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kindle版 書き下ろし 試し読み

◆レグルスルート◆kindle版 書き下ろしエピソードの試し読み

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~~~~~~~~お知らせ~~~~~~~~~
電子書籍化に伴い書き下ろしたレグルスルートの一部を、試し読みとしてこちらに載せています。書き下ろし全編は、kindle版5巻に収録していますので、良かったら続きを読みに来てくださいね。レグルスルートは2万6000文字ほど書き下ろしたので、読み応えあるかと思います。二人のハッピーエンドをお楽しみください♪
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8-22 レグルスVer.「あなたとの未来を夢見てる」

「できたぁっ!」

 人形用のドレスを6着分完成させた私は、机に並べて眺めた。
 我ながら、素晴らしい出来栄えだ。ニマニマしちゃう。
 これを着たあの子たちは、どんなに可愛らしいだろう――早く見たい。

 このドール用ドレスをレグルスから頼まれたのは、二カ月ほど前のことだ。
 彼は、擦り切れてあちこちほつれているドレスを私に見せながら、言った。

「星の王女、という昔話があるの。星の国に住む、6人の王女様の物語でね、あの子たちにぴったりだから、よく演目に取り入れるのよ。誰もが知ってる心温まる物語で、子供はもちろん大人受けもいいし、上演時間も30分程度で、ちょうどいいの。――で、このところリリザの町の広場で時々披露してたんだけど、練習も含めて何度も演じているうちに、衣装がボロボロになってきてね……。ミト、いつでもいいの。忙しい売れっ子のあなただもの、割り込みするつもりはないわ。今抱えているお客様からのオーダーの一番後に、ワタシの注文を入れて欲しいの。もちろん期限は定めない。だから、どうかお願い」

 そんな風に頼まれて、正直言って私は――真っ先に仕立ててみたくなった。

 星のドレス。
 なんてキラキラな響き。デザインを想像するだけで、ワクワクする。
 私はお客様のオーダー品を優先しながらも、わずかに空いた時間を見つけては、星のドレスの制作を少しずつ進めた。

 そしてクルルの急成長が始まり、私たちの冒険者としての活動が一時休止を迎えたこの一カ月あまり。私はこの期間を、思い存分、仕立ての仕事に費やすことにしたの。
 たまっているお客様からのオーダーはもちろん、クルルの成長後に着るための服、ディザとクルルのためのお揃いエプロン、生活に必要な数々の布製品、そして――星のドレス。
 レグルスは割り込みするつもりはない、と言っていたけど、実は私、こっそり先に仕上げちゃった。だって人形用のドレスは、本当に楽しいの。これは趣味、そう、趣味であって、息抜きであって、うん、楽しいから自分の余暇を利用して仕立てたのであって、贔屓で割り込ませたんじゃないの! それにあの子たちは、もう私の家族も同然だもん。家族のための仕立物は、別枠! そうよ、初めから別枠だから、いいの! 決して、特別扱いでレグルスのオーダーを優先させたわけじゃないの!
 そんな風に私は、誰も聞いていない言い訳じみた主張を心の中で呟きながら、ルンルン気分で星のドレスを仕立てた。

 レグルスのバッグの中で眠っているとき、あの子たちはリカちゃん人形と同じぐらいの小さなサイズなので、ドレスもそのサイズで仕立てる。ドールたちは必要に応じて実体化するんだけど、そのときは身長1メートルぐらいの少女の姿になり、着ているドレスも体に合わせて見事に再現されるのよ。それはそれは、可愛いの。いつもあの子たちが実体化するときは、その可憐な姿に目を見張る。

 ドール用の衣装は小さいので生地や服飾素材は少なくて済むという利点がある反面、縫い代の始末や極小サイズのカーブ部分の縫い合わせなど、工夫が必要になってくるの。
 人形服なんて簡単でしょ、なんて声が外野から聞こえてきそうだけど、侮るなかれ。これがどうして、結構難しい。けど、ここが腕の見せ所。闘志がフツフツと湧いてくる。

 あの子たちの服を仕立てるのは、もちろん今回が初めてじゃない。
 みんなと暮らし始めた最初の頃は、まだ全然仕立屋のオーダーが入ってなかったから、レグルスも遠慮なく注文してくれたし、<お針子>のレベルアップのためにも好都合だったから、私は人形用の服を何着も仕立てた。だからだいぶ、コツは掴めてきてる。

 今回の星のドレスは、3種類の布地を使って制作した。いずれも<お針子魔法>の<生地作成>で作りだした布地を使っている。
 ベースは濃紺色の、シルクのような上質生地。その上にシフォン生地にそっくりな、透け感のある薄く軽い生地を重ねる。色は白から紺色のグラデーション。とてもきれいなの。ふんわりボリューミーなシルエットになるようデザインしたから、ドールたちが回ったり踊ったりしたら、ふんわり広がってきっとすごく可愛いと思う。
 そして最後、一番上に重ねる生地は、最近覚えた私のとっておきの秘技、<お針子魔法>の上級技である、<オリジナル生地作成>を駆使して作成した物。
 この生地は、何度も失敗しながら作り出した、私のこだわりの逸品。
 濃紺色に、キラキラした星雲が幻想的かつ豪華に描かれた、美しい『光り輝く布』なの。この生地をオーバードレス仕様にして、スカート部分は優雅なドレープを入れ、左右に流れるようなシルエットに仕上げる。
 そしてこの3枚の布地が鮮やかなハーモニーを奏でるように、重ねてゆく。
 更に、宝石みたいな極小ビーズを胸元に飾り付け、星のドレスに相応しい煌びやかさを追加して、完成。

 我ながら、力作。
 星空のように幻想的で、厳かな祈りが込められたように神秘的、そして少女の夢を具現化したかのような、キラキラした可愛らしさ。
 これを着たあの子たちは、どんなに可愛いだろう。
 そして。

「きっとレグルス、すごく喜んでくれる」

 彼の笑顔とはしゃぐ姿を想像して、私は胸を高鳴らせた。
 さっそく私は、ドレスをしわにならないよう箱に詰めると、それを持ってレグルスを捜しに行き――家中を巡った後、裏庭でドールたちと舞っている彼を見つけた。
 舞台稽古だろうか。レグルスは愛用の真剣を手に持ち、舞い踊っている。
 レグルスとドールたちの、剣と光の舞だ。
 実体化したドールたちは踊りながら、魔法で生み出された光る短剣を、絶妙のタイミングでレグルスに向かって投げつける。それをレグルスが手に持った剣で弾き返すと、光が明滅し、弾き返された短剣が花に変わって散りばめられていった。

「わ……。あ……すごい。え……」

 私はドキドキしながら、彼らの舞に見惚れた。
 レグルスとドールたちは、まるで一体化したみたいに、息がぴったり合っている。少しでもタイミングがずれれば、レグルスはドールの光の剣に打たれることになるのに、彼は一度も外さなかった。彼らはもう何度も稽古を繰り返しているのだろう。
 やがてレグルスが頭上高く差し上げた剣に、ドールたちから一斉に光が放たれ、レグルスは光に包まれてくるくると華麗に回り出す。彼の派手な衣装の飾りが、動きに合わせて優雅に舞った。

「あ…………」

 もう、言葉もない。
 素晴らしすぎて、私は息を呑んだ。

 ――なんて、美しい舞。

 私の視線はレグルスに、釘付けになった。

 なんて――美しい人だろう。
 整ったその容貌だけでなく、その真摯な姿勢、注がれる情熱、ひたむきな生き方、秘められた悲しみ、彼そのものが、舞を通してあふれ出している。
 本当に、美しい。

 言葉もなく、私の口からは溜息だけが零れる。

 裏庭に出る戸口に佇みながら、私は微動だにせず彼を見つめていた。
 やがて動きを止めたレグルスは、ドールたちに向かって声を上げた。

「いいわ、最高ね。みんな、とてもいい動きだったわよ、完璧」

 いつもの女口調。でもその声は、いつものちょっと高めに発音した作り声ではなく、彼の地声だった。男の人の、低い声。レグルスの地声は、彼のきらびやかな容姿にシンクロしたかのような、艶のある美声だ。
 地声が出ている、ということは、レグルスはとても真剣な姿勢で、稽古に挑んでいるということなのだろう。
 レグルスはドールを一人一人ねぎらうと、続けて言った。

「では、もう一度。最初から」

 再び、彼らの剣と光の舞が始まった。
 レグルスの汗が、光の粒のようにキラキラと飛び散る。
 その手に持っている剣と同じように、鋭く精悍な表情で舞うレグルスは、いつもの柔らかい雰囲気とは別人のようだった。
 怖いほど真剣に鍛錬に励む彼は、いつもとは違ったストイックな一面を見せ、私の心を魅了する。

 そこは、いつもの裏庭なんかではなく。
 美しい剣の化身と、光の妖精が舞い踊る、神々しい舞台そのもの。

 私は声もかけられず、ただ立ち尽くして、光り輝く彼らを見つめることしかできなかった。
 そうして、一連の舞が2ターン目を終え、レグルスが息を整えていたとき。ふいにアダフェラと目が合って、ドールたちもレグルスも、私に気付いてしまった。
 ドールたちが嬉しそうに私に向かって飛んでくる。そして、私が持っている箱の中の衣装を見て、顔を輝かせた。ドールたちの声はドールマスターであるレグルスにしか分からないけれど、彼女たちが喜びの声を上げていることは私にもわかる。
 汗を拭きながら近づいてきたレグルスは、いつものオネエ調で私に話しかけてきた。

「え、ちょっとミト、いつから見てたの? 声をかけてくれたら良かったのに! 邪魔なわけないわ、ミトならいつでも大歓迎よ! え、ちょっと待ってそれ何、え、え、嘘でしょ、この子たちのドレス、もう仕上げてくれたの?!」



~~~この続きはkindle版でお楽しみください~~~
Amazonとの契約により、別サイトに掲載できる分量に制限がありますので、全部載せられなくてごめんなさい。
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みんなの感想(236件)

太真
2023.08.25 太真

お久しぶりです(*⌒∇⌒*)前作品を楽しく拝読していました♥️今回も楽しみです(゚∀゚*)(*゚∀゚)ワクワクチェックの指摘が入っても焦らすに作者サマの世界を描いてください❗(o^-^)🚩

ことのはおり
2023.08.25 ことのはおり

太真さま、コメントお寄せいただいて、ありがとうございます!(*≧∇≦)♡
星空乙女(以下略)、読んでくださっていたそうで、本当にありがとうございます!! 今回、加筆修正してカクヨムに上げ直すことにしましたが、またお付き合いいただけましたら嬉しいです。新作じゃなくてごめんなさい(>_<)
星空乙女の投稿でカクヨムに慣れてきたら、新作発表したいなぁと思っておりますので、これからもどうぞよろしくお願いします!(ぺこり)

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秦野 衣緒鯉

仕事の休憩時間や移動時間、休みの日とか寝る前とかもう、ありとあらゆる時間を使って一気読みしました!w
すごく面白かったし、感動の場面もあって泣いたり笑ったり、みんなと一緒に先輩に怒ったりと忙しく、楽しく読ませていただきました。
ネブラルートがあると言うことは、他のルートもあると期待してしまいまして、
厚かましいとは思いますが、
ここに私の希望(願望)を置き去りにしていきます!w

【できればコンラートルートが見たいなーとか、ネブラルートのその後のお話
(子供の話とか、父と母の魂の話とか)
グルルとディザのその後なんかも知りたいです!
もし、よろしければ是非ご検討ください】

ことのはおり
2020.02.29 ことのはおり

うわぁ……とっても素敵なご感想、ありがとうございます!
貴重な隙間時間をたくさん使って一気読みしてくださったそうで、すごくすごく嬉しいです!!!
こういう温かいご感想をいただくと、「物語を書いて発表して本当に良かった(ホロリ)」と心の底から思います。いただいたご感想は、私の宝物です。また物語を紡ぐための活力に致します。

それに、コンラートルートをご所望いただいて、嬉しいです! コンラートって正統派王子なのに影が薄い気がして、ちょっと可哀想な気がしていたのです(^_^;) だから読者さまの中にコンラートルートを知りたいと思ってくださる方がいて、すごく嬉しい!! 
もちろん他のご要望も、とてもとても嬉しいです!!
こうしてご要望をお寄せいただき、物語への反応をいただくと、素人ながら作家冥利に尽きます。創作というのは孤独な作業のため、読者さまからのご感想をいただくと本当に励みになります。

いつになるかはわかりませんが、読みたいと仰ってくださる方がいるのだから、いつかまた続きや番外編をしたてめて、世に送り出したいな、と思います。
何しろもう、書きたいお話が多過ぎて、追いつけないのです(^_^;) これが生業だったらそんなに幸せなことはないと、しみじみ思います。そしたらもっとたくさん、皆さんにお話をお届けできるのにな(´ω`*)

素敵なご感想をいただいて、本当にありがとうございました!
今後の執筆活動の励みにさせていただきます(´▽`*)♡

解除
タチアオイ
2020.01.20 タチアオイ

楽しく拝読させて頂きました。
お父さんの所では号泣しました(꒦ິ⌑꒦ີ)
ネブラルートに別れるって事は他ルートもあるのかな?って改めて見たら完結とあって!?てなりました。
いつか推しのレグルスルートが読めれると信じてお気に入りブクマポチします。

ことのはおり
2020.01.20 ことのはおり

すごく嬉しいご感想を、ありがとうございます!!!
私の物語に同調して泣いてくださる方がいるなんて、ものすごく感激です!
素人ながら作家冥利に尽きます(´▽`*)♪

レグルス推しの読者さまが新たに現われるなんて思いもよらず、レグルスは感激のあまり涙を流して絶叫しております。「ついにワタシの時代が来たわーーーーーっ!!」と。
今のところ一旦「完結」となっていますが、また時間があればレグルスルートも書きたいな、と思ってます。そのときはまた「連載中」に戻るかと。
他にも書きたい物語がたくさんあり、今も他の連載を始めてしまったので、いつレグルスルートや番外編に着手できるかわかりませんが、気長に待っていただけると嬉しいです。生きている間に何とか……世に送り出したいとは思っているんですが、何とも人生とは思い通りにならないものでして……(苦笑)

とっても嬉しいご感想をお寄せいただいて、本当にありがとうございました!!

解除
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