンクを注ぎながら
連絡事項の確認をとる
「ほんなら、自己紹介からやな。わいは菊池言います。
主に九州四国地方の支部を統括させてもろうてます」
ウェーブのかかった長い茶髪をポニーテールに
した、関西弁の男が口を開く。
「相馬隆史、関東支部・強行犯まとめてます」
今時なイケメン男が続く
「羽取光です。本部で松浪さんの補佐やらして
貰ってます。よろしく」
幹部は佐竹を除き、皆、同じくらいの年齢に
見える。
表面上は当たり障りのない顔をしているが、
皆、絢音の事をじっくり観察しているのが
丸わかりだ
「あ、ども。私は、和泉絢音です」
絢音の到着を待っていたのだろう、
目の前の料理には誰も箸をつけていない。
「コイツらの顔、忘れないで下さい。お前たちも
お嬢の顔は覚えたな」
「「「はっ」」」
低い男達の声が重なる。
(わ、お嬢って、ひょっとしたらうちのこと?)
絢音はそれを横目に料理へ、
恐る恐る手を伸ばした。
こんな絢爛豪華な料理を食べるのは久しぶりだ。
佐竹・松浪と幹部達は何か自分に関する事を
話しながら食事をしているが、絢音はまるで
聞いていなかった。
「―― です。分かりましたね? お嬢」
そう言って話しを振られ、
視線が自分に集中しているのに気付き、
顔を佐竹に向けた。
「あ、すみません。聞いてませんでした……」
「俺の話を聞いてなかった、で済まされるのは、
あなたくらいですよ」
目を見開き、固まる周囲に気付く。
松浪でさえ、唖然としたのか箸が宙で止まっている
「それで、何でしょう?」
「松浪、もう1度説明してやれ」
「はい。絢音さんの名字を変更する手続きですが、
1度、御前にお会いしなければなりません」
「名字の変更?」
何故、そんな事が必要なのか?
「有事の際は和泉姓を絢音さん本来の苗字、小鳥遊姓に
戻す事は11年前、絢音さんが和泉家へ引き取られた
時から決まっていた事、ですので」
松浪の言葉に考え込む。
(そっかぁ……そんな取り決めがなされていた、
だなんて、ちっとも知らんかった、けど……)
「今って、有事、なんですか?」
「はぁ……事の詳細はおいおい覚えるとして、
今は早急にその必要があるとご承知下さい」
「……分かりました」
「明後日は祝日で学校はお休みですね? 御前と会う
よう取り計らってもよろしいですか」
「お任せします」
「はい」
*** *** ***
翌日の放課後、HRを終えた絢音は友人数人と
連れ立って校門を出た。
その忍と菊次と一緒に校門を出てすぐ。
目立たないようにと少し離れた所に止まっていた
のだろうが、スモーク張りのベンツというだけで
十分に目立ってしまっている車が、静かに絢音の
横へと滑り込んできて停車した。
するすると後部座席の窓が下りると、
中から声がかけられた。
「絢音さん。迎えを寄越すと言っておいたはず
ですが……」
聞き間違いようのない低く響きのいいバリトン。
若頭・松浪自身が来ていることに驚く。
「松浪さん? あぁ ――、すみません。自宅の方へ
かと思ってました」
「中へどうぞ」
助手席から朋也が降りてきて、
後部座席のドアを開く。
「じゃ、また」
驚いた顔のまま固まっている忍と菊次に
簡単に挨拶して、朋也にぺこりと頭を下げると
絢音は車内に滑り込んだ。
今夜から絢音は”煌竜会”総長の本宅とされている
嵯峨野のお屋敷で暮らす。
*** *** ***
15分ほど走った後に着いたのは、
どこまで塀が続いているのか? と、思われるほど
大きな敷地を有する大邸宅。
セキュリティー設備のための厳めしい金属製の
門構えをくぐると、内部は見事な日本庭園が広がり、
その奥に時代劇でしか見ないような広い板張りの
玄関を持つ日本家屋が見えた。
「わぉ……すっごい」
「やくざの本宅など、こんなものです」
「あ、そう、なんですか……」
やはりそうなのか、と改めて認識する。
煌竜会の名前なら、大抵の日本人は
知っている。
それでも、これまではまったく他人事のように
認識していたことは確かで……。
それが今、目の前の屋敷を見、隣に座る男を見て、
自分がもう決して“関係ない”とは言えない世界に
足を踏み入れた事を実感した。
「あ、あの……」
「何でしょう?」
喉元まで出かかった弱音は、寸前で止めた。
絢音達が車外に出てくるのを、
玄関先にずらりと並ぶ何十人もの組員達が、
頭を下げたまま待ち受けている。
それにもう一度視線をやってから、
絢音は首を横に振った。
「何でもないです」
「弱音が吐きたいなら今のうちココでどうぞ。
但し、一旦この車からでたらあなたは小鳥遊絢音。
煌竜会の次期総長候補です。くれぐれも他者に
付け入られる弱みなどお見せになりませんよう」
「……はい……」
その時、松浪の表情に少々の苦味が走った事に
気づかないまま、絢音は所が開けてくれている
ドアから降り立ち、物々しい雰囲気に圧される
事もなく、絢音は物珍しそうに周囲へ視線を
巡らせながら、松浪と朋也に導かれるまま、
屋敷の奥へと続く廊下に足を踏み入れた。
*** *** ***
通された場所は屋敷の奥まった所にある
離れの応接間。
「―― 明日から学校へは送り迎えをつけます。
朋也、そっちも手配しておけ」
「はい。自分と西島が付く予定です」
「ちょっと待って。送り迎えなんか必要ないです」
これに関しては松浪が異を唱えた。
「いけません。今日からあなたは煌竜会の跡目候補
としてあちこちから注目される事になります。
もちろん学校側にばれるようなヘマはしませんが……
ただそうなると今までにはなかった危険も出てきます
あなただって、拉致されて薬を打たれたりしたくない
でしょう?」
思わず言葉に詰まる。
松浪も朋也も、一見すれば企業の勤め人か、
あるいは若手実業家、と言った風ではあるが、
やはりやくざはやくざなのだ。
その世界に1度関わった以上、
絢音もまた危険と背中合わせになるということ
なのか。
「それから ―― 人が付く事に慣れて下さい。
これから外出には常に車を使うこと。外ではガードの
側を離れないこと。絢音さんには面倒だったり、
息が詰まったりすることもあると思いますが、
これは絶対厳守です」
絢音には言わなかったが、4代目が本宅に家族と
住むなど、今までになかった事である。
息子達の中で一番頼りにし溺愛していた絢音の父・
桜花氏でさえ、大学卒業するまで認知もせずに
海外の寄宿学校で暮らさせていたほどだ。
遅かれ早かれ絢音の事はうわさになるだろう。
4代目の孫娘として。
敵の少なくない4代目にとって、
最大の弱点だと目される事は間違いない。
そんな状況下で絢音の新しい生活は始まった。
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