9 / 68
1章
9. 窮地
しおりを挟む
「どうなさいますか、お嬢様。これで3度目のご招待です」
「お断りして。文面は前と同じでいいわ」
ローズは盛大な溜息をつきながら、さも嫌そうに招待状を指でつまんで「ポイ」とカレンに手渡した。
ああ……面倒なことになったわ……やはり美しさは罪なのね……などと独り言ち、ローズは自分に熱を上げているフィリップ王子のウザさに辟易していた。
しかも……フィリップ王子はただウザいだけじゃない。もっと最悪なことに彼は、乙女ゲーム「ばらクロワルツ」においてヒロインの恋愛対象のうちの一人だ。
何としてでも、関わるべきではない。全力でスルー決定対象だ。
あの日、弱っているローズがさも繊細でたおやかな乙女に見えたのだろう。彼女の美しさに一目ぼれした男は珍しくない。
本当に面倒なことになった。
それにしても……と、ローズはまたもや盛大な溜息をついて思った。
(本当に男ってどうしようもない生き物ね。女の外見しか見ないんだから……)
ズキリと、ローズの胸が痛んだ。前世の記憶がフラッシュバックする。学校の廊下で5~6人の男子がたむろして、通りかかる女子に点数を付けているシーンが。前世のローズである「蕾」が通りかかったとき、その男子たちは「0点?」「いやマイナスじゃね?」「さすがに可哀想だろ、1点くらい入れたれや」などと蕾に聞こえるように言い、下卑た大笑いをしていた。
前世から持ち越した痛みの記憶は、時を経た今も変わらず鮮やかで、鋭い刃物のようにローズの胸を突き刺す。
あの男子たちがローズを目にしたなら、「100点?!」「いや、1000点だろ!!」「むしろ点数なんか意味ない、女神だ!!」などとはやし立てただろう。
皮肉なものだ。こんなにも美しく、一瞬で男を魅了するローズが、容姿への心無い悪口を浴びせられる苦痛と悲しみを知っているとは。
(綺麗に生まれたというだけで……人は無条件に私に好意を寄せる……)
逆に醜く生まれた者に、人は容赦ない。残念な外見を持つ者の人生のハードルは、理不尽なほど跳ね上がる。そこに愚かさが加われば、もう絶望的なほどだ。
(それでも私は……)
「蕾」は、そんな人生を呪わずに、懸命に生きようとしていた。頭も顔も悪いけれど、せめて心は誇れるように、自分に恥じない生き方をしようと……。行いが正しければ、いつか報われる日がくるかもしれないと――そう自分に言い聞かせて、一日一日を自分にできる精一杯の努力で生きていた。
そして、何一つ報われることなく、死んだ。
「ローズ、ローズはここにいるのか?!」
暗い顔で前世の記憶を覗いていたローズは、ハッとして顔を上げた。目の前に父が立っていて、何やら憤慨している。
「あら……お父様、お帰りでしたの? 王宮にいらしていたのでは……」
「大急ぎで帰って来たのだ!! おまえ、王太子レジナルド殿下とフィリップ殿下からのご招待をことごとく断っているそうだな?!」
「ええ。しばらく社交界には顔を出さないことをお父様も承諾してくださったではないですか」
王子となると話は別だ、とフィッツジェラルド卿は顔に筋を浮かべて叫んだ。
今日王宮で二人の王子に呼び出されたフィッツジェラルド卿は、ローズが王子の招待をことごとく断っていることを初めて知り、王子たちにやんわりと責められたらしい。
ローズ嬢のお体が良くないなら王室の優秀な医者を遣わせましょう、とまで言われ、断るのに四苦八苦したそうだ。
「とにかく、明日の宵、王家の馬車が迎えに来る。王室主催の舞踏会に、フィリップ殿下がおまえをエスコートしてくださるそうだ。必ず出席するように、よいな!!」
えええええええええ……っ!!!!!!!
ローズは心の中で悲鳴を上げ、絶体絶命の窮地に立たされた。
「お断りして。文面は前と同じでいいわ」
ローズは盛大な溜息をつきながら、さも嫌そうに招待状を指でつまんで「ポイ」とカレンに手渡した。
ああ……面倒なことになったわ……やはり美しさは罪なのね……などと独り言ち、ローズは自分に熱を上げているフィリップ王子のウザさに辟易していた。
しかも……フィリップ王子はただウザいだけじゃない。もっと最悪なことに彼は、乙女ゲーム「ばらクロワルツ」においてヒロインの恋愛対象のうちの一人だ。
何としてでも、関わるべきではない。全力でスルー決定対象だ。
あの日、弱っているローズがさも繊細でたおやかな乙女に見えたのだろう。彼女の美しさに一目ぼれした男は珍しくない。
本当に面倒なことになった。
それにしても……と、ローズはまたもや盛大な溜息をついて思った。
(本当に男ってどうしようもない生き物ね。女の外見しか見ないんだから……)
ズキリと、ローズの胸が痛んだ。前世の記憶がフラッシュバックする。学校の廊下で5~6人の男子がたむろして、通りかかる女子に点数を付けているシーンが。前世のローズである「蕾」が通りかかったとき、その男子たちは「0点?」「いやマイナスじゃね?」「さすがに可哀想だろ、1点くらい入れたれや」などと蕾に聞こえるように言い、下卑た大笑いをしていた。
前世から持ち越した痛みの記憶は、時を経た今も変わらず鮮やかで、鋭い刃物のようにローズの胸を突き刺す。
あの男子たちがローズを目にしたなら、「100点?!」「いや、1000点だろ!!」「むしろ点数なんか意味ない、女神だ!!」などとはやし立てただろう。
皮肉なものだ。こんなにも美しく、一瞬で男を魅了するローズが、容姿への心無い悪口を浴びせられる苦痛と悲しみを知っているとは。
(綺麗に生まれたというだけで……人は無条件に私に好意を寄せる……)
逆に醜く生まれた者に、人は容赦ない。残念な外見を持つ者の人生のハードルは、理不尽なほど跳ね上がる。そこに愚かさが加われば、もう絶望的なほどだ。
(それでも私は……)
「蕾」は、そんな人生を呪わずに、懸命に生きようとしていた。頭も顔も悪いけれど、せめて心は誇れるように、自分に恥じない生き方をしようと……。行いが正しければ、いつか報われる日がくるかもしれないと――そう自分に言い聞かせて、一日一日を自分にできる精一杯の努力で生きていた。
そして、何一つ報われることなく、死んだ。
「ローズ、ローズはここにいるのか?!」
暗い顔で前世の記憶を覗いていたローズは、ハッとして顔を上げた。目の前に父が立っていて、何やら憤慨している。
「あら……お父様、お帰りでしたの? 王宮にいらしていたのでは……」
「大急ぎで帰って来たのだ!! おまえ、王太子レジナルド殿下とフィリップ殿下からのご招待をことごとく断っているそうだな?!」
「ええ。しばらく社交界には顔を出さないことをお父様も承諾してくださったではないですか」
王子となると話は別だ、とフィッツジェラルド卿は顔に筋を浮かべて叫んだ。
今日王宮で二人の王子に呼び出されたフィッツジェラルド卿は、ローズが王子の招待をことごとく断っていることを初めて知り、王子たちにやんわりと責められたらしい。
ローズ嬢のお体が良くないなら王室の優秀な医者を遣わせましょう、とまで言われ、断るのに四苦八苦したそうだ。
「とにかく、明日の宵、王家の馬車が迎えに来る。王室主催の舞踏会に、フィリップ殿下がおまえをエスコートしてくださるそうだ。必ず出席するように、よいな!!」
えええええええええ……っ!!!!!!!
ローズは心の中で悲鳴を上げ、絶体絶命の窮地に立たされた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,326
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる