お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀

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14話 雌犬

「やぁ、ユウカお嬢様」

 俺は嫌味っぽく、彼女に話しかけた。
 俺を裏切り、イリカに腰を振った哀れな雌犬に。

「あ、あ、アルカ……」

 なんて……醜い姿なのだろう。
 ガタガタと震え、涙とよだれで化粧を穢し……絢爛な彼女らしくない姿だ。

「どうだ、俺が勝ったぞ?」

「ど、どうして……どうしてアンタが勝てるのよ!!」

「おもしろい質問だな」

 当然の質問だろう。
 まぁ、真実は絶対に語ってはやらないのだが。
 急に前世の記憶が蘇り、世界最強クラスになったなんて……誰が信じるというのだ。
 そんな真実を馬鹿正直に語ったところで、くだらない冗談だと流されるだけだ。

「その質問には答えない。というよりも、どうだっていいことだろう」

「な、なんでよ!!」

「重要なことは、俺がイリカに勝利したという”結果”だろう」

 ユウカの顎をグイっと持ち上げる。
 ……近くで見ると、化粧が崩れておぞましいな。

「ぐッな、何よ……。あ、アタシを殺すつもり!?」

「それもいいが、今は違う」

 このまま少し力を加えれば、ユウカの顎は砕け散るだろう。
 栄華を極めた美しいユウカの顔を苦痛に歪めることは、きっと楽しいことだろう。

 だが、今は行わない。
 俺を裏切った彼女には、もっと苦しんでほしいから。

「ユウカ、俺に言うことがあるだろう?」

「……」

「お前を守ってくれたイリカは、俺に負けた。お前を守ってくれる者は、もうどこにもいないんだ」

「……」

 少しだけ、力を強める。
 ピシっと、ユウカの顎から聞こえた。

「ぐッ……い、痛い!!」

「プライドを捨てろ。その言葉だけ聞ければ、解放してやるから」

「……本当?」

「俺はお前やイリカとは違って、嘘はつかない」

 ユウカはこすい女だ。
 自分の美貌を武器に、ハイスペックな男に身体を売って生きてきた。
 そんな生き方をしてきたせいか、彼女の性格は歪み切ってしまった。

 行動原理や思考回路は、常に周りにマウントを取ることに重点を置いている。
 ハイスペックな男と共にいるのも、強い男と一緒にいることで自分も強い女なのだということを周りに知らしめるためなのだ。
 
 俺と婚約しているときから、彼女は様々な男と浮気をしてきた。
 カネがある貴族や権力のある貴族、多種多様な貴族に鞍替えしてきたユウカだが、最後にはイリカを選んだようだ。

 ハイスペックな男を物色し、承認欲求の塊であるユウカ。
 その末路が……バカにしていた男に、生殺与奪の権を握られるものになるとは。
 なんというか、救いようがなく度し難い。

「わかったわ、アルカ……。アタシ、素直になるわね」

「最初からそうすればよかったんだ」

 ユウカの顎から手を離す。
 ズルっと床に落ちてしまう。

 これは見物だな。
 プライドだけで生きてきた彼女が、弱者に頭を下げるのだから。

「……アルカ……、その……悪かったわね」

「“何”に対して謝っているんだ?」

「……アンタ性格が悪いわね」

「お前ほどではない」

 きっと俺はニタニタと汚く笑っているのだろう。
 だが、それも仕方のないことだ。
 こんなにも大勢の前で、プライドの塊であるユウカが謝るのだから。

「アンタのことを……バカにして……悪かったわね」

「ほぉ?」

「……本当に……悪かったわ」

 ユウカは頭を地面に付ける。
 そう、いわゆる土下座のポーズだ。

「イリカや父さん、他にも様々な連中に便乗して、お前は俺をイジメてきたんだ」

「……ごめんなさい」

「この腕のアザ、これはお前の魔術で付けられたんだぞ」

「……本当にごめんなさいね」

「……その涙は懺悔によるものか? それとも恐怖によるものか?」

 情けないな。
 あれほどしたたかに生きてきた彼女が、まさかこんな末路を辿るなんて。

 涙をポロポロと零し、必死に謝罪を訴えかける彼女。
 そんな彼女の姿を見て……許すつもりは微塵も生まれない。

 泣くだけで許してあげるほど、俺は甘くない。
 むしろ……泣けば許してもらえると思っているようで、若干腹が立ってくるな。 

「……だからね、アルカ」

「ん?」

「その……もう一度アタシと婚約をしない?」

「……は?」

 突然何を言い出すんだ、この雌犬バカ女は。
 
「アンタとイリカの戦いを見ているとね……アンタの姿が、カッコいいって思っちゃったの」

「……は?」

「もちろん図々しいとは思っているわ。でも……仕方ないでしょ。アタシは……もう一度アンタに恋をしちゃったんだから」

「……は?」

「あんなに弱かったアンタが、イリカを倒すなんて……。誰だってキュンってしちゃうわよ」

「……は?」

 嘘だな。
 ユウカの目を見れば、恋に落ちた乙女の瞳ではないことくらい理解できる。
 あれは……強い男を前にして、媚びを売る雌犬の瞳だ。

「それにアンタ……意外とカッコいい顔をしているじゃない」

「……は?」

「アタシね……わかっちゃったの。最初はイリカのことを運命の相手だと思っていたんだけど、本当は……本当の運命の相手はアルカだってことが」

「……は?」

 もう……黙ってほしい。
 薄汚く甲高い彼女の声が、煩わしくて仕方がない。
 もう……それ以上しゃべらないでくれ。

「アルカ……だからね、もう一度アタシと──」
「──黙れ」

 苛立ちのあまり、ユウカの顎を蹴飛ばしてしまった。
 グシャっという嫌な感触が足先に伝わったことから、おそらくユウカの顎はグシャグシャに砕け散っただろう。

「ぐ、あ、ぐ……。ふぉふぉおひてどうして?」

「……もう二度と、その雌臭い口を開くな」

 トドメの顔面キック。
 メキョっという嫌な感触が、足裏に響く。

「あ、ぐ……」

 顔面が完全に陥没し、意識を失ったユウカ。
 その姿を見て、観客たちの反応は真っ二つに分かれた。

「お、おい……アルカの野郎、やりすぎだろ」

「でも……仕方ないですわ」

「そうよね、あの女は……やり過ぎたのよ」

「でもよぉ……。あの綺麗な顔がグチャグチャになるのは、もったいないな」

 男は残念がり、女は自業自得だと考えている。
 まぁ、当然の結果だろう。

「……次は必ず、息の根を止めてやる」

 虫のように痙攣するユウカに唾を吐きかけ、俺は闘技場を後にした。
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