花仕舞師

RISING SUN

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第九章──忍(しのび)の想い、秘めし愛の守り手

134話

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「清さま──まこと賑わしき町にて候な……皆々、活気に満ちあふれ、それに美味しげなる香りが……やや、あれは団子屋にて候か……! 清さま……疲れ果て申した! 一休み致しとうござる!」
 根音が額に手をかざし、団子屋に向けて一直線に走り出す。
「これ、根音……まこと食い意地ばかり張りおって……たまには根子が望むところにも……」
 清が慌てて手を伸ばす。
「ほんに、あやつめ……清さま、いっそ柱にでも縛り付け申すか? それとも逆さ吊りに……」
「これ! 根子……げに恐ろしきこと申すでない」
 清は膝を折り、根子の目線に自らの目線を合わせた。
「根子は女子ゆえ、愛らしうおしとやかに振る舞うべし……わかり申したか?」
 根子がしおらしく、黙って頷くと清は微笑んだ。
「さて、ならば根子は何処へ参りとう? 絵草紙えぞうし屋か小間物こまもの屋か? 紙細工屋か?」
 根子は顔を真っ赤にしながらもぞもぞと答えた。
「……根子は……」
 さらにもじもじしながら……
「……根子も……団子屋が……」
 清は目を丸くして、笑った。
「ほうか……根子も団子屋とな……ならば参ろうか」
 根子の手を引き、根音のあとを追った。
「早う、清さま……あの団子、まこと美味そうにて……」
 その時、根音が人影とぶつかり転がる。ぶつかった人影も転がる。
「あいたたた……」
 尻餅をついた根音の前に、げにいとほしき童女も尻餅をついている。しかし、童女は自らの埃を払うことなく、すぐさま立ち上がると根音に手を差し伸べる。
「あい、申し訳けなし……痛うはなきかえ?」
 心配そうな表情を浮かべた。
「大丈夫だぁ……」
 根音の傷なき様子にほっとした表情で笑顔を見せた。根音はそのうつくしき顔に見惚れてしまう。
「これ、根音! まこと……痛うなかったか? あい、すまぬ……この子が無礼を……」
 清が童女の埃を払う。
「お気になされるな……われが不注意にて候」
 童女はかいがいしく謙虚な姿勢を見せた。
 男が慌てて走ってくるなり、童女の全身を確認する。
「どうなされた? 怪我はなきや……?」
 清はすぐさま頭を垂れる。
「あい、すみませぬ……手前の根音が無礼を……」
 童女は慌てて父親らしき男に声をかける。
「父上、案ずるなかれ。われは無事にて候……まこと父上は心配性にて……」
 童女は笑う。
「ほうか……それならばよし。そなたらも無事のよう……お互い気をつけねばな」
 男は童女を連れゆっくりと歩き出した。その際、かすかな白檀の薫りが漂った。
「清さま……左の手の甲に……花紋様が……」
 根子の目が先ほどのまでのいとけなき目が変わる。
「……うむ、あれは『しのび』の徳を宿せし者にて候な」
 清が答える。しかし、その傍ら根音は童女の後ろ姿に見とれている。心ここに在らず。見かねた根子が根音に怒りを通り越し、呆れた声で叫んだ。
「この……ませガキ!!」
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