悪役令嬢の最強コーデ

ことのはおり

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3章

5. 何だか賑やかな冒険道中

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 一行は「りゅう牙峰がほう」の検問所を無事に通り、しばらく道なりに山を登った後、シャーロットの先導でコースをそれた。

「どう? ロッティ、『マンドラゴルァ』の気配はあって?」

「はい、ローズ様。何となくこっちかなって、思います!」

 一行はシャーロットの導くまま、山の奥へと進んだ。『マンドラゴルァ』の自生場所は、常人には見つけにくく、勇者の子孫であるシャーロットの勘にたよるしかない。
 道すがら、ローズたちはギルバートに「奇跡の薬」のことを話した。もちろん他言無用と何度も念を押して。ギルバートは薬の話を聞くと真面目な顔で言った。

「そうでしたか。レジナルド殿下の非運は、これで終わるのですね。協力できて、嬉しく思います。――シャーロット様」

 ギルバートから話しかけられると思っていなかったシャーロットは、「はっ、はいいぃぃっ!」と素っ頓狂な声を上げた。ギルバートはそんなシャーロットに優しく微笑んで言った。

「ついにあなたの功労の、花咲くときがきましたね。レジナルド殿下はきっと、立派な次代の王となられるでしょう。でもそれは、誠実で清らかな、あなたの支えがあればこそです」

 シャーロットは顔を真っ赤にして、はにかんだ笑みをギルバートに返した。
 ローズは、へえ……と、少し感心した。ギルバートは結構、色々なことを正確に把握している。さすがレジナルドに選ばれてお傍に仕えているだけあるわ、ただのアスリートホスト騎士じゃなかったのね……と、ローズはギルバートの評価を見直した。

 そうやってしばらく進むと、辺りには一行以外、人の気配をまったく感じなくなった。そこでローズとシャーロットはやっと兜を取った。

「ああ~、重かった! 騎士っていつもこんなのかぶってるのね……首に鉄骨でもはいっているのかしら」

「確かめてみます? ホラ、ローズ様、触ってもいいですよ?」

 そう言ってギルバートは男らしい筋の浮き上がったセクシーな首元を露出させ、ウインクを飛ばしてきた。
 そんなギルバートをガン無視する必要はなかった。なぜならシュリがすぐさまローズの目の前に近づいてきて視界からギルバートを消してくれたからである。

「兜を俺に。ローズ様」

 シュリはそう言うと、ローズの脱いだ兜を受け取って肩にかけた。兜だけでなく、ローズの荷物は全部シュリが背負い袋に入れて持ってくれているのだ。そのおかげでローズは手ぶらである。

「ありがとう、シュリ」

 ローズが礼を言うと、シュリは微笑んだ。そして背負い袋の中から、イヤーマフを取り出す。それは両耳がすっぽりと覆われるヘッドホンのような形状をしている。

「どうぞ、ローズ様。首にかけていつでも耳に当てられるようにしておいてください。今はまだ装着してはいけませんよ。音がまったく聞こえなくなって、危ないですから」

「ええ……わかったわ」

 そのイヤーマフは、魔法植物『マンドラゴルァ』の脅威を避けるためには必要不可欠なアイテムなのだ。
 『マンドラゴルァ』は引き抜くときに、人の精神に打撃を与える大音量の恫喝どうかつを叫ぶ。このイヤーマフは見た目は普通の耳あてだが、実は『マンドラゴルァ』の危険な恫喝を防ぐためのスーパースペシャル耳栓なのだ。これなしでは、『マンドラゴルァ』を引き抜くことはできない。シュリはそれらの情報を事前に集め、対策を立ててくれたのだ。
 シュリはあらかじめ用意していた人数分のイヤーマフをみんなに配り、更に最後の一つをギルバートに渡して言った。

「予備を一つ用意しておいてよかった。どうぞ、ギルバートさん」

「ギルバートと呼び捨てでいいぜ。ありがとな。それにしてもあんた、予備まで用意しておくとは、ものすごく有能だな!!」

 ギルバートはシュリからイヤーマフを受け取ると、まじまじとシュリを見た。

「……ん? あんた、どこかで会ったよな……?」

「ええ。去年の聖騎士選抜試合で」

「あつ! あんた、そうか! フィッツジェラルド家の従僕の! 試合で優勝したのに、聖騎士になるのを辞退した、あんたか!!」

「『あんた』ではなく、シュリという名前があるのよ、ギルバート」

 ローズがそうたしなめると、ギルバートは素直に謝罪した。

「ああ、すまん、すまんシュリ! しっかしなあ、シュリ、なんで聖騎士にならなかったんだ? あれほど見事な剣さばき、馬上の槍の扱い、俺は見たことないぞ。当然聖騎士に入団するだろうと思って、手合わせできる日を楽しみにしてたのに、がっかりだぜ」

「もとから聖騎士になるつもりはなかった。旦那様がどうしても出て欲しいと仰るから出場しただけだ」

「お父様は、シュリがとても強いので自慢したかったの」

 ローズがそう口を挟むと、ギルバートは納得したように頷いて言った。

「ああ……そうだろうなあ、あれ程の腕前なら。いやあ、しかし、もったいないなあ……、シュリ、従僕でいるより聖騎士の方が色々と不自由しないぜ? 今からでも入団しないか?」

 確かに、ローズもシュリが聖騎士にならないと言ったとき、びっくりした。
 聖騎士は庶民にとっては憧れの職業だ。待遇面は言うに及ばず、武功を立てれば王から「響」の位を授かることもある。男子なら誰しも、聖騎士になることを夢見る。
 しかし聖騎士の試験は非常に難関な上、高身長・容姿端麗であることが必須。狭き門なのだ。その点、シュリなら申し分ない。フィッツジェラルド卿もローズも、シュリの将来のことを考えて聖騎士になることを薦めたが、シュリ本人は首を縦に振らなかった。
 その理由というのが――

「聖騎士には興味ない。俺はローズ様のお傍を離れるわけにはいきませんから。俺が仕えるのは、この国の王でも王家でもない。ローズ様ただ一人と決めています」

 そう、あのときも、彼は迷いのない目と口調で、きっぱりそう言ったのだ。
 今再び、シュリはうっとりするほど熱い視線をローズに注ぎ、美しい顔を微かに紅潮させて、愛の言葉とも取れる宣言をローズに投げつけた。
 クラッ……と、ローズはめまいを感じた。シュリの眼差しと声に抗える女など、この世にいないに違いない。
 その様子を間近で観察していたギルバートは、「ヒュゥ~」と下品な口笛を吹くと言った。

「なるほどな、納得したぜ、シュリ。確かにこれほど守り甲斐のある女性が傍にいるんだ、王家など屁だよな」

 屁呼ばわりされたフィリップが、怖い顔でギルバートに詰め寄った。

「おい、ギルバート、誰が屁だって?」

「おわっ、今のは忘れてください、フィリップ殿下!! 不敬罪で俺を弾劾したりなさいませんよね?ね?」

 フィリップは鷹揚おうように笑いながら、ポンとギルバートの肩を叩いて言った。

「……まあ確かに、ローズに比べたら屁だよなぁ……」

 気の抜けた感想を零したフィリップに、ローズは眉をしかめた。屁、屁、言わないでほしい。男の人って、ほんとデリカシーに欠けるんだから!!と思いながら。
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