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2章-学園入学と大事件-

36話 初・生成ダンジョン

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「それじゃあ、今言った班ごとに早速出発だ。
 構築盤の真ん中に全員で手を乗っけな。それでダンジョンゲートができるから、そこに入ればダンジョンさ」

3人組の女子達が構築盤に手を乗せると装置が光り出し、少し離れたところに門のような空間の歪みが発生する。
恐る恐る3人が入っていくとゲートは消えてしまった。

「こんな感じで手を乗せた奴が全員入るとゲートが消えるようになっている。
 無関係の奴は入ることが出来ないし、直前で用事ができたとかで入った人数が足りなくても3分すれば勝手に消える。次のパーティーが作ればそれでも古いゲートは消えるから問題はない。まあ、そういう仕様だってことだけ知っていればいいさ。
 ただ構築盤の仕様上パーティーは最大で6人とされているから気をつけるんだよ。
 それじゃあ次の班、行きな」
「レイラ、行くよ」
「はい、分かりました」

2人でゲートを作成してからユリスが前を歩いて潜っていく。
潜り抜けた先は薄暗い洞窟だった。
明かりのようなものは無いはずだが、結構先の方まで見ることが出来る明るさのようだ。

「ここは洞窟か。
 少し暗いが、探索に支障が出る程じゃないかな」
「ここがダンジョンですか…」
「さて、これから探索をしていく訳だけど…
 その前に昨日のことだ。確認しておくけどあれは本気?まだ会ったばかりだよ?」
「もちろん昨日言ったことは本気ですよ?お父様にも今朝お手紙を出させていただきましたし。
 それに貴族では婚約してから相手と会うことも親が勝手に決めることも珍しくはありません。それに比べれば事前に相手を見て自分の意思で選ぶことが出来ているのですから恵まれていると言えるでしょう」
「そうか…レイラが自分で望んで選んだならいいさ。僕も嫌なわけじゃないからね。
 さて、そろそろ探索を始めよっか」
「はい♪
 私は後衛でいた方がいいでしょうか?」
「いや、出てくる魔物次第だけど今回は1人ずつで戦ってみようか。お互い試験用の動きしか見ていないでしょ?
 まずは僕がやるから見ていて」
「確かにそうですね。分かりました」

そうして洞窟ダンジョンの探索が始まる。
まずスタート地点から先の方を見てみるが分かれ道のようなものは見えない。ただ、先の方が壁になっていてあまり遠くまでは見えないので、おそらく道が緩やかにカーブしているのだろう。
魔物との不意の遭遇を警戒するレイラはゆっくり進もうとするが、ユリスは気配感知が出来るためにどんどん先へ進んでいってしまう。初めての分かれ道が見えて来たあたりで2人は急に歩みを止める。魔物が角を曲がってくるのが見えたのだ。

「あれは…ゴブリンかな。
 さっきも言った通り先にやらせてもらうよ」
「はい、もちろんです」

そこにはゲームなどでよく見かけるコミカル寄りなデザインのゴブリンが丸腰で歩いていた。
ユリスは魔纒を発動し、一気にゴブリンの懐へ潜り肘打ちを繰り出す。と、ゴブリンは攻撃に反応する事もなく吹き飛ばされてそのまま壁に打ち付けられると光となって消えてしまった。

「…え?もう終わり?
 やっぱゴブリンだからか弱いな」
「やはりユリスさんは凄いですね。
 懐へ潜るまでの動きが全く見えませんでした」
「そう?ありがとう。
 まあレイラもAGIが上がってくれば見えるようになるよ。ほら、先へ進むよ」

次の相手は少し進んだだけで見つかった。というか角を曲がったところで、2メートルぐらい先で天井から落ちてきたのだ。ちょうどこの辺から魔物が出始めるのか連続での戦闘となる。

「あれはスライムでしょうか?では、次は私がやりますね。『ファイアボール』!」

レイラは距離をとりつつ杖を構えて魔法を唱える。
武器術試験ではナイフを使用していたが、前に本人が言っていた通り基本的に魔法がメインのようで今は杖だけを持っている。
選んだ魔法は最も初歩的な火魔法であるファイアボールだったが、スライムには十分だったのだろう。1発命中しただけで倒せてしまった。

「あれ?1発で終わりですか?
 さっきのはユリスさんが強いからだと思っていましたが…もしかしてこのダンジョンの魔物って弱いのでしょうか?」
「まあ、そういうことだろうね。
 オリエンテーションだし、おそらくは1番簡単なダンジョンなんだろうさ。
 それより、スライムがなんか落とさなかった?」
「えっ?
 ああ、確かに何か円盤みたいな物が落ちていますね。
 あれは…メダルでしょうか?」

スライムがアイテムをドロップしたようでレイラが拾いに行く。

「メダルか…ちょっと鑑定させてもらえる?」

ユリスがメダルを受け取り、鑑定を発動する。

―――
【名前】『円』のメダル
【効果】
ダンジョン構築盤に嵌めることで、生成ダンジョンを変化させることが出来る。
―――

「なるほど。やっぱりこれが例のメダルか」
「例の?これに何かあるのですか?」

ユリスが鑑定結果を見て納得しているとレイラから疑問の声が上がる。

「そういえば生成ダンジョンについては入試の試験範囲にもなかったっけ。多分すぐに授業で習うだろうけど説明しようか。
 このメダルをダンジョン構築盤に嵌めると生成されるダンジョンにさまざまな変化が現れるんだ」
「変化ですか?」
「詳しくは僕も知らないけど各メダルの司る内容がダンジョンに影響を与えるとされているみたいだね。
 これは円のメダルだけど、どんな風に変化するのかは想像がつかないな…ドロップアイテムが円型になるとかかな?」
「そんな効果があるのですね…!
 それでは色々な種類を集めていきませんと」
「そうだね。それでドロップアイテムの分配はどうしようか?
 とりあえずは交互に戦う予定だしドロップした人のものでいい?」
「私はそれで構いません。
 どちらかに偏るようならその時にまた考えましょう」
「おーけー
 なら、このメダルはレイラの物だね」

レイラに初ドロップだったメダルを渡し、探索を再開する。
そこからは交互に戦闘をしていったが、出てくるのはゴブリンとスライムのみであった上に1体ずつの遭遇だった。戦闘をしつつ、何度か分かれ道を曲がったところで初めて行き止まりに当たる。

「この先は行き止まりか。
 そうなると引き返す必要があるけど…何かあるね?」
「あれは、木箱でしょうか?
 なぜこんなところにこんな物が…?」

(木箱?…そういえばダンジョンにつきものな宝箱をまだ見かけていなかったが、あれがそうなのか?)

「木箱かぁ…多分宝箱かな。レイラ、開けてみる?」
「宝箱…!良いのですか?では、失礼して…あら。
 またメダルですね」
「今度は魔のメダルだね。
 それはレイラが持っていていいよ。僕はさっき手に入れたし」

実はここまでのドロップでメダルも含めたいくつかのアイテムを手に入れていたのだ。
手に入れたアイテムはユリスが石のメダル、魔石(小)、スライムゼリーでレイラが魔石(小)である。
ここにきてユリスの幸運が機能しているのか手に入れるアイテムが多くなっている。
苦戦するような事態も起きず、サクサクと探索を進めていくと何度目かになる階段を降っていったところで1本道の先に大きな扉がある階層に出る。
ちなみにここまででさらにドロップはしているが、何故かユリスはスライムゼリー、レイラは魔石(小)ばかりである。レイラは実家の関係で魔石をよく使用するので沢山手に入って嬉しそうだが、対するユリスはスライムゼリーという鑑定で見てもどうやって使うのか分からない素材ばかりで困惑していた。
食用可という説明があったのでおそらくは料理に使えるのだろうが、全く想像がつかないのだ。

(ダンジョンをある程度進んだところにある大きな扉…十中八九ボスだな)

「おそらくだけど、この扉を開ければボス戦だろうね。
 倒す以外に戻る方法が分からないから行くことは決まってるけど」
「!!…ボス戦というとこれまでよりも手強い魔物がいるということですよね」
「まあそういう事だね。でも道中を考えるとそこまで手強くはないと思うからそんなに気負わなくて大丈夫だよ」

ユリスが扉に触れると、扉が勝手に中央からスライドしていき、中に入れるようになる。
緊張しながら入っていく2人が完全にくぐり終えたところで扉がダッーン!と勢いよく閉まる。

「「!!?」」

(いやいやいや、勢い強すぎだろ。ただの石なら壊れてるレベルだぞ。もし挟まれでもしたら普通に死にそうな位の衝撃だし、ある意味トラップじゃないか?)

そんなことを考えていると扉の音が合図だったかのように奥の方の地面に光が発生してゴブリンが4体出てくる。
よく見ると後方の1体は金属製のナイフを持っていて、明らかに他よりも強化されていることが窺える。

(なんだ、ゴブリンか。レベルは他よりも高いけど種族名は同じだし武器を持っているだけだな。
 …必要があるか分からないけど、ここはレイラの修行に使うか?)

どうやらユリスは自分が参加するとすぐに終わってしまうと判断。今後のためにレイラを鍛える場にするようだ。

「レイラー、そろそろ回復した?」
「…はい…だい、じょうぶです」

先程の扉の音で完全に固まっていたレイラに声をかけて何とか意識を現実に引き戻す。緊張状態で急に大きな音を聞かされたのだから経験の少ない新入生では無理もない反応だろう。


「実戦で複数相手の経験はある?」
「いいえ、そもそも実戦は今回が初めてです。
 1人相手なら模擬戦の経験はそれなりにありましたが。複数を相手にした訓練は動かない的だけです」
「そうか…それならちょっと修行してみようか」
「修行ですか?」
「ああ、僕が参加するとすぐに終わってしまいそうだし、経験が無いならいい機会だと思ってね。
 僕が武器持ちを抑えているから、残りをファイアボールのみで相手してみてくれ。位置取りや発動のタイミングにさえ気をつけていれば問題はないかな。
 本来は他の戦場との位置や流れ弾なんかも気にかけなくてはいけないけれど、今回は僕が対応するから気にしなくていいよ」
「ファイアボールのみで複数相手ですか…
 分かりました。やってみます…!」
「じゃあ、僕は向かって左側で戦っているから頑張って」

ユリスはそう言い残すと、レイラから離れていってしまう。突然な修行宣言を受けたレイラであるが特に反発する気はない。ユリスが強いのは分かっている事だし、そんなユリスが強くなるための修行として課したというならば、言う通りにしていけば強くなれるのだろうと全く疑いを持っていない。…そうしている間は側に置いて貰えるだろうからという打算も多少は含まれているが。
やる気を感じ取ったのかレイラめがけてゴブリン達がまとまって走ってくる。が、途中で1番後ろにいた武器持ちゴブリンだけがユリスの手で部屋の端に連れ去られてしまった。
突如リーダーが居なくなるという異変に気付いた残りの3匹が足を止めるが、そこへレイラのファイアボールが飛んでくる。

「私が目の前にいるのによそ見だなんてなんて…隙だらけですよ」

ただ、緊張のせいかレイラが放った火弾は1匹の腕にかするだけで直撃はしなかった。だが気を引くのには十分だったようで、3匹のターゲットは完全にレイラとなった。
再度攻撃をしようとするレイラだが、このままでは発動出来たとしてもその後の回避が間に合わない可能性に気づく。

「このままではダメですね。なら…これならどうですか!」

ゴブリンの攻撃をその身で受けながら魔法を発動しても大したダメージを負うことなく攻撃できる。だが、レイラはその選択をしなかった。彼女もこれが修行だと意識して動いているのだろう。今まで道中どころか訓練ですら一切やったことのない移動しながらの魔法発動を試みたのだ。
結果は上々で、狙っていた1匹に直撃した上に距離も十分に離れたままだ。

「初めてやりましたが何とかうまく行きましたね。
 残りもこの調子で行きましょうか」

どうやらレイラのステータスなら直撃すれば取り巻きのゴブリンは一撃で倒せるようで、その後も同様に危なげなく倒していく。

(へえ…移動しながらの偏差射撃でも全部命中か。
 かなり器用というか、そっちの適性が高いんだろうな。
 さて、次のステップに移るか)

ユリスは攻撃を捌きながら遠目に取り巻きが居なくなったのを確認すると、目の前のゴブリンを置き去りにしてレイラの元へ戻っていく。

「レイラ、お疲れ様。流石だね」
「ありがとうございます」
「それじゃあ、次のステップだけどまだ行ける?」
「もちろんです!」
「了解。ならまず確認だけど、その杖は杖術ができるタイプ?」
「ええ、一応できますが…?」
「なら次はその杖であいつの攻撃を防ぎながら、ファイアボールで攻撃だ」
「防ぎながら…ですか?」
「そう。耐久を考えると受け流しつつの方が理想だけど今は防げればいいよ。ただ大きく移動はしないでね。
 これが出来ないと後衛が狙われた時にパーティーが崩れやすいからね。
 ほら来たよ。あ、攻撃を3回受けるまでは反撃なしね」
「分かりました」

ダンジョンの魔物にスタミナという概念が有るのかは分からないが、ユリスに散々振り回されたゴブリンは肩が上下に動いており息が切れているようにも見える。
それでも果敢にナイフを何度も振り回してくるが、その攻撃はレイラに全て受け流されてしまう。

「……ハッ!『ファイアボール』!
 なっ…!?」

レイラは先ほどまでの経験から一撃を直撃させたところで終わりだと少し気を緩めてしまう。故にゴブリンがまだ動いていることに気付くのが遅れ、その隙にゴブリンの飛びかかりが彼女を襲う。

「…危なかったですね、『ファイアボール』!
 今度こそ終わりでしょうか?」

が、それもギリギリで防御が間に合った。
とどめの一撃をお見舞いしたレイラは、今度はちゃんと光となって消えるまで杖を構えたまま警戒していた。

「終わったみたいだね。おつかれさま。
 初めてでここまで上手く出来るとは思ってなかったよ」
「いえ、途中で気を抜いてしまいましたしまだまだです。
 それにしても武器持ちのゴブリンだけ直撃したのに1撃で倒せませんでしたし種族でも違ったのでしょうか?」
「いや、種族は同じだったよ。鑑定をすると分かるんだけど、ダンジョンの魔物にはステータスみたいにレベルがあるんだ。
 さっきのは取り巻きがレベル2で、武器持ちが8だったからそのせいだろうね。
 種族自体は同じだから武器はただの個体差という訳」
「そうなのですか…鑑定って結構便利なのですね。お父様から貰えないかしら…?」

先ほどの反省をしていると部屋の中央に突然宝箱が地面から生えてくる。今回のは木箱ではなく、見た目から宝箱とわかる装飾をしていた。

「おっ、あれはボス攻略の報酬かな?
 どうする?レイラが開ける?」
「いえ、今回は私は宝箱の方は辞退します。
 その代わりにこちらを頂いてもよろしいですか?」

そう言って見せて来たのは金属製のナイフだった。
先ほどのゴブリンがドロップした物らしく、ダンジョンボス初攻略の記念にとっておきたいそうだ。

「もちろんいいよ。ならあっちは僕が貰うか。
 …ん、またメダルか。なんかやけに手に入るけどこんなものなのか?
 内容は…『上質』か、これは色々と使えそうだ」

ユリスが手に入れたものは上質のメダルだった。
このメダルは生成時に使用すると入手アイテムのランクや敵の強さが上がるとして、学園生だけでなく探索者や訓練に生成ダンジョンを利用している騎士団などにもとても人気のあるメダルだ。
また、実のところ1回の攻略でメダルが4つも手に入ることなど滅多になく、良くても2つ程度である。今回の成果はユリスの幸運が存分に発揮された結果と言えよう。

「おっ、装置が出て来たね。
 おそらくはこれでダンジョンから出られるんだろうけど、どうする?もう戻る?」
「ええ、帰る方針でいいと思います。
 ここが最深部のようですし、道中を考えたら引き返しても収穫はほとんどないでしょう」
「なら、戻ろうか。
 これも入って来た時と同じ仕組みだろうな…
 レイラ、こっちに来て手を乗せて」

ダンジョンゲートを作った時と同じように装置の上に手を置くと、脱出用らしきゲートが作られる。
2人はゲートができたのをしっかりと確認してから一緒に潜っていくのであった。
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