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第4話
しおりを挟む私は覚悟を決めた。
決行日までにするべき事は全て終わり、
あとは待機するだけになった。
その間、私はこの世界の情報を
集める事にした。
この世界では、私が英傑に行く以外に
変わった事はあるのか。
これは知っておきたい。
他に変わった事があるなら、
それが私に、何らかの形で影響を
与えてくる可能性がある。
それを避けるためにも、この世界の事を
更に知る必要がある。
でも、知りたい事はそう多くない。
私に危害を加える可能性がある人間
なんて、いても数人だけ。
その中でも、1人だけ気になる
人間がいる。
相模 翔(サガミショウ)。
この男は、当時私が付き合っていた
人だ。
常勝に入学した理由は、友達が
たくさん行くからというのもあったが、
彼が、常勝に行く事が1番大きかった。
そもそも彼は勉強が苦手で、スポーツ
推薦で常勝に入学した。
この高校は、それなりにスポーツが
強い高校だからだ。
そして、私が常勝に行く様になった
理由は単純だ。
彼は、私が常勝に行かないなら、家族を
殺すと脅してきたからだ。
実際彼は、私にこそ暴力を
振るわなかったものの、普段から
人を虐めていた。
私もそれを一度目撃した。
それからは、なるべく彼を刺激
しない様に生活していた。
怖かったから。
私も何かされるんじゃないかと
怯えて日々を過ごしていた。
だから常勝に通う様になった。
本当は、私も英傑に行きたかった。
奏華と一緒に、青春したいと
ずっと思ってた。
でも、その夢は、彼のせいで途絶えて
しまった。
そんな彼が、私が英傑に行く世界線で
私に危害を加えない訳がない。
一刻も早く、私の安全を確かめないと。
私は急いで学校の近くに向かった。
そこで、当時のクラスメートの女子
3人を偶然見つけた。
その3人に話を聞く事にした。
「ねえ、少し聞きたい事が
あるんだけど…
君たちのクラスで、何かいじめが
あったりしない?
例えば、女子がいじめられてる
とかある?」
私がそう質問すると、彼女たちは
私に少し怯えた表情でこう言った。
「はい。いじめはあります。
“夏草”っていう女の子が
いじめを受けています。」
それを聞いて、私は
「そう。ありがとう。
引き留めたりして、ごめんね。」
そう言ってすぐにその場を立ち去った。
これで、私がいじめられている事が
確定した。
いじめをしている人の名前は
聞けなかったものの、おそらく翔で
間違いないだろう。
それを知れただけで十分だ。
~それから数日後~
今日は受験当時。
あれから、この世界の私の身には
特に何も起こっていない。
いじめは続いているかも知れないが、
今日は無事に英傑高校を受ける事が
出来るだろう。
そして、私も始めなければならない。
奏華を地獄へ送る。
私は奏華を探した。
出来れば、受験会場に着くまでに
見つけたい。
そこで上手く話を持っていきたい。
例えば、お母さんが事故にあったとか。
実際、彼女はそれを信じた事が
何度もある。
それ以外にも、冗談で言ったつもりの
事が、彼女には本気の様に聞こえて
しまって、泣かせてしまった事もある。
だから、今回も信じてくれるはず。
そう思って奏華を探していると、
受験会場の近くの交差点で、彼女を
見つけた。
私は信号を待っている彼女に
近寄って、話をした。
「ねえ、奏華ちゃんだけっけ?
私の事、覚えて..ない?」
私がそう質問すると、奏華は
「忘れる訳ないじゃないですか!
夏草のお姉ちゃんですよね?
こんな美人、忘れる訳ないですよ!」
と答えた。
美人と言われて、少し照れ臭かった。
でも、そんな事、今はどうでも
良かったのだ。
こんな会話を長く続けると、
私の精神が持たないかも知れない。
早く終わらせよう。
「あのさ…あの、ね?
その、なんて言えばいいか。
分からないけど、」
頭が混乱している。
いや、違う。
奏華を地獄に落とすなんて、そもそも
私に出来る訳がないんだ。
私は、勉強以外何も取り柄がなかった。
精神も弱かった。
小学生の頃なんて、何かある度に
すぐに泣いて、先生か近くの大人に
助けを求めるほどだった。
それでも、私と一緒にいてくれた
友達には感謝している。
奏華もそのうちの1人だ。
地獄に落とす?
そんな事、親友にしろっていうのか?
そんな事を考えていると、
「あの、大丈夫ですか?」
と奏華が話しかけてきた。
私は言葉が喉から出てこない。
話さなければいけないのは分かってる。
でも、どうしても、言葉が出ない。
「えーと、すみません!
もうすぐ受験始まってしまうので。
今日はこの辺で失礼します。」
そう言って青信号を渡ろうとする
奏華に対して、私はこう言った。
「ま、待って!」
すると奏華は、交差点を半分
渡ったあたりから、こちらに戻って
来ようとしていた。
「何ですか?」
彼女がそう言いながら交差点を
歩いて戻って来る。
その時、私の目の前には、
あり得ない光景が映った。
気がつくと、交差点に彼女の姿は無く、
その付近にあるのは、前方が変形した
車と、奏華が小さい頃から付けていた
私とお揃いのキーホルダー。
その隣には、奏華のカバン。
そして、大量の血と共に、奏華は
目を開けたままで地面に倒れていた。
恐らく、車がスピード違反をして
突っ込んできたのだろう。
それを理解するのに、私はかなりの
時間を要した。
近くの人が、奏華の手当てをしたり、
救急車を呼んだり、辺りは騒然と
していた。
奏華は車に全身を引きずられ、
服はボロボロに破け、腕、足、顔。
至る所から出血していて、もはや
手の施しようがない事は、一目瞭然だ。
何分そこでボーッとしていたのだろう。
やっとまともに頭が動く様になって、
私は初めて、人を死に導いてしまった
事を理解した。
「奏華、奏華?
ねえ、返事してよ。
ねえ?ねえ?奏華?
ごめんね…奏華。」
こんな事を言っても、聞こえるはずが
無いのに、私の口からは、自然に
声が漏れていた。
私の精神は、崩壊寸前だった。
そこで、脳内に声が流れてきた。
“ミッションクリアおめでとう。
これで貴方の世界とこの並行世界は
入れ替わりました。
つまり、貴方の世界は英傑高校に
通った世界線に、そして新しく
並行世界として、貴方がニートの
世界線が完成するという事です。
また、この並行世界は2023年ですが
現実に戻ったら、この世界は2029年
になっています。
最後に1つだけ。
これだけは忘れないで下さい。
この並行世界も、1つの世界。
ここでも貴方の世界の様に、人が
生きて、死んで、考えて、愛し合い
助け合って人間が共存している。
その世界を貴方は少しだけ
変えてしまった。
つまり、この世界でも、貴方と
同じ様に人が生きていると
いう事です。
これを忘れる事のない様に。”
~事故から数日後~
後日、奏華の葬式が行われた。
事故があったあの日、彼女は病院に
搬送され、1時間20分後に、死亡が
確認された。
私は関係者ではないため、葬式に
参加する事はできなかった。
でも、もし行けたとしても、
行く気にならなかったと思う。
何故なら、この事故は私が引き起こした
様なものだからだ。
私が彼女を呼び止めたせいで、
交通事故に遭ってしまった。
全部、全部私のせいだ。
スピード違反をしていた車も勿論
悪いだろう。
その後警察が来て、運転手が
パトカーに乗るところを見た。
多分、その人は罪に問われるだろう。
でも、結局、私が奏華を呼び止めなけれ
ればこの事故は決して起こらなかった。
誰にも話す事が出来ない辛さと、
誰も私を責めないからか、私は段々
自分は悪くないと思う様になった。
~その後~
それからまた数日。
私が通っていた中学の人から聞いた
話だが、私が当時付き合っていた
相模 翔は、奏華と浮気をしていて、
奏華に暴力も振るっていた。
でも、彼の奏華への愛は本物で、
私なんかどうでも良かったらしい。
何故、私を常勝に行かせようと
したのかは分からないが、
奏華が死亡した事に対しては、
酷く悲しんでいたらしい。
そして、彼から私へのいじめは無くなり
卒業までの時間は、何事もなく
過ごす事が出来たらしい。
奏華が死亡した事を除いて。
そして、私はホテルで休んでいた。
そこで私の脳内に、また本の一部内容が
入ってきた。
“並行世界から元の世界に帰る方法は
もう一度あの店に入り、何もせずに
外へ出る事。
それで、貴方の旅は終了です。
また並行世界に行きたい場合は、
再びあの店でチケットを買い、
店を出て下さい。
でも、決して店員に
話しかけてはなりませんよ。”
この内容からするに、私はもう
いつでも元の世界に戻れるという事。
なら、すぐに戻ろう。
この世界には、もう居られない。
私はあの店のドアに入り、
すぐに店から出た。
外に出ると、そこは元の世界だった。
どうやら、並行世界と現実が
逆になった様だ。
第4話/入れ替わる世界
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