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第七章──孝(いつくしみ)の若き子、親を忘れし心
99話
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「そして、おぬしのこと……未だ真実を伝えてはおらぬのであろう? 死の間際に至りながらも……」
「それは……今、申すは幸吉殿にとりて……あまりにも……」
「あまりにも……何と申す? このうつけ! 痣はいかなる時も消ゆることなし……いかに成熟し、いかに幸福に満たされようとも……限りあるものぞ……知れ! 仕舞師が情に流るる時……それは悲劇を招くことを忘るるな! 参るぞ、花化従。刻満ちるその時まで……舞の折、情を持つはすなわち半死を生む一歩なることを……」
静は背を向け去っていく。
「待たれよ……姉さま……何ゆえ……それは? 我が幸吉殿を半死にするとでも……」
清の無情の叫びが木霊する。
「静さま……面の口元から血が滲んでおるでありんす」
花化従がそっと、袖で口元を拭こうとする。
「いらぬ……あのでき損ない……未だ、花仕舞師がなんたるかわかり申しておらぬ……情持てば花仕舞師として……」
「出過ぎでありんした……」
静は花化従の袖を払いのけ、それ以上何も語らず何処へか消えていった。
引戸がガタッと音を立てる。幸吉が出てくる。
「幸吉殿……お朱鷺さまは?」
「疲れたのであろう、今しばし眠りにつかれた。それより……誰かおられたか? 何やら叫ぶ声が聞こえた気が致したが……」
幸吉が聞いてくる。
「……はい……手前の姉さまが……」
「姉さま……?」
「手前の憎むべき相手にてございます……父母をその手にかけた御方……」
「手にかけたと……? それは……殺めたということか……?」
突然の告白に固まる幸吉。
「なぜかは分かりませぬ。ただ、手前が花仕舞師の称号を継ぎしこと……それが逆鱗に触れた様子……もちろん恥ずべき行いにて……手前は一生、許す気などござりませぬが……」
「では……何を語られておった? 一生許せぬ相手と……」
「それは……」
清は言葉が詰まった。
「清殿……一つ確かめとうございます。なぜ清殿は、偽りまでして某らと共に旅を望まれた? お雪婆の真を伝えるため……否、違うであろう? 他に何か……あるのではないか……?」
「……」
清がさらに口を噤む。
「申したくなければそれでもよい……。されど、もし良からぬことであれば……それを癒す刻はあるのか……? いかがか……清殿……」
「それは……それは……」
清は唇を噛む。
「清殿……某は後悔したくはない……なぜなら、この日をもって悟ったゆえ……某はのう、逃げておった。独り立ちし、それを示さんと身を粉にして働いた。されど……新山升やは居心地よき場所となり、お館さまも、お朱鷺も、町の者らも……。じゃが、お雪婆のことは一度も忘れたことはなかった……いつか、いつか……いずれ会えばよいと逃げ続けた。会いたいと願いつつ、後刻にて躊躇した……某は刻を拒んだのじゃ。拒んだ報いが、この日よ……」
静の言葉、花化従の言葉、花徒影の言葉……何より幸吉の言葉が清の心を締め付ける。
「今は、もはやその後悔を繰り返したくはない。清殿が口を閉ざすは、良からぬことよ。ならば……答えよ、清殿。清殿が隠しておること、それは癒す刻があるのか……否か……?」
「それは……今、申すは幸吉殿にとりて……あまりにも……」
「あまりにも……何と申す? このうつけ! 痣はいかなる時も消ゆることなし……いかに成熟し、いかに幸福に満たされようとも……限りあるものぞ……知れ! 仕舞師が情に流るる時……それは悲劇を招くことを忘るるな! 参るぞ、花化従。刻満ちるその時まで……舞の折、情を持つはすなわち半死を生む一歩なることを……」
静は背を向け去っていく。
「待たれよ……姉さま……何ゆえ……それは? 我が幸吉殿を半死にするとでも……」
清の無情の叫びが木霊する。
「静さま……面の口元から血が滲んでおるでありんす」
花化従がそっと、袖で口元を拭こうとする。
「いらぬ……あのでき損ない……未だ、花仕舞師がなんたるかわかり申しておらぬ……情持てば花仕舞師として……」
「出過ぎでありんした……」
静は花化従の袖を払いのけ、それ以上何も語らず何処へか消えていった。
引戸がガタッと音を立てる。幸吉が出てくる。
「幸吉殿……お朱鷺さまは?」
「疲れたのであろう、今しばし眠りにつかれた。それより……誰かおられたか? 何やら叫ぶ声が聞こえた気が致したが……」
幸吉が聞いてくる。
「……はい……手前の姉さまが……」
「姉さま……?」
「手前の憎むべき相手にてございます……父母をその手にかけた御方……」
「手にかけたと……? それは……殺めたということか……?」
突然の告白に固まる幸吉。
「なぜかは分かりませぬ。ただ、手前が花仕舞師の称号を継ぎしこと……それが逆鱗に触れた様子……もちろん恥ずべき行いにて……手前は一生、許す気などござりませぬが……」
「では……何を語られておった? 一生許せぬ相手と……」
「それは……」
清は言葉が詰まった。
「清殿……一つ確かめとうございます。なぜ清殿は、偽りまでして某らと共に旅を望まれた? お雪婆の真を伝えるため……否、違うであろう? 他に何か……あるのではないか……?」
「……」
清がさらに口を噤む。
「申したくなければそれでもよい……。されど、もし良からぬことであれば……それを癒す刻はあるのか……? いかがか……清殿……」
「それは……それは……」
清は唇を噛む。
「清殿……某は後悔したくはない……なぜなら、この日をもって悟ったゆえ……某はのう、逃げておった。独り立ちし、それを示さんと身を粉にして働いた。されど……新山升やは居心地よき場所となり、お館さまも、お朱鷺も、町の者らも……。じゃが、お雪婆のことは一度も忘れたことはなかった……いつか、いつか……いずれ会えばよいと逃げ続けた。会いたいと願いつつ、後刻にて躊躇した……某は刻を拒んだのじゃ。拒んだ報いが、この日よ……」
静の言葉、花化従の言葉、花徒影の言葉……何より幸吉の言葉が清の心を締め付ける。
「今は、もはやその後悔を繰り返したくはない。清殿が口を閉ざすは、良からぬことよ。ならば……答えよ、清殿。清殿が隠しておること、それは癒す刻があるのか……否か……?」
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