花仕舞師

RISING SUN

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第七章──孝(いつくしみ)の若き子、親を忘れし心

90話

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「清さま……」
 根音が心配そうな顔をする。
「確かに反花が申すこと、一理あらん。されど花紋様は未だ枯れきらず。根音、根子……今ひとたび戻らねばならぬ……お雪殿のいた村へ……かの御方も必ずや向かわれよう。そして……姉さまもまた参られるやもしれぬ。われらが成すはただ仕舞うのみならず……未練や悔いを祓うてこその花仕舞師。滑稽と罵られようとも、あの御方の徳を成就させねばならぬ……」
 清の目は憎悪と本文の狭間で揺れていた。
「行きましょう……清さま……」
 根子が言う。
「いざ、参らん……ふたたびお雪殿と、あの御方の想い出の地へ……そしてこの旅の始まりし処へ……」
 清たちは男の後を追った。できれば同行する形で旅路を共にできればと思ったからだ。男は大きな米問屋に入っていく。看板は檜の一枚板に「新山升やあらたやまますや 正米穀物商せいべいこくもつしょう 以信義為商道しんぎをもってあきないのみちとなす」と漆で塗られた板に文字が彫られ、金箔を施してあったであろう。今では黒く煤け、ところどころ剥がれている。それでも、剥がれた金箔文字は長年、この町を支えてきたであろう、趣はずしりと重みが宿り、心に響いてくる。信条も掲げられ、この店の家主の心意気までも静かに伝わってくる。
「どうなさるおつもりにて?」
 根子が見上げて聞いてきた。清は思案した。自然に、かつ同行できる方法はないものかと考えを巡らせた。
「うまくいくや否やはわからぬ……されど根音、根子……今より、なんじらはわれを母と思え。心して覚悟せよ」
「「えっ?」」
 二人は突然の申し出に目を丸めた。
「今よりわれをおっ母と呼ぶのじゃ。さ、参ろうぞ」
 二人は何がなんやらと思いながらも清の後をついていく。
「ごめんくだされませ……」
 清は自然を装うように米問屋、『新山升や』に入っていく。
「はいはい……いらっしゃいませ。いかがな御用にて?」
 店番がひょいっと顔を出した。
「つかぬことお伺い仕る……こちらに耶三淵やみぶちの村の生まれ在所の方がおられると聞き及び、道を尋ねたく参りました」
「耶三淵? ああ、若頭のことでござろうな。少々お待ちあれ」
 店番は奥に引っ込んだ。奥から男が出てきた。
「はいはい……耶三淵とな……あっ! 先ほど団子屋にてお見かけした……」
「えっ? 耶三淵の御生まれにてござりましたか? これは奇遇にて」
「なるほど、ゆえにそのような旅姿にて……」
 男は清たちが旅支度の格好でいることに自然と合点がいった。
「左様にて。実は手前も耶三淵の生まれ……されど幼き頃に親を失い、奉公に出されました。時を経て稚児が生まれ、久方ぶりに故郷に帰りたく、お暇をいただきましたが……何分、幼き折の記憶ゆえ道がわからず、尋ね回りし末、こちらに耶三淵の方がおられると聞き……」
「なんと、道に迷われたか……ゆえにこちらへ?」
 心配そうな顔をする男。
「はい……お世話になりし方に、この子らの顔を見せとうござりますれば……これ、根音、根子、挨拶なされ」
「ごめんやす」
 根音が元気よく挨拶をすると、
「ご、ごめんやす……」
 少し照れたような顔で清の裾を掴んでもじもじと恥ずかしそうな顔をする。
 根音と根子が陰から顔を出し男に挨拶する。
「これはこれは、そなたの稚児にてあられたか。可愛らしきこと……されど、おなごひとりにて二人の稚児を伴い旅路とは、さぞや難儀であろう……」
 男は少々考え提案してきた。
「されば提案仕る。某もまた耶三淵に恩人を訪ねる身……いかがか、一緒に参らぬか? 某は幸吉と申す。そなたの名は?」
 清の思惑がうまくいく。
「はい、清と申します……耶三淵のお雪という御方を訪ねとうござります」
「お雪? もしや耶三淵の離れにおられるお雪婆か?」
 幸吉は目を見開いた。
「えっ? さ、左様にて……藁葺き屋根の、常に童らに囲まれておられしお雪婆さまにございます……」
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