花仕舞師

RISING SUN

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第七章──孝(いつくしみ)の若き子、親を忘れし心

100話

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「幸吉殿……われ、いまだ未熟にて候。幸吉殿の御志を踏みにじる、愚か者にてござる」
 清は頭を垂れ、迷いを打ち消した。
「幸吉殿には、花紋様の痣が現れておりまする」
「花紋様……痣、とな……?」
 聞き慣れない言葉に戸惑う幸吉。
「左様。それは逃れ難き死の報せにて候。左の手の甲に……今はなお淡きも、確と見え申す」
 幸吉は清の言葉に呼応するように左手を翳した。
「何も見えぬぞ。某の手に痣など……」
「それは花仕舞師たる手前にのみ映ずる異なる痣。逃れ得ぬ運命の印にて……それは、お雪殿にも現れておりました」
「ふっ……虚しきものよのう、清殿。これより稚児ややこが生まれ、お雪婆の遺志を継ぎ、学舎をここに建てようと思うた矢先が、この有り様か……笑うほかあるまい」
「言の葉もござらぬ……幸吉殿」
 幸吉の無念を想うと悔いが残る。
「あと幾ばくの刻が残されておるのじゃ?」
「定かならず。花紋様の痣は、その色の深さにて計るほかありませぬ。突如として色濃くなることもあれば、緩やかに進むことも……ゆえに、われらは幸吉殿に付き従うほか術がなかったのでございます」
「……そうか……納得いかずとも、来るものは来るか……この現世うつしよ、人を弄ぶものよのう」
 幸吉は哀しい笑みを浮かべた。藁葺きの庵に辿り着いた時は天に燦々と陽が輝いていたが今は赤みを空に広げ沈みかけている。しかし沈みかけた天道はそれでも二人を灯した。
「それでもな、清殿……案ずるな。某はまだ生きておる。明日か、数日か……いや、あるいはこの日かもしれぬ。されど、ゆえにこそ後悔はせぬ。某と朱鷺との稚児ややこの顔は見られぬやもしれんが、なすべきを成す、それが某の……お雪婆への恩返しよ……」
 幸吉はそう言い残すと藁葺きに戻って行った。幸吉は屋内を見渡した。命の限りを知ると余計にお雪との想い出が蘇った。しかし、感傷に浸る暇はないと、部屋の隅に置いてある竹で編んだ行季こうりを見つけ開ける。中にひつがあり、木の蓋をカランと開けると茶色く変色した古びた和紙を見つけた。筆らしきものがないか探したがどこにもなく、仕方なく囲炉裏に残っていた棒切れを削ぎ筆にした。墨は囲炉裏の灰を水で溶きなんとか文字を描けるようにした。
「……まだ生きておられることを願うばかりじゃ……」
 当時世話になった村長が生きていることを願い、筆を認めた。そして、最期の願いとして兵之助宛に文を描いた。
「お館様……幸吉、最期の願いにて候。朱鷺と稚児ややこを幸せにしてやれぬ愚は、許してつかわされ……されど、こればかりは、譲れませぬ……」
 涙で和紙を濡らしながら兵之助に想いを綴り描き上げた。
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