花仕舞師

RISING SUN

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第七章──孝(いつくしみ)の若き子、親を忘れし心

93話

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 幸吉は気を遣うようにゆっくりと歩いた。朱鷺にはもちろんのこと根音と根子に合わせるように歩いてくれる。
「清殿も、よくお雪婆に叱られたか? 某は、よう叱られ申した。野原を駆け回り、膝や肘を擦りむくたび、よもぎを揉んで傷口に塗り、「父母に迷惑かけるでないぞ」と……蓬と申せば、蓬団子もよう作ってくれたものじゃ……あれは誠にうまかった! 昨日、清殿らが団子を食う姿、まるでお雪婆と幼き日の某らのようであったわ……」
 次々に昔話に一人、花を咲かせる幸吉。
「左様でございますか……手前はお手玉やあやとりを少々……それにお団子の作り方を教えていただき申した」
 清は話を合わせるので精一杯だった。藁葺き家や風景は覚えていても、ない思い出を作り出すことが心苦しくなっていた。
「やはりおなごよのぉ……それに文字も少しばかり習うたやもしれぬな……」
「左様にございますな……」
「お雪婆のおかげじゃった。お館さまの屋敷にて丁稚でっちとして仕えし折、少しでも文字が書けたがゆえ、お館さまに目をかけていただけた。お朱鷺……お雪婆がおらなんだら、そなたと縁を結ぶこともなかったであろう」
 朱鷺は、よほど幸吉がお雪と会いたいのだなと言葉の弾みで実感した。
「それならば……われからもお礼を申さねばなりませぬな……お雪殿に……」
「うむ……それほどに恩返しを致したき御方じゃ……お元気でおられるかのう。されど、もし覚えてくださらねば……某は何と申したらよいのか……のう~。それに、一度だけ認めた文……まだ持ってくださっておるであろうか? あれは精魂込めて書きしものじゃゆえ、残してくだされば嬉しきことよ……」
「……」
 清は黙って笑みを浮かべたが、幸吉がお雪のことを話せば話すほど反花そりばなのケケケッといやらしい笑みの言葉が心に刺さった。

 ──「それが優しさと申すか……? 会いに行った先に待つは悲劇、その果てにあるは死のみ……先延ばしにあるものは、苦しみばかりぞ……滑稽よな、まこと滑稽……静さまの妹にしては、あまりに甘きことよ……」──

 朱鷺に優しく話し掛ける幸吉の左手甲に浮き上がる花紋様の痣は確かに濃さを増していた。
「幸吉殿……あの……」
 清は声をかけた。
「いかがされた……そのように思いつめし顔をして?」
 幸吉は清の表情に映る影を見て訝しく思った。
「もし……お雪さ……お雪婆が、すでに亡くなられておったら……いかがなさるおつもりにて……?」
 唐突な清の投げ掛けに、先ほどまでの笑顔が幸吉から瞬時に消えた。
「な、なにゆえ、かようなことを申される……清殿……」
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