悪役令嬢の最強コーデ

ことのはおり

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4章

8. 伝説の最強コーデ “リライトザフェイト”

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 ローズが目を開けると、シャーロットが涙のにじむ目でこちらを覗き込んでいるのが見えた。手が温かい。ローズの右手は、しっかりとシャーロットに握られ、左手は、ニルとカナが握っていた。ポポリスたちが勢ぞろいして、心配気にローズを見つめている。ベッドの上で横たわるローズは、ぼんやりと視線を彷徨さまよわせながら言った。

「ああ……みんな……。私……悪い夢を……見てたの……ここは、どこなの?」

「ここは私の住む古城の中よ。あなたを魔王から守るために、ここに連れてきた。ローズ、覚えてる? レジナルドが、魔王に操られていたこと」

「ああ……ロッティ、レジナルドは、どうなったの? 彼の傍にいなくていいの?」

「レジーの傍には、一番上の弟を行かせたわ。あの子はとても、頼りになるのよ。最近はおじさまやギルバートから剣の手ほどきも受けていて、メキメキ強くなってる。だからレジーは大丈夫。それに忘れたの、ローズ? 私の友達一番の枠は、あなた。ローズ、今私の最優先は、あなたよ」

「ロッティ……」

 ローズは溢れ出す涙を止めることが出来なかった。
 シャーロットは袖口でローズの涙を拭くと、真剣な口調で言った。

「聞いて、ローズ。夢なら良かったけど、そうじゃなかった。シュリさんは、命を落としたの。でもローズ、まだ絶望するには早いわ。シュリさんを取り戻すチャンスが、一度だけある」

「…………シュリを…………取り戻す…………」

「そう。きっとシュリさんの元にも、魔王の手が伸びていたに違いないわ。あいつはローズが欲しくて、彼を殺したのよ。ローズ、泣いている暇はないわ。彼を、取り戻しにいきなさい!」

 ローズの手を握るシャーロットの手に、力がこもる。

 シュリを、取り戻す。
 その言葉の意味が、じわじわとローズの心中に沁み込んでゆく。

 そんな方法があるなら――。
 ローズはしっかりと目を見開いた。

(迷いはしない。全力で、私は立ち向かう!)

 そう思ったローズの心に、希望が灯る。
 それを見た8人のポポリスたちは、ベッドから起き上がったローズを取り囲んだ。
 そしてポティナがローズの前に出て、高らかに宣言する。

<ローズ、遂にこの日が来たっぽ! もう準備はできてるっぽ! 
 我々はポポリス伝説級コーデ、“リライトザフェイト” を作成するっぽ!>

「“リライトザフェイト”……運命を、書き換える……」

 ローズの呟きに、ポポリスたちは頷いた。
 ローズの元に集まった8人のポポリスたちは、ポティナを中心にして、みなぎる決意と高まる興奮で全身からキラキラと光を放っている。

<“リライトザフェイト” を仕立てるための材料は7つ。まず、この布地っぽ!>

 ポティナは見たこともない美しい布地をローズの膝の上に置いた。その布地はポティナたちと同じように、キラキラと光っている。

<たった今、織り終えたっぽ。8人のポポリスの毛と、幻の”古代マジックコットン”の糸で織り上げた、伝説の布地っぽ!>

 ああ……何てこと!とローズは感激のあまり、卒倒しそうになった。もふもふだったポポリスたちの毛がずいぶん薄い――ほとんどハゲだと思っていたら、布地を織るために大量に刈り込んだのだ!
 またもや目から涙を溢れ出したローズに微笑みかけながら、ポティナは次々と材料をローズに差し出した。小さな容器に、赤い液体が入ったものが3つ。

<勇者の血、力ある魔女の血、清らかな双子の血!>

 ローズは息を呑んで、傍にいるシャーロットと双子を見た。三人とも、腕に包帯を巻いている。

<勇者の血は、時を翔る勇気を、力ある魔女の血は、時を遡る力を、清らかな双子の血は、時を超えた魂と過去の肉体を再び繋ぐ絆を、魔法のコーデに付与するっぽ!>

 ポティナの説明を聞きながら、ローズは双子の頬に手を添え、シャーロットを仰ぎ見た。

「あなたたち、このために……血を……」

 双子がローズをギュッと抱擁する。そしてシャーロットはにっこり微笑むと、言った。

「さっきまで、ヴァネッサもここにいたのよ。『アホな弟が、本当にすまないことをした』って、謝っていらしたわ。……そして、これ、あなたのご両親から預かったの」

 シャーロットが取り出したのは、葉を茂らせ花と実をいくつも成した聖樹の枝だった。それは名誉ある五響の家柄である、フィッツジェラルド家の家宝。ずっと大切に守られてきた神聖な宝である。枝は歌うように、始終心地よい音を奏でている。その音色を聞いているだけで、みるみる気分が良くなってきた。
 シャーロットはそれをローズの膝元に置くと、優しい声で言った。

「『愛娘のためとあれば、家宝を失って先祖の不興を得ようとも、構わない』――フィッツジェラルド卿は、そう仰って、あなたにこれを託されたの」

 ローズが言葉もなく感動に震えていると、ポティナが言った。

<ローズと出会ったとき、このポティナは思ったっぽ。いつか、伝説級コーデを手掛けることができるかもしれないっぽ!と。 ローズは栄誉ある五響の家柄のお嬢さん。そして伝説級コーデに必要な材料には……>

 ポティナは聖樹の枝をシャラン、と鳴らしながら手に持ち、続きを言った。

<聖樹の葉、聖樹の花、聖樹の実が必要っぽ! これで貴重な素材の6つまで揃ったっぽ!>

 ポティナは鼻息を吹きだすと、続けて言った。

<必要な材料は、あとひとつっぽ! ユニコーンのたてがみ!>

 ローズはハッとして、ユニコーンに言われたことを思い出した。『奇跡の薬』の材料にするために、ユニコーンのたてがみをもらいに行ったときのことを。

「必要になるであろう」――そうユニコーンは言って、シャーロットだけでなくローズにもたてがみを切り取るようにすすめた。あの世とこの世の狭間に住むあの聖なる獣には、未来が見えていたのかもしれない。

 ローズはユニコーンのたてがみを小さな袋におさめ、お守りのように持ち歩いていた。ローズからそれを受け取ると、ポポリスたちは宣言した。

<いざ、我ら、“リライトザフェイト” に挑戦せん!! ぽーーーーーーーっ!!!>

 8人のポポリスたちは揃って拳を振り上げると、材料を手に部屋の片隅へと飛び去った。そこには裁縫のための道具がすべて揃っていて、ポポリスたちは凄い勢いで作業を始めた。
 
 その日のうちに、伝説級の魔法のコーデ “リライトザフェイト” は完成した。

「うわぁ…………」

 みんな言葉もなく、マネキンに飾られたコーデ一式を見つめた。
 それは人の言葉では言い表せないほど、美しい衣装だった。

 シンプルなAラインのドレスはキラキラと虹色に光りを放ち、ユニコーンのたてがみから紡がれた糸で、不思議な模様があちこちに刺繍されている。
 そして胸元にはポポリスたちの秘法、“血の結晶化技術” で作られた赤い雫型の宝石がいくつも鈴なりになった豪華なネックレスで飾られ、頭には聖樹の葉と花と実でできた神秘的なティアラが輝いている。

 それらは神秘と魔法の寄り集まった、ポポリスたちの紡いだ奇跡そのものだった。
 8人のポポリスたちの大切な友、ローズの為だけに作られた、ただ一度の魔法だった。
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