花仕舞師

RISING SUN

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第七章──孝(いつくしみ)の若き子、親を忘れし心

89話

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「や、や、これは不躾つかまつった。かの幼子らが、あまりにも旨げに団子を頬張るゆえ、つい声をかけてしもうた……まこと、懐かしき心地がいたしてな……」
 男は、遥か昔を思い出すように語りだした。
「この子らの食べるさまが、懐かしゅうござると?」
 清は左手の甲の痣を見ながら懐かしそうに話し出す男の表情と交互に見ていた。
「いや、幼子らの食うさまのみならず……御前さまがこの子らに寄り添う姿、そのやさしさが、わしの恩ある御方を思い起こさせ申したのよ……」
「手前らの姿にて、でございますか?」
 清は滑らかにしゃべり出す男の表情に魅入った。
「うむ……すまぬな。つい昔語りをいたし、そればかりか、御前さまに懐かしき情までも覚えてしもうてな……」
 清の心が跳ねた。それは清自身の心ではなく、今までの旅で触れてきた誰かの『徳』が跳ねたのだ。

 ──誰かの『徳』が共鳴してる……これは……お雪殿の『めぐみ』?──

「いかぬ、いかぬ……某、これより恩ある御方のもとへ参らねばならぬ身。長らく足を止めさせてしもうたな……かたじけない。さらば、御免!」
 男は踵を返し、去ろうとする。清は心なしか足取りが軽やかな男を見送りながら、なんとも言えない感情に囚われた。
「根音、根子……これぞまこと皮肉なる定めよな……お雪殿の『仁』を受け、徳を育んだあの御方を、今度はわれらが仕舞わねばならぬとは……さりとて情に流されることは叶わぬ」
「清さま……清さまは花仕舞師として、ただ役目を果たされませ」
 根子は食べかけの団子のことも忘れ口添えした。

「ケケケッ……相も変わらず、甘やかなることよ……」
 清の背中から声がする。
「その声は……」
 聞き覚えのある声……しかし、顔は見たことがない。清の座る縁台に背中合わせで座る女。清は振り返るが、その女は振り返ることをしない。肩を揺らしながらなんとも不思議な色と表現する他ならない異様な喪色もしきの衣を纏う。舞いを舞う時は必ず後ろ向きで舞い、唯一舞いを歪ませるように舞う。その姿のみがこの女の舞姿。
「そなた……花傀儡の反花そりばなにあらずや……何ゆえ此処におる……まさか……姉さまも、ここにおわすのか……!?」
「ここにはおらぬわ……それより、あの男、花紋様が浮かびおるというに、何ゆえ告げぬ? お主、知っておろうが……あやつが会いたき婆さまは、すでに此の世の人にあらぬことを……」
「それは……」
 清は言葉を失う。
「それが優しさと申すか……? 会いに行った先に待つは悲劇、その果てにあるは死のみ……先延ばしにあるものは、苦しみばかりぞ……滑稽よな、まこと滑稽……静さまの妹にしては、あまりに甘きことよ……そなたには『いやし』は残っておらぬか?」
 反花はその言葉を残し、根音と根子の頭をぽんと撫で、すっと消えていった。
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