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第七章──孝(いつくしみ)の若き子、親を忘れし心
92話
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翌朝、早朝から清は起き上がり身支度を済ませ、根音と根子に再度、言い聞かせた。
「よいか……これよりは、われを母と心得よ。主従の契りも、しばし忘れるのじゃ。よいな?」
「「……」」
根音と根子は黙って頷く。
「食事の支度、整いましたゆえ……」
襖越しに朱鷺の声がする。すっと襖が開く。
「少しは癒され申したか? これより道中、共に歩まん。なにとぞ、よしなに願い奉る」
朱鷺は深々と頭を下げた。清も頭をさげた。
「こちらこそ……幸吉殿はじめ、皆々さまの御心遣い、かたじけなく存ずる」
堅苦しい会話が続く。ふと根子と根音が立ち上がり、朱鷺の元に寄る。
「これより、よしなにお願いいたしまする……お朱鷺さま……お身を、どうぞお労りくだされ……」
根子がそっと口添えをする。
「……えっ? ありがたうな」
朱鷺が驚き、根子の頭を撫で消えていく。
「おっ母……あのお朱鷺さま……まだお気づきではありませぬが、稚児を宿しておられまする……いろいろと配慮が要るかと……」
「まことか……」
清は新たな問題に直面したと感じた。ただ仕舞うだけではない。この幸吉の家族を巻き込むであろう使命は容易ではない。じりじりと焼け付くような感情を心に仕舞い、食事を頂いた。
そして旅立ちの時───。
「それでは、お館さま……行って参りまする」
「道中、気をつけるのじゃ……それにお雪殿とやらに、たっぷりと甘えてまいれ。積もる話もあろう。それとな、朱鷺を頼んだぞ……」
「お館さま……もはや、わらわは幼子にあらず……朱鷺は命に代えても、必ずお護り申す」
幸吉と朱鷺は屋敷を出ていく。
「それと、清殿……可愛らしき稚児らには、重々お気をつけくだされ」
兵之助が言葉をかけ、根音と根子の頭を撫でた。
「お館さま……ありがたうございまする」
根音が笑顔で返し、根子ははにかみながら微笑んだ。
「まこと、可愛らしき……早う、儂も孫の顔が見とうなったわ……」
兵之助がぼそりと呟いた。
「お心遣い、まことありがたう存じます……お朱鷺殿は、必ずや無事にお連れ申しまする」
「……なんと不思議な魅きある御方よ……されど、なにゆえか深き悲哀を感じるは、いかなることか……」
兵之助は背中を見守りながら囁いた。清は一礼をし笠をかぶり、新山升やを後にした。
カチッ──カチッ──
門をくぐると女将が邪気祓いと旅の安全を願い火打ち石を鳴らす。清はその音を聞きながら幸吉の安らかな仕舞いと朱鷺とその腹に宿る稚児を無事、この屋敷に戻すことを心に誓った。
陽は優しく射し風はゆるりと吹く。一歩一歩がゆっくりと重みを増すことに清は知らず知らずため息をついた……が、表情は決意に満ちていた。
「よいか……これよりは、われを母と心得よ。主従の契りも、しばし忘れるのじゃ。よいな?」
「「……」」
根音と根子は黙って頷く。
「食事の支度、整いましたゆえ……」
襖越しに朱鷺の声がする。すっと襖が開く。
「少しは癒され申したか? これより道中、共に歩まん。なにとぞ、よしなに願い奉る」
朱鷺は深々と頭を下げた。清も頭をさげた。
「こちらこそ……幸吉殿はじめ、皆々さまの御心遣い、かたじけなく存ずる」
堅苦しい会話が続く。ふと根子と根音が立ち上がり、朱鷺の元に寄る。
「これより、よしなにお願いいたしまする……お朱鷺さま……お身を、どうぞお労りくだされ……」
根子がそっと口添えをする。
「……えっ? ありがたうな」
朱鷺が驚き、根子の頭を撫で消えていく。
「おっ母……あのお朱鷺さま……まだお気づきではありませぬが、稚児を宿しておられまする……いろいろと配慮が要るかと……」
「まことか……」
清は新たな問題に直面したと感じた。ただ仕舞うだけではない。この幸吉の家族を巻き込むであろう使命は容易ではない。じりじりと焼け付くような感情を心に仕舞い、食事を頂いた。
そして旅立ちの時───。
「それでは、お館さま……行って参りまする」
「道中、気をつけるのじゃ……それにお雪殿とやらに、たっぷりと甘えてまいれ。積もる話もあろう。それとな、朱鷺を頼んだぞ……」
「お館さま……もはや、わらわは幼子にあらず……朱鷺は命に代えても、必ずお護り申す」
幸吉と朱鷺は屋敷を出ていく。
「それと、清殿……可愛らしき稚児らには、重々お気をつけくだされ」
兵之助が言葉をかけ、根音と根子の頭を撫でた。
「お館さま……ありがたうございまする」
根音が笑顔で返し、根子ははにかみながら微笑んだ。
「まこと、可愛らしき……早う、儂も孫の顔が見とうなったわ……」
兵之助がぼそりと呟いた。
「お心遣い、まことありがたう存じます……お朱鷺殿は、必ずや無事にお連れ申しまする」
「……なんと不思議な魅きある御方よ……されど、なにゆえか深き悲哀を感じるは、いかなることか……」
兵之助は背中を見守りながら囁いた。清は一礼をし笠をかぶり、新山升やを後にした。
カチッ──カチッ──
門をくぐると女将が邪気祓いと旅の安全を願い火打ち石を鳴らす。清はその音を聞きながら幸吉の安らかな仕舞いと朱鷺とその腹に宿る稚児を無事、この屋敷に戻すことを心に誓った。
陽は優しく射し風はゆるりと吹く。一歩一歩がゆっくりと重みを増すことに清は知らず知らずため息をついた……が、表情は決意に満ちていた。
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