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第七章──孝(いつくしみ)の若き子、親を忘れし心
91話
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幸吉は明日から旅立つ旨を清に伝え、兵之助に頼み込み、清たち一行を泊まらせることにした。朱鷺は最初、訝しく思ったが根音や根子らと触れ合うことで少しずつ疑いが溶けていった。しかし、清にだけは少々冷たいようだった。清は仕方ないことと思い、これからやらねばならぬことを考えると朱鷺がどう思うかと考えを巡らせた。
──また、残されし者の涙を目にせねばならぬのか……蒼真殿のごとく、お朱鷺殿もまた深き悲しみに沈むのであろうか……されど、その悲しみとやらを、われは……知ること能わぬ……──
幸吉から「長旅でお疲れであろう」と風呂を頂いていた。根子が清に付き添う。着物を脱ぎ、さらし布をほどくと痛たましいほどの傷跡が増えている。左の肩口、右の脹ら脛と高杜にての笹道の軍から受けた矢傷の跡。そして背中にもうひとつ。露になった清の裸体。輪郭は女体の美しさを兼ね備えていたが、身体に刻まれていた、その生々しい傷痕は見た者を震えあがらせるものだった。
「清さま……」
根子は清の身体に傷が増える度に、清の抱える宿命に心を痛ませた。
──もし、常の女として生まれ落ちておれば……お朱鷺殿のごとく、ささやかな幸せを得ておったやもしれぬ……されど、呪われし宿命に絡め取られ、清さまは秋架殿やお朱鷺殿のごとく、誰かをお慕いすることすら叶わぬ……まこと、哀れなり……──
「これ、根子……」
清は根子に思い出させるように一喝する。
「あっ、おっ母……湯船に浸かるは難しゅうございましょう。されば、身体を拭いて差しあげまする」
根子は清の身体を優しく傷口を避けるように拭いた。
「かたじけのう……根子」
「おっ母、あまり無理なさいますな……」
──われは、まこと人の子にてあろうか……? これほどの傷を負ひながらも、なお動けるはなにゆゑぞ……たとへ花根孖の根音、根子が寄り添ひてくれど、われは……もはや物の怪に成り果てし者にてはあるまいか……あの日、姉さまに両親を殺められし以前の記憶すら持たぬわれは……既に人の道より外れし者にてはあるまいか……──
「おっ母……」
深刻そうな顔をする清の顔を根子が覗き込んだ。
「もう、休まれませ……なるべく御身を晒されぬようになされませね、おっ母……」
「左様じゃな……根子。明日よりまた長き旅路ゆえ、ゆるりと休もうぞ」
清の身体に丁寧にさらし布を巻く根子。そして最後に時留め花飾りを頭につけた。灰塊から礼尊寺で零闇から預かって以来、常に身に付けている簪。
「今より休まれると申すのに……」
「これは御守り代わりにて……おっ母……」
根子が言葉をかけると、それに呼応するかのように花をあしらった飾りが揺れた。
──また、残されし者の涙を目にせねばならぬのか……蒼真殿のごとく、お朱鷺殿もまた深き悲しみに沈むのであろうか……されど、その悲しみとやらを、われは……知ること能わぬ……──
幸吉から「長旅でお疲れであろう」と風呂を頂いていた。根子が清に付き添う。着物を脱ぎ、さらし布をほどくと痛たましいほどの傷跡が増えている。左の肩口、右の脹ら脛と高杜にての笹道の軍から受けた矢傷の跡。そして背中にもうひとつ。露になった清の裸体。輪郭は女体の美しさを兼ね備えていたが、身体に刻まれていた、その生々しい傷痕は見た者を震えあがらせるものだった。
「清さま……」
根子は清の身体に傷が増える度に、清の抱える宿命に心を痛ませた。
──もし、常の女として生まれ落ちておれば……お朱鷺殿のごとく、ささやかな幸せを得ておったやもしれぬ……されど、呪われし宿命に絡め取られ、清さまは秋架殿やお朱鷺殿のごとく、誰かをお慕いすることすら叶わぬ……まこと、哀れなり……──
「これ、根子……」
清は根子に思い出させるように一喝する。
「あっ、おっ母……湯船に浸かるは難しゅうございましょう。されば、身体を拭いて差しあげまする」
根子は清の身体を優しく傷口を避けるように拭いた。
「かたじけのう……根子」
「おっ母、あまり無理なさいますな……」
──われは、まこと人の子にてあろうか……? これほどの傷を負ひながらも、なお動けるはなにゆゑぞ……たとへ花根孖の根音、根子が寄り添ひてくれど、われは……もはや物の怪に成り果てし者にてはあるまいか……あの日、姉さまに両親を殺められし以前の記憶すら持たぬわれは……既に人の道より外れし者にてはあるまいか……──
「おっ母……」
深刻そうな顔をする清の顔を根子が覗き込んだ。
「もう、休まれませ……なるべく御身を晒されぬようになされませね、おっ母……」
「左様じゃな……根子。明日よりまた長き旅路ゆえ、ゆるりと休もうぞ」
清の身体に丁寧にさらし布を巻く根子。そして最後に時留め花飾りを頭につけた。灰塊から礼尊寺で零闇から預かって以来、常に身に付けている簪。
「今より休まれると申すのに……」
「これは御守り代わりにて……おっ母……」
根子が言葉をかけると、それに呼応するかのように花をあしらった飾りが揺れた。
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