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一章 入学旅行一日目

1-21b 勝敗の行方 2

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 霧は答えの出ない問題と格闘するのを諦めて、表現バトルに意識を戻した。ちょうどレフリーの合図で、アデルが表現を始めたところだ。彼女は息を吸い込むと、透き通った声で歌うように表現を奏でた。

「楽しい今日の思い出を、封じ込めたガラスの向こう。巧みな複製、見事な再現、華麗な造形。さざめく声すら聞こえてきそう、笑顔も花咲くセセラムの集い」

 アデルが表現を終えると、ややあってワッと拍手と喝采かっさいが沸き起こった。
 霧もまた、両手を打ち鳴らしアデルを褒め称える。

「いいぞぉ、アデル! さすがだ、アデル! 好き! 最高! 素晴らしい!! その調子で最後までぶちかませぇ~!」

 アデルは後方に控えている霧を振り返り、「ちょっとキリ、うるさいわよ! 下品な応援やめてよね!」と口をぱくぱくさせている。声を出せばコート内に拡声されてしまうからだ。言葉でこそ霧を叱咤しったしてはいるが、しかしそのアデルの表情には怒りの影はなく、むしろ嬉しそうだ。誇らしげに頬を紅潮させ、凛々りりしく胸を張る彼女の姿に、霧は心打たれていた。

「素敵ぃ……アデル! 恰好可愛かっこきゃわいい! 最高!! 尊い!! よきよきよき!!」

 霧が目を潤ませ小声ながら力強くそう呟いていると、審判妖精がアデルの得点を表示させた。同時にレフリーの声が上がる。

「おお、なんと、301点です!! 素晴らしい高得点です!! さすがは魔法士学園の新入生!!」

 おおっ!と、コート内が再び歓声に包まれる。
 続けて観客の配点が加わり、アデルは圧倒的な差をつけてガスティオールに勝利した。

「ちっくしょおぉっ! 覚えてろ、エセダリアのアデルめ! おまえらのインチキなんぞ、すぐに暴いてやるからな!」

 コート中に拡声されたガスティオールの罵声ばせいを聞いて、「インチキはてめぇだろ……」と霧が呟くと、隣に座ったリューエストも真剣な顔でうなずいた。それを見て霧は彼に声をかける。

「あ、やっぱり、リューエストもおかしいって思う?」

「うん。変だね。表現バトルで55点しか取れない者が、正規の辞典魔法士を育てる魔法士学園に、入学できるのはおかしい。表現が不得手だとしても、ある程度は『辞典』の力で点数が取れるはずだからね」

「だよね、だよね」

 リューエストの同意を得てホッとした霧が、他のツアーメイトに視線を送ると、みんな黙ってはいるが神妙な雰囲気で考え込んでいる。霧は、賢者のような風貌ふうぼうのトリフォンあたりに意見を伺いたくなったが、二回戦目が始まったので口を閉ざした。

 次のアデルの対戦相手は、見るからに賢そうな雰囲気の、若い女性だった。アデルより5つか6つぐらい年上だろうか。
 1班の面々を改めて観察すると、いずれも優秀そうなオーラがにじみ出ていて、ガスティオール以外はみな冷静な態度だ。アデルに負けたガスティオールが怒りに染まって吠えているのを、静かにいさめている。その様子はまるで、粗暴そぼうでわがままな子供をあやす、困り切った大人の図そのものだ。

 その後、着々と競技は進行し、第二試合もアデルが勝利を得る。総点は僅差きんさで、アデルはもちろんのこと、対戦相手の1班の女性もなかなか強かった。
 アデルは善戦し、3人目まで勝ち抜いた。しかし4人目で敗退し、続けてアルビレオが対戦者としてコートに上がる。1班4人目の男性はなかなか強く、アルビレオも敗退、続けてリリエンヌも敗退。次にコートに上がったトリフォンが、4人目の男性に勝利。
 新入生の決勝バトルは白熱化の様相ようそうていしてきた。観覧席はかなり盛り上がって、成り行きを見守っている。
 やがて5人目の男性に惜しくも僅差で敗れたトリフォンに代わって、リューエストがコート入りした。彼が5人目の男性に勝利すると、コート内に歓声が沸き起こる。リューエストはノリノリで拍手喝采にこたえたのち、後方で控えている霧に向かって、いい笑顔で手を振った。霧はそれに応え、リューエストに声援を送る。

「いいぞ~いいぞ~、お兄ちゃん、頑張れぇ~! そのまま6人目もやっつけてぇ! 絶対絶対勝ってよ~!」

 ――あたしの出番が来ないように。という言葉を霧は心の中で付け加えた。こんな大群衆の中でバトルするなんて、とんでもない、絶対やりたくない!と思いながら。

 しかし、霧のそんな期待は打ち砕かれた。

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