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第三章──礼(うやまい)の尊き僧侶、静かなる教え
33話
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「いかがなされたか……零闇殿?」
唇を歪める零闇に清は問いかけた。
「いや……何も……このまま語り継がれよ……」
幼子の穏やかな陰はすでに恐怖でしかなかった。
──何と申すべきか……この無言にして穏やかなる威圧の気配は……──
「左様か……そしてその後、われが眼に映りしは地獄絵図にて候。伏せたまま背と喉より血を流し、血の海に沈みし母、晴……さらに奥の間には、喉を裂かれ心の臓を貫かれたる父、花臣……目を見開き、絶望のままに凍り付けるその姿……これを地獄と呼ばずして、何と申すべきや……」
感情とは別に清の言葉は滑らかだ。もう、零闇の言葉は失われていた。ただ頷くだけである。
「そして、父上の手には一つの舞の書が握られておりました……それこそが『花切ノ契舞の所作』と、戒めの言葉が記されしものにて候……」
清はその記を思い出しながら言葉を語り続けた。
──永遠の断絶を望む者、これを舞えば、永劫にその心は縛られん。解く術、断じてなし。死の彼方においてすら、交わること能わず……今一度、心に問え。一刻の感情に惑わされることなかれ。それが許し得ぬ存在ならば、我を呼び出すべからず──
「幾度も幾度も、その問いに答えを求めし、われなれど……一刻の感情に流されまいと誓えど……思い出せなんだ。姉さまとの記憶は、黒く塗り潰されておりしゆえ……そこには愛も、哀もなく、ただ靉靆として憎悪の雨のみが降り注いでおりました」
清は笑いだす。
「その時、悟り申したのです……わが姉さまに抱くは『花切ノ契』こそ相応しきものなり、と……」
零闇は固唾を呑んで見守り、根音と根子は清の浅ましき言葉の数々に耳を塞ぎ目を瞑った。そして清は過去に舞ったことを伝えた。
──契りの刻──
清は静かに佇んでいた。書を開き呼び出しの言葉を見つめる。深い息を吸い決心の目を開く。
──永遠の断絶を契り望む者、舞え。その揺るがぬ意思、汲み取られよ。花切ノ契──
清は舞を始めた。永遠と思える時間を舞続けると、その想いを汲んだように届かぬ光の先から異形の存在が姿を現した。花とは名ばかりの恐ろしき髑髏の姿。
「我は花切なり。未来のそなたの姿、この骸を見よ……この姿となろうとも、断ち切られし想いは決して戻らぬ。此の花切鋏をもって、すべてを断ち切るがよい……」
花切は漆黒の色をした鋏、花切鋏を手渡した。
清の目の前に赤い糸のような光が線引かれる。そして清は手渡された花切鋏をその光に挟んだ。
「さぁ……断て……断絶を望む者よ……」
清はゆっくりと鋏を動かす。そして力を入れた──
シャキン──
「ここに花切の契、結び終えたり。これにて永遠の断絶、成就せり……」
その過去を打ち明けた清。そして零闇は清の深い、深すぎる想いを黙って受けとるしかなかった。
唇を歪める零闇に清は問いかけた。
「いや……何も……このまま語り継がれよ……」
幼子の穏やかな陰はすでに恐怖でしかなかった。
──何と申すべきか……この無言にして穏やかなる威圧の気配は……──
「左様か……そしてその後、われが眼に映りしは地獄絵図にて候。伏せたまま背と喉より血を流し、血の海に沈みし母、晴……さらに奥の間には、喉を裂かれ心の臓を貫かれたる父、花臣……目を見開き、絶望のままに凍り付けるその姿……これを地獄と呼ばずして、何と申すべきや……」
感情とは別に清の言葉は滑らかだ。もう、零闇の言葉は失われていた。ただ頷くだけである。
「そして、父上の手には一つの舞の書が握られておりました……それこそが『花切ノ契舞の所作』と、戒めの言葉が記されしものにて候……」
清はその記を思い出しながら言葉を語り続けた。
──永遠の断絶を望む者、これを舞えば、永劫にその心は縛られん。解く術、断じてなし。死の彼方においてすら、交わること能わず……今一度、心に問え。一刻の感情に惑わされることなかれ。それが許し得ぬ存在ならば、我を呼び出すべからず──
「幾度も幾度も、その問いに答えを求めし、われなれど……一刻の感情に流されまいと誓えど……思い出せなんだ。姉さまとの記憶は、黒く塗り潰されておりしゆえ……そこには愛も、哀もなく、ただ靉靆として憎悪の雨のみが降り注いでおりました」
清は笑いだす。
「その時、悟り申したのです……わが姉さまに抱くは『花切ノ契』こそ相応しきものなり、と……」
零闇は固唾を呑んで見守り、根音と根子は清の浅ましき言葉の数々に耳を塞ぎ目を瞑った。そして清は過去に舞ったことを伝えた。
──契りの刻──
清は静かに佇んでいた。書を開き呼び出しの言葉を見つめる。深い息を吸い決心の目を開く。
──永遠の断絶を契り望む者、舞え。その揺るがぬ意思、汲み取られよ。花切ノ契──
清は舞を始めた。永遠と思える時間を舞続けると、その想いを汲んだように届かぬ光の先から異形の存在が姿を現した。花とは名ばかりの恐ろしき髑髏の姿。
「我は花切なり。未来のそなたの姿、この骸を見よ……この姿となろうとも、断ち切られし想いは決して戻らぬ。此の花切鋏をもって、すべてを断ち切るがよい……」
花切は漆黒の色をした鋏、花切鋏を手渡した。
清の目の前に赤い糸のような光が線引かれる。そして清は手渡された花切鋏をその光に挟んだ。
「さぁ……断て……断絶を望む者よ……」
清はゆっくりと鋏を動かす。そして力を入れた──
シャキン──
「ここに花切の契、結び終えたり。これにて永遠の断絶、成就せり……」
その過去を打ち明けた清。そして零闇は清の深い、深すぎる想いを黙って受けとるしかなかった。
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