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14.王都を旅立ちます

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 ジルコが向かった先は、庶民的な雰囲気の食堂だった。
 前世で家族と行っていたイタリア料理のお店によく似た雰囲気で初めて来たのに何だか懐かしかった。
 空いていた席に座り、メニューを見る。
 そこにはピザやパスタなど、前世で馴染みのある食事ばかり載っていた。

(やっぱ、この世界の庶民の料理は前世で見たことのあるものばかりだ!もしかして、私みたいに転生してきたが人いて、その人が広めたのかも)

 エリアーナは前世でもよく食べていたトマト系のパスタとミニサラダにした。
 ジルコはパスタとピザ、それに揚げ物の盛り合わせフライドチキンとポテトを注文するようだ。

(私も食欲旺盛ではあるけど、ジルコさんはさらに上の上いく旺盛さだよね。食費がすごいことになりそう……)

 正面に座るジルコは、とてつもなく麗しい顔と筋骨隆々な逞しい体の持ち主だ。
 あんなに食べるのに全く無駄な肉はついていない。
 胸筋が邪魔でゆるく開かれた白いシャツ。
 のぞく男らしい首筋。
 耳にかかる無造作な銀髪はどこか気だるそうな雰囲気を醸し出していて、それが何というか……。

(エロいな……)
 
 3ヶ月は奴隷として扱われていたのに、筋肉が衰えていないのも魔力の高さと関係しているのかもしれない。
 そんな取り留めのないことを考えていると、パッと夏の木々のような瞳と目が合った。

「……オイ、さっきから俺の話聞いてるのか?」

 そういえば、先ほどからジルコがテーブルに何かを広げて説明していた。
 全然聞いていなかったので申し訳なく思う。

「すみません。もう一度お願いします」

 潔く頭を下げ、何の話だったか聞くことにした。
 呆れつつもジルコが話してくれた内容は、エリアーナの今後とるべき行動だった。

 最終目標を『国外で生活の基盤を築き一人で暮らせるようになること』とし、まずは『身分証』を手に入れ、資金ができたら出国。
 どこの国へ向かうかは、すぐ決める必要はないがエリアーナが決めるべきだとジルコに言われた。

 身分証は冒険者登録をするのが一番手っ取り早いそうなのだが、王都で作るのは高額金貨30枚なので、二人分は作れない。
 王都内は人手もあり、冒険者になりたい人も多いため、それだけ高額な金額が設定されているようだ。
 そこで、比較的安価で身分証を作成でき、ダンジョンも近くにあるため金を稼ぎやすい『グラメンツ』という町を目指すことになった。

(グラメンツは王都から北に歩いて7日くらいの場所だよね。たしか、火山がダンジョン化していてそれ目当ての冒険者と、温泉目当ての観光客で結構にぎわっているって授業で聞いた気がする)
 
 先ほど手に入れた金で旅支度もできるし、ジルコの武器も買えるので強行することなく行けるとのことだった。
 あの金金貨30枚が手に入らなければ、安全を考慮して目的地までほぼ休憩もなく回復魔法と身体強化頼りで歩き通すつもりだったらしい。
 旅慣れないどころか旅初体験のエリアーナには、かなり辛い行程となったに違いない。
 
(魔女のおばあさん、そしてワルツよ。出会えたことに心より感謝!)

 エリアーナが心の中で合掌していると、注文した料理が運ばれてきていた。
 当然のようにジルコは先に食べ始めている。
 エリアーナもそれに倣い、食事に集中するのだった。


――――――――――――――――――――――


 グラメンツ行きが決まった翌々日の早朝、まだ薄暗いなか宿を出た。
 宿代がもったいないこともあり、なかなかの強行だった。

(昨日一昨日で必要なものは買いそろえたけど、ジルコさんに頼り切りだったから何があるのかよくわかってないんだよね……)

 ちなみにエリアーナは手持ちの旅行鞄につけられる『背負いベルト』を買った。
 というか、気づいたらジルコが購入していて今朝渡された。
 これがあれば、旅行鞄を手に持たなくて済む何とも画期的なものなのだ。
 
 もう目立つ長い髪はないので、外套の頭巾は被っていない。
 朝の冷たい空気が心地よかった。
 ご機嫌なエリアーナからは鼻歌が聞こえる。
 その様子を後ろから白けた目で見ているジルコは、短めの外套を着て帯剣していた。
 柄頭に緑色の魔法石がついている剣だ。
 魔法石は自身の魔力を武器や防具に反映させるため、使われる。
 武器屋で知ったのだが、ジルコは風魔法の使い手でいわゆる『魔法剣士』だった。
 武器なら一通り扱えるそうだが、片手剣が一番自身の戦い方にあっていると、楽しそうに選んでいた。
 出会って初めて機嫌の悪くないジルコを見た。
 それは彼が初めて見せた『18歳』らしさのような気がした。

 エリアーナの旅行鞄はかなり高性能の魔導具らしく、買い揃えた物が大きいものテントと寝袋以外全て入ってしまったのだ。
 なのでほとんどの物をエリアーナが持っていることになる。
 責任重大なのだが、本人は至って平常運転だった。

「……アンタ、北門がどこにあるかわかってて進んでるんだよな?」

 ハッと動きを止める。
 そんなの知るわけないのだが、エリアーナには心強い味方がいる。

「フッフッフッ……。安心してください!今から道順検索するので!」

「いや、わかんねーのにあんな自信たっぷりに
 進んでたのかよ。
 アンタすげーな。よく今まで生きてこれたな。
 って、『検索』するって……。
 道案内機能付きのスマホ持ってるのか!?
 何で髪は売れてスマホは売らねーんだよ……」

 ベルトバッグから黄金スマホを取り出す。
 これがなかったら不安で夜も6時間くらいしか眠れない。
 エリアーナにとって生活必需品なのだ。

「これは私が運命的に出会った図鑑と地図が
 入っている高性能スマホなのです!
 なかったら街歩きや旅も怖くてできません。
 ぜーーーったい手放したくないです!」
 
 ビシッと黄金スマホを見せつける。
 それを見たジルコが動きを止めた。

「素人娘大全集、人気娼館体験記。
 クッ……アンタ、おっさんみたいな趣味だな」

 ジルコは手元で口を隠し、笑っているのをごまかしている。
 エリアーナは黄金スマホの中身をうっかり忘れていたのだ。
 とてもじゃないが、人様に堂々と見せられるものではない。

「ちっ、違います!私のじゃないです!
 いや、このスマホは私のだけど……。
 えっと、中古で買ったものなので
 中身は私が揃えたんじゃないんです!
 消し方もわからなくて、放置していただけで
 別に興味があるわけではないんです!」
 
 黄金スマホを見えないように隠し、弁明するもジルコの肩の揺れがおさまるのはもう少しあとだった。
 朝早く人通りも少ない王都の片隅で、大きなエルフと真っ赤な顔の少女が門を目指して歩いていく。





 
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