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第五章──忠(まごころ)の誓い、戦に生きた侍
55話
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清らは根音、根子に導かれ新たな想いに馳せながら旅路を歩んでいた。道は平坦ではあるが道のりは遠い。
その遠道のりと同じように清の心は晴れぬまま。それは孤風庵での出来事でさらに迷わされていた。確かに舞い、孤風の浄化を見届けた。それも花文は届き、しっかと『智』の心を受け取った。それまでの旅路、お雪の『仁』、灰塊の『義』、零闇の『礼』そして孤風の『智』紛れもなく清の心に芽吹き灯っている。が、それだけだった。花仕舞師としての使命を果たせた気分にはならなかった。
──まこと、これにて姉さまへ届かむや……宿怨、果たし得るや否や……──
想えば想うほど心は曇り、足取りは重くなる。
──何ゆゑ、われは過日を思ひ出せぬのか……何ゆゑ、姉さまは父母を手にかけしや……──
清は考えれば考えるほど深い底に沈み憎悪を募らせる。
「清さま……手を取りても、よろしゅうござりまするか……?」
根子がおそるおそる尋ねる。
「根子……如何した……? そのやうなこと、気にかけるに及ばぬ……」
根子が清の手をぎゅっと握る。慌てる根音。
「ずるきぞ、根子……またもおべっかを使ひおって……清さま……我も……」
根音はかまわず清の逆の手をぎゅっと握る。
「何じゃ、ガキめ……面映ゆきわ……」
「黙れ、跳ねっ返りめが……」
二人の口喧嘩がいつものように始まる。
「こら……二人の手、しっかと握りおるゆえ、争ひはやめよ……」
いつもの調子に清はやれやれと思う。
「清さまのお手……安らぎを覚えまする……清さまの御怒り、鎮まればよいが……」
「清さま……おれらが共におり申すゆえ……」
二人は清を姉のように慕っていた。
「二人とも……かたじけない……われがわれであれるは、そなたらのおかげなり……二人ばかりならず、花天照、花水鏡、花翅、花霧、花誓、右手、花護人らが、力を貸してくれるゆえ……」
清は微笑んだ。いつかは静と決着をつけねばならぬが今は忘れたいと思っていた。二人は清の微笑みと言葉に温かさを感じている。しかし……清の手は氷のように冷たい。清の肌からは温もりは感じずにいた。逆に吸い取られていく。氷ついた手を握っているようだ。
──いと温もりを、わが身より分け与ふること叶はばよきものを……──
根音と根子は常に思っている。清の心は静に対し、憎悪の炎を燃やしているが身体は冷えきっている。戻ることもなく、この心が癒えることはけっしてない。『花切ノ契』が破り捨つられることない常しえの契りなのだから。
二人は知っている。仲が良かった頃のことを──だからこそ辛い旅を共にしていた。秘めたる想いを抱えながら、この旅が終わるとき真実は残酷な世界が待っていることを知りながら……。
その遠道のりと同じように清の心は晴れぬまま。それは孤風庵での出来事でさらに迷わされていた。確かに舞い、孤風の浄化を見届けた。それも花文は届き、しっかと『智』の心を受け取った。それまでの旅路、お雪の『仁』、灰塊の『義』、零闇の『礼』そして孤風の『智』紛れもなく清の心に芽吹き灯っている。が、それだけだった。花仕舞師としての使命を果たせた気分にはならなかった。
──まこと、これにて姉さまへ届かむや……宿怨、果たし得るや否や……──
想えば想うほど心は曇り、足取りは重くなる。
──何ゆゑ、われは過日を思ひ出せぬのか……何ゆゑ、姉さまは父母を手にかけしや……──
清は考えれば考えるほど深い底に沈み憎悪を募らせる。
「清さま……手を取りても、よろしゅうござりまするか……?」
根子がおそるおそる尋ねる。
「根子……如何した……? そのやうなこと、気にかけるに及ばぬ……」
根子が清の手をぎゅっと握る。慌てる根音。
「ずるきぞ、根子……またもおべっかを使ひおって……清さま……我も……」
根音はかまわず清の逆の手をぎゅっと握る。
「何じゃ、ガキめ……面映ゆきわ……」
「黙れ、跳ねっ返りめが……」
二人の口喧嘩がいつものように始まる。
「こら……二人の手、しっかと握りおるゆえ、争ひはやめよ……」
いつもの調子に清はやれやれと思う。
「清さまのお手……安らぎを覚えまする……清さまの御怒り、鎮まればよいが……」
「清さま……おれらが共におり申すゆえ……」
二人は清を姉のように慕っていた。
「二人とも……かたじけない……われがわれであれるは、そなたらのおかげなり……二人ばかりならず、花天照、花水鏡、花翅、花霧、花誓、右手、花護人らが、力を貸してくれるゆえ……」
清は微笑んだ。いつかは静と決着をつけねばならぬが今は忘れたいと思っていた。二人は清の微笑みと言葉に温かさを感じている。しかし……清の手は氷のように冷たい。清の肌からは温もりは感じずにいた。逆に吸い取られていく。氷ついた手を握っているようだ。
──いと温もりを、わが身より分け与ふること叶はばよきものを……──
根音と根子は常に思っている。清の心は静に対し、憎悪の炎を燃やしているが身体は冷えきっている。戻ることもなく、この心が癒えることはけっしてない。『花切ノ契』が破り捨つられることない常しえの契りなのだから。
二人は知っている。仲が良かった頃のことを──だからこそ辛い旅を共にしていた。秘めたる想いを抱えながら、この旅が終わるとき真実は残酷な世界が待っていることを知りながら……。
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