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第三章──礼(うやまい)の尊き僧侶、静かなる教え
32話
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「滲み出ておる……左様にござりまするか。逆にそのように映るのであれば、これほど喜ばしきことはござりませぬ。われが生くる理が満ちておるということにて……」
清は頭をもたげていたが、零闇に対して微笑む。狂気を孕んだ清。滲み出るものではない。溢れだしている。清の魂の器では足りない。いや欠けている。
清の言葉は落ち着き払っている。清は過去の静の謀反を、壮絶な過去を話した。話せば話すほど怒りは込み上げてくる清。しかし零闇には喜びの感情さえ抱く清に矛盾を感じる。暫く沈黙したのち、零闇は重い口を開いた。
「清殿……もしや、目的を果たされたその先、いずこを見据えておられるや。憎悪の炎は、いずれ墨となりて消え失せましょうぞ……その墨、漆黒の闇と化し、そなたを包まん」
零闇は静の言葉を思い出していた。
──妾が望むは漆黒の闇、その先なり……覚悟なき者にては、仇花を舞うこと叶うべからず──
清は言葉を詰まらせる。考えてはいなかった。清は無意識に手を宙に伸ばそうとした。しかし、その指先が震えていることに、清自身が気づいていなかった。何もないものを必死で掴もうとしたが虚しく空を切るだけだった。
「その先は……」
清の詰まりに零闇は正気を取り戻した。
「憎しみ以外の感情を忘れた者に仕舞えるほど容易いものではないはず……」
「されど、われは姉さまに対し、『花切ノ契』を結びし身にて候」
「『花切ノ契』……それは一体、いかなるものにて候や……?」
重く響く初めて聞く言葉にまた零闇は真実の扉を垣間見ることになった。
「『花切ノ契』とは、宿の一族のみに伝わる重き契にて候……この契のある限り、否、われが望みし契ゆえ、先を案ずる必要もなきやもしれませぬ……」
言葉の重みに床はずしりと沈む。これはただの問答に非ずと感ずる零闇。
「姉さまの狂気の刃に貫かれ、目覚めし折には、この根音、根子の者どもがわれを手当てしておりました」
背後の二人をそっと見つめ零闇は視えぬ目で二人を見つめた。
「人外なるものか……」
「然り……おかげにてわれは今も生き永らえておりまする。この子らの不思議なる力、われを現世に繋ぎ止める綱のごときものにて……」
「綱のごときもの……はて……」
零闇は少し戸惑った。人外の気配は確かに感じる。しかしそのような力は視えてこない。
「清殿……そのような……」
言いかけた瞬間、清の背後から威圧するような視線を感じた。それは『余計な言葉は無用』と言わんばかりの強い光だった。零闇はそれを探ろうと試みると零闇の心に地中から根が張り零闇を縛り付ける。恐ろしさを感じ、零闇が口を紡ぐとその警告の光は消え去り、あまねく穏やかな人外の陰二つ、幼子の陰のみが残った。
清は頭をもたげていたが、零闇に対して微笑む。狂気を孕んだ清。滲み出るものではない。溢れだしている。清の魂の器では足りない。いや欠けている。
清の言葉は落ち着き払っている。清は過去の静の謀反を、壮絶な過去を話した。話せば話すほど怒りは込み上げてくる清。しかし零闇には喜びの感情さえ抱く清に矛盾を感じる。暫く沈黙したのち、零闇は重い口を開いた。
「清殿……もしや、目的を果たされたその先、いずこを見据えておられるや。憎悪の炎は、いずれ墨となりて消え失せましょうぞ……その墨、漆黒の闇と化し、そなたを包まん」
零闇は静の言葉を思い出していた。
──妾が望むは漆黒の闇、その先なり……覚悟なき者にては、仇花を舞うこと叶うべからず──
清は言葉を詰まらせる。考えてはいなかった。清は無意識に手を宙に伸ばそうとした。しかし、その指先が震えていることに、清自身が気づいていなかった。何もないものを必死で掴もうとしたが虚しく空を切るだけだった。
「その先は……」
清の詰まりに零闇は正気を取り戻した。
「憎しみ以外の感情を忘れた者に仕舞えるほど容易いものではないはず……」
「されど、われは姉さまに対し、『花切ノ契』を結びし身にて候」
「『花切ノ契』……それは一体、いかなるものにて候や……?」
重く響く初めて聞く言葉にまた零闇は真実の扉を垣間見ることになった。
「『花切ノ契』とは、宿の一族のみに伝わる重き契にて候……この契のある限り、否、われが望みし契ゆえ、先を案ずる必要もなきやもしれませぬ……」
言葉の重みに床はずしりと沈む。これはただの問答に非ずと感ずる零闇。
「姉さまの狂気の刃に貫かれ、目覚めし折には、この根音、根子の者どもがわれを手当てしておりました」
背後の二人をそっと見つめ零闇は視えぬ目で二人を見つめた。
「人外なるものか……」
「然り……おかげにてわれは今も生き永らえておりまする。この子らの不思議なる力、われを現世に繋ぎ止める綱のごときものにて……」
「綱のごときもの……はて……」
零闇は少し戸惑った。人外の気配は確かに感じる。しかしそのような力は視えてこない。
「清殿……そのような……」
言いかけた瞬間、清の背後から威圧するような視線を感じた。それは『余計な言葉は無用』と言わんばかりの強い光だった。零闇はそれを探ろうと試みると零闇の心に地中から根が張り零闇を縛り付ける。恐ろしさを感じ、零闇が口を紡ぐとその警告の光は消え去り、あまねく穏やかな人外の陰二つ、幼子の陰のみが残った。
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