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第三章──礼(うやまい)の尊き僧侶、静かなる教え
34話
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「そこまでして……未来を断たるるか……」
零闇はポンと膝を叩いた。礼尊寺が揺れ動く。埃が舞っている。
「刻は来たり……左手、灼けるが如く熱し……」
零闇の手の甲の花紋様が消えかかる。
「もはや刻限尽きなん……如何にする、清殿? この本堂、既に崩れ果てなんとす。それでもなお、舞う所存にて候か……」
零闇の命が尽きようとしているのがわかる。
「これまでの私情にお付き合い頂き、忝う存ずる。されど花仕舞師としての本分、たとえ本堂が崩れようとも、仕舞い終えるまでは止むこと叶わず……『礼』は尽くす所存にて候」
零闇は清の花仕舞師としての覚悟を受け取った。
──見よ、我が手に収め得ぬ光よ。奪いし花のごとく、誇り高き罪をも背負ひ奉らん──
零闇は手を合わせ、祈りの言葉とは思えぬ言葉を吐いた。零闇は思い出していた。静と顔を合わせ仇花霊々の舞を舞う際に花現身と称し舞始めた言葉を……。
「誇り高き罪……静殿と清殿の罪……いずれぞ『傲』なるか……それを感ずるは、果たして我か……」
懐に手を入れあるものを握り締める。
──時の限り果つる折、静殿これを清殿に託せと宣われたり。それが何を指すや知る由もなし。されど……さぁ……これにて我が時も巡り満ち、つひに仏の御前へ還るべし……──
「根音、根子……刻限迫れり。舞の支度、致せ」
「「畏まりて候──」」
零闇は清の姿がぼんやりと浮かんでいる。それは心の目に焼き付いていく。清が線香花火を取り出す。
「いざ、花霊々の舞にて候。花護人筆頭、花天照此れに──」
清が声高く宣言する。その声にさらに梁が音を立てる。崩れる瞬間が目に入る。しかし、揺らぎなく清は舞続ける。覚悟を揺るがせない足元。不安定な床をものともしない軽やかな足の動き。
光輝き花天照が清の元に降臨する。翼を広げると風圧が発生に崩れが増す。黄金の髪はゆらりと靡いた。
「清さま……これにては……舞い終わらぬうちに崩れ果てましょうぞ……」
「構わぬ……続けよ……これぞ舞師の宿命なり。それに、汝らも知るはず……一度舞えば、何ゆえありとも止むること能わず」
清が強く一喝する。
「灯せ……花天照……この線香花火に……火を授け給え……」
掲げた花火に花天照は息を吹き掛けた。火が明るく灯る。
「花灯ノ籠ノ番人右手、此を──」
地響きが鳴るように地中から一体の花護人が現れる。本堂が崩れ始める。
「何があろうとも護り抜け……この灯火……零闇殿の『礼』に報いよ、右手」
線香花火を受けとると、その言葉に応えるように無言で崩れ落ちてくる瓦礫に身を盾にして灯火を護る。
「清さまの御言葉のままに……」
花天照は再び翼を広げ天に舞う。光輝くと同時に清は花霊々の舞い軽やかに始める。花天照の身体から五つの弦が床を突き破り、地中に刺さると枝分かれするように蕾が五つ実る。
「礼に尽くすか……」
零闇は見つめる。清の凛とした姿が脳にくっきりと姿を現す。
清が舞いながら零闇に花告を詠みあげる。
──礼の手は、触れぬままに、魂を抱いた──
崩れ行く本堂の中で壮絶に舞う清。一つ目の蕾が花開き、床が湖面の鏡として映る。水の波紋が広がり、そこから水鏡の衣を纏う花水鏡が現れた。床は跳ね上がりすでに戻ることはもうできない。それが清の花仕舞師の覚悟。
零闇はポンと膝を叩いた。礼尊寺が揺れ動く。埃が舞っている。
「刻は来たり……左手、灼けるが如く熱し……」
零闇の手の甲の花紋様が消えかかる。
「もはや刻限尽きなん……如何にする、清殿? この本堂、既に崩れ果てなんとす。それでもなお、舞う所存にて候か……」
零闇の命が尽きようとしているのがわかる。
「これまでの私情にお付き合い頂き、忝う存ずる。されど花仕舞師としての本分、たとえ本堂が崩れようとも、仕舞い終えるまでは止むこと叶わず……『礼』は尽くす所存にて候」
零闇は清の花仕舞師としての覚悟を受け取った。
──見よ、我が手に収め得ぬ光よ。奪いし花のごとく、誇り高き罪をも背負ひ奉らん──
零闇は手を合わせ、祈りの言葉とは思えぬ言葉を吐いた。零闇は思い出していた。静と顔を合わせ仇花霊々の舞を舞う際に花現身と称し舞始めた言葉を……。
「誇り高き罪……静殿と清殿の罪……いずれぞ『傲』なるか……それを感ずるは、果たして我か……」
懐に手を入れあるものを握り締める。
──時の限り果つる折、静殿これを清殿に託せと宣われたり。それが何を指すや知る由もなし。されど……さぁ……これにて我が時も巡り満ち、つひに仏の御前へ還るべし……──
「根音、根子……刻限迫れり。舞の支度、致せ」
「「畏まりて候──」」
零闇は清の姿がぼんやりと浮かんでいる。それは心の目に焼き付いていく。清が線香花火を取り出す。
「いざ、花霊々の舞にて候。花護人筆頭、花天照此れに──」
清が声高く宣言する。その声にさらに梁が音を立てる。崩れる瞬間が目に入る。しかし、揺らぎなく清は舞続ける。覚悟を揺るがせない足元。不安定な床をものともしない軽やかな足の動き。
光輝き花天照が清の元に降臨する。翼を広げると風圧が発生に崩れが増す。黄金の髪はゆらりと靡いた。
「清さま……これにては……舞い終わらぬうちに崩れ果てましょうぞ……」
「構わぬ……続けよ……これぞ舞師の宿命なり。それに、汝らも知るはず……一度舞えば、何ゆえありとも止むること能わず」
清が強く一喝する。
「灯せ……花天照……この線香花火に……火を授け給え……」
掲げた花火に花天照は息を吹き掛けた。火が明るく灯る。
「花灯ノ籠ノ番人右手、此を──」
地響きが鳴るように地中から一体の花護人が現れる。本堂が崩れ始める。
「何があろうとも護り抜け……この灯火……零闇殿の『礼』に報いよ、右手」
線香花火を受けとると、その言葉に応えるように無言で崩れ落ちてくる瓦礫に身を盾にして灯火を護る。
「清さまの御言葉のままに……」
花天照は再び翼を広げ天に舞う。光輝くと同時に清は花霊々の舞い軽やかに始める。花天照の身体から五つの弦が床を突き破り、地中に刺さると枝分かれするように蕾が五つ実る。
「礼に尽くすか……」
零闇は見つめる。清の凛とした姿が脳にくっきりと姿を現す。
清が舞いながら零闇に花告を詠みあげる。
──礼の手は、触れぬままに、魂を抱いた──
崩れ行く本堂の中で壮絶に舞う清。一つ目の蕾が花開き、床が湖面の鏡として映る。水の波紋が広がり、そこから水鏡の衣を纏う花水鏡が現れた。床は跳ね上がりすでに戻ることはもうできない。それが清の花仕舞師の覚悟。
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