追放賢者のやり直し ~『お前は弱い』と言われてパーティから追放された賢者は過去に戻り、これまでに培った知識を活かして世界最強になる~

志鷹 志紀

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15話 トアル迷宮 1/2【ピリカ視点】

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 あれから数日後、わたしたちは『トアル迷宮』という迷宮にやってきました。
 この迷宮は20層になる迷宮で、内装はレンガの床や壁にツタが絡まっている古城タイプです。
 そんな迷宮で、わたしたちは──
 
「ギシャァアアアア!!」
 
 今わたしたちが対峙しているのは、ブラッドヴァイパーという真っ赤な毒ヘビです。
 牙から滴る毒液が体内に入ってしまえば、数分後には死んでしまうという恐ろしいヘビです。

「数が! 多いな!!」

「そうですね……ッ!!」

「もう!! 鬱陶しいわね!!」

 わたしたち必死に倒しますが、最悪なことにわたしたちは『モンスターハウス』に足を踏み入れてしまいました。
 魔物が大量に出現し、その全てを倒さなければ部屋から脱出することができないという迷宮屈指の難所です。
 さらに運の悪いことに今回のモンスターハウスで出現したのは、ブラッドヴァイパーのみ。その数はおよそ……100匹。

 攻撃力や耐久性などあらゆる能力が低いブラッドヴァイパーですが、牙がかすってしまえば死に繋がってしまうという緊張感ある状況。
 おまけに次から次へと迫りくる、100匹のブラッドヴァイパー。
 それら全てが……わたしたちを焦燥させます。

「行きます!! 【|蛇王斬じゃおうざん】!!」

「「「ギ、ギシャァアア……」」」

 『蛇殺へびごろしの剣聖』の得意技、【蛇王斬じゃおうざん】を浴びせます。
 ヘビ系の魔物に特攻を持つ範囲攻撃であるため、多くのブラッドヴァイパーを粉砕。
 それでも尚、50匹以上のブラッドヴァイパーが生きています。

「一気に殺す!! 《最上級の銀世界アイス・エイジ》」

「「「ギ、ギシャァアア……」」」
 
 続いてアルガさんも、範囲魔法を繰り出しました。
 辺り一面が氷に包まれ、多くのブラッドヴァイパーを氷漬けにします。
 恐らくこれで、全滅したと──

「ギシャアァアアアア!!」

 と、油断した瞬間、1匹のブラッドヴァイパーがアルガさんを襲いました。
 鋭利な牙でアルガさんの二の腕を切り裂き、毒を注入します。

「ふんッ!!」

「ギシャァッ……」

 アルガさんは瞬時に剣でブラッドヴァイパーを切り裂きますが、既に……毒が撃ち込まれてしまっています。
 牙が刺さった部分はパンパンに膨らみ、紫色に変色してしまいました。
 あぁ……あぁ!! わたしがブラッドヴァイパーを全滅できなかったばかりに!!

「あ、アルガさん……アルガさんが……」

「心配するなピリカ」

「で、ですけれど……」

「俺たちには優秀な仲間がいるだろ?」

「そうよ、私を忘れていないかしら?」

 アルガさんの背後からラブリさんが顔を出し、アルガさんの二の腕に手をかざしました。
 そして──

「《解毒魔法ポイズン・キュア》」

 青い光がアルガさんの二の腕に注がれます。
 徐々にアルガさんの腫れは収まっていき、30秒もすれば完全に癒えました。

「スゴイなラブリ、やはりお前は天才だな」

「そ、そんなに褒めないでよ!! このくらい、普通よ!!」

 アルガさんがラブリさんの頭を撫でます。
 それは当然の権利ではありますが……。
 
 少し、ほんの少しだけ……胸の奥がチクッとしました。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 
 それからわたしたちは迷宮を進んでいき、14層まで降り立ちました。
 このフロアは不思議と魔物が少なく、ゆっくりと迷宮を進むことができます。

「……ラブリさん」

「ん、何?」

 だからでしょうか。
 わたしはあまり話したことのないラブリさんに、積極的に話しかけました。
 ……どうしても聞きたいことを、聞くために。

「ラブリさんは……アルガさんのことを、どう思っていますか?」

 先ほどアルガさんに頭を撫でられた時の反応、あれは間違いなく……恋に落ちているときの反応です。
 ラブリさんは少し常人よりも素直になりにくいようですが、傍から見ていたわたしにはわかりました。
 ラブリさんは……アルガさんのことが、す、好きなんです!!

「どうって……本人には言わないでよ?」

「え、えぇ、もちろん!!」

 アルガさんは今、別行動をしています。
 なんでも、”隠しアイテム”とやらを回収するそうです。

「……スゴいヤツだと思うわ」

「スゴいヤツ……というのは?」

 ラブリさんの表情は、恋する乙女……のソレではありません。
 何か憧れるような、そんな表情をしています。

「私は聖女として色々な教育を受けてきて、恥ずかしいけれど……あらゆる事柄を熟知していた気になっていたの」

「は、はい」

「だから自然とね、昔から迷宮に憧れていたのよ。迷宮には人智を超えた、素晴らしい叡智が眠っている可能性があることは知っていたからね。私は……”未知”と遭遇したかったのよ」

「なるほど」

 話が見えてきません。
 ですけれど、この話を飛ばすのは……もったいない気がします。
 あまり自分のことを語ってくれないラブリさんの真意を、聞けているのですから。

「アルガはね……私が求めていた”未知”を体現したような人だったわ」

「未知……ですか。確かに色々とわたしたちが知りえないことを知っていますけれど、そこまで評するんですか?」

「この間の《領域魔法》、あれは間違いなく”未知”の魔法よ。現代の魔法論理では、決してあり得ない理論だからね。それに……」

 ふぅと、ラブリさんは息を吸い込みます。

「それだけじゃないわ。気づいてる? アルガの剣技や魔法、その1つ1つが私たちの知っているものとかけ離れているわ。剣技は私たちのものよりも圧倒的に効率的だし、魔法は私の知っている理論を覆すものばかり使用しているわ」

「確かに……アルガさんの構えや剣技は見たことのないものが多いですね」

 言われてみれば確かに、アルガさんは数々の”未知”を使用します。
 ……それも不自然なほどに、そのどれもが強力です。

「私ね、思うの」

「何をですか?」

「……笑わないでよ?」

「笑いませんよ、大切な仲間なんですから」

「……ありがとうね」

 ラブリさんはニコッと微笑み、わたしに告げます。

「私ね……アルガは未来から来たと、そう思っているの」

 それは……想定よりも、ずっと衝撃的な言葉でした。

「未来から……ですか?」

「もしも未来から来たんだったら、数々の”未知”を知っていても不思議じゃないわよね?」

「確かに……言われてみれば、そうかもしれないですね。ですけど……」

「えぇ、わかっているわ。あまりにも無理があることくらい。だけど、これくらいしか考えられないじゃない」

 もし、万が一本当に未来から来ていたのだったら、アルガさんは──

「本当にそうだとすれば、アルガさんは……スゴい人ですね」

「ふふ、そうよね」

 ラブリさんが言っていた言葉の意味が、少しだけわかった気がします。
 はるか遠い未来から、恐らく何か目的があって現代へと渡ってきたアルガさん。
 方法はともあれ、過去に回帰したのですから、それはまさしく……スゴいことです。

「まぁ、真実はわからないけどね。単純に独自で全て生み出したのかもしれないからね」

「そうだとしても、スゴいことですよ」

「そうよね、本当に……憧れちゃうわ。……悔しいほどにね」

 ラブリさんの瞳は、どこか遠くを眺めています。
 きっとラブリさんは、アルガさんの”未知”に憧れているのでしょう。
 それはわたしがアルガさんに募っている想いとは、違うのでしょう。

「……安心しました」

「え、何が?」

「いいえ、こちらの話です」

 わたしはラブリさんに、微笑みます。

「ありがとうございます、ラブリさん。色々なお話を聞かせてくれて」

「ううん、こちらこそ。その……大事な仲間なんだから、やっぱり意思の疎通は大事よね」

 ニコッと、少し恥ずかしそうに微笑むラブリさん。
 その表情はとてもかわいらしく、わたしが男の人だったら……間違いなく恋に落ちています。
 ……アルガさんには、この表情だけは見せられないですね。
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