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第七章──孝(いつくしみ)の若き子、親を忘れし心
98話
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カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
忌まわしき音が響く。清は目を閉じ笑う。
「やはり、ここにもまた参られたか……花化従……そして、姉さま」
「左様、よくぞ見抜かれ候うたな……されど、花紋様のある御方のもとに、わちきらが参るは理の当然にてござんす。なぁ……静さま……」
花化従の背後から白い花断の面をつけた静が姿を現す。
「でき損ないゆえ、半死を生みては厄介……これぞ姉の情けと思わぬか……清よ」
静は面をつけているため、表情は読めないが含み笑いが言葉に乗り移っている。
「なにゆえ……半死を作るとな……? われは姉さまの如く舞を止めることなど致さぬ。いずこまでわれを愚弄すれば気が済むのだ!」
清は怒りの目で二人を睨んだ。
「おやおや……怖ろしゅうござんすなぁ……静さま。静さまの愚妹は、まだ己れが花仕舞師として優れておると信じて疑わぬようにてありんすよ。まったくもって、勘違いも度を越しておりんして……あぁ、怖い怖い……ぞっと致しんすねぇ……」
「まこと、ここまで愚かしき妹とは……半死が舞を止めし者のみと思うておるか?」
静が冷たく言い放つ。
「何と申す……?」
清が目をつり上げた。
「ゆえに申すにてござんす……感謝はされど、憎まるるは道理にあらず……さて、今度の痣持つ者は、純なる『孝』と思うておるか? 否……それは『拒』に囚われし者……そのこと、先ずは伝えに参りやした……」
どこまでも清を小馬鹿にする花化従。
「何を申す! 幸吉殿は純なる『孝』を育みし御方。『拒』など断じてあらぬ!」
清は拒絶する。静は笑う。
「幼き日の温もりは、今や痛みに転じ、胸の奥に宿り候……名を呼べども、声は返らず……『なぜ』と問いかけど、瞼は閉じられたまま……それは刻こそ永遠と信じしがゆえ……なお愛したきと願いし果て、いずれ来たらん先を期して、ついには先延ばしに致し候……その囚われし心の果て……これぞまさしく『拒』の極みにて候」
静の声が薄気味悪いほど清の心に響いた。
「それに……勘違いなさいますな……妾が『仇花霊々の舞』は、決して花霊々の舞と相反するものにあらず。未練も恐れも否むことなく受け入れ、癒し、終焉へと導く舞なり……されど花霊々の舞は形ばかりの成熟……結局は試練の舞にほかならぬ。そうは思わぬか? だからこそ、おぬしはでき損ないなのだ……」
「それこそ……戯れ言にて候! 姉さまは一族を追われ、称号を剥がされし恨みを今なお抱いておるだけ……必ずや幸吉殿を仕舞うてみせる!」
清は強い言葉をぶつけたが、心が揺らめいていたのがわかった。それは今まで感じた違和感が静の言葉で炙り出されたからだ。
──われが舞う折、姉上は常に……側近くおわす。まるでわれが舞に重ねるがごとく、遮り給う……なにゆえ、仇花霊々の舞をもって、われが舞に打ち当て、阻み続けらるるや? それはいかなる理ゆえぞ? 思えば、お雪殿を仕舞いし折、まことに完璧と信じて舞いたるに、半死へと落としかけたり……これまた、いかなる道理ぞ……? われが舞、未だ至らぬがゆえなるや……?──
カタン──ズゥ……カタン、コトン、スッ……
忌まわしき音が響く。清は目を閉じ笑う。
「やはり、ここにもまた参られたか……花化従……そして、姉さま」
「左様、よくぞ見抜かれ候うたな……されど、花紋様のある御方のもとに、わちきらが参るは理の当然にてござんす。なぁ……静さま……」
花化従の背後から白い花断の面をつけた静が姿を現す。
「でき損ないゆえ、半死を生みては厄介……これぞ姉の情けと思わぬか……清よ」
静は面をつけているため、表情は読めないが含み笑いが言葉に乗り移っている。
「なにゆえ……半死を作るとな……? われは姉さまの如く舞を止めることなど致さぬ。いずこまでわれを愚弄すれば気が済むのだ!」
清は怒りの目で二人を睨んだ。
「おやおや……怖ろしゅうござんすなぁ……静さま。静さまの愚妹は、まだ己れが花仕舞師として優れておると信じて疑わぬようにてありんすよ。まったくもって、勘違いも度を越しておりんして……あぁ、怖い怖い……ぞっと致しんすねぇ……」
「まこと、ここまで愚かしき妹とは……半死が舞を止めし者のみと思うておるか?」
静が冷たく言い放つ。
「何と申す……?」
清が目をつり上げた。
「ゆえに申すにてござんす……感謝はされど、憎まるるは道理にあらず……さて、今度の痣持つ者は、純なる『孝』と思うておるか? 否……それは『拒』に囚われし者……そのこと、先ずは伝えに参りやした……」
どこまでも清を小馬鹿にする花化従。
「何を申す! 幸吉殿は純なる『孝』を育みし御方。『拒』など断じてあらぬ!」
清は拒絶する。静は笑う。
「幼き日の温もりは、今や痛みに転じ、胸の奥に宿り候……名を呼べども、声は返らず……『なぜ』と問いかけど、瞼は閉じられたまま……それは刻こそ永遠と信じしがゆえ……なお愛したきと願いし果て、いずれ来たらん先を期して、ついには先延ばしに致し候……その囚われし心の果て……これぞまさしく『拒』の極みにて候」
静の声が薄気味悪いほど清の心に響いた。
「それに……勘違いなさいますな……妾が『仇花霊々の舞』は、決して花霊々の舞と相反するものにあらず。未練も恐れも否むことなく受け入れ、癒し、終焉へと導く舞なり……されど花霊々の舞は形ばかりの成熟……結局は試練の舞にほかならぬ。そうは思わぬか? だからこそ、おぬしはでき損ないなのだ……」
「それこそ……戯れ言にて候! 姉さまは一族を追われ、称号を剥がされし恨みを今なお抱いておるだけ……必ずや幸吉殿を仕舞うてみせる!」
清は強い言葉をぶつけたが、心が揺らめいていたのがわかった。それは今まで感じた違和感が静の言葉で炙り出されたからだ。
──われが舞う折、姉上は常に……側近くおわす。まるでわれが舞に重ねるがごとく、遮り給う……なにゆえ、仇花霊々の舞をもって、われが舞に打ち当て、阻み続けらるるや? それはいかなる理ゆえぞ? 思えば、お雪殿を仕舞いし折、まことに完璧と信じて舞いたるに、半死へと落としかけたり……これまた、いかなる道理ぞ……? われが舞、未だ至らぬがゆえなるや……?──
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