花仕舞師

RISING SUN

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第九章──忍(しのび)の想い、秘めし愛の守り手

144話

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「そなた……身隠の琥太郎殿に相違あるまいな……」
 軍勢の中から声がする。
「その声……もしや、笹虎ささとらか!」
 琥太郎が密命を与えられ、御首頂戴つかまらなければならない相手。
「さすがは身隠の琥太郎殿よ。我が殿が震え上がるも道理。されど……闇に生きる者は、闇なければ翼なき鷹に同じ」
 皮肉めいた笑いが止まらない。夜月を庇うように立ち塞がる琥太郎。

 ──この状況、いささか不利。しかしながら、我の身を犠牲にしてでも夜月は緋美の元に帰さねば……──

 琥太郎は振り返ろうとする。
「夜月……ぐっ!」
 背中から痛みが広がる。まるで何かを突き立てられたように……。
流れ出てくるものを感じる。黒装束から染みでるものが何かわからずにいた。
 振り返るとそこに血を滴らせた忍刀を携えた夜月が立っていた。
「な……何を……夜月……」
 そこに映る目は輝きをなくした夜月の姿。
「哀れなりの……琥太郎殿。最も信じる者に抉られる心地、いかばかりぞ? 我らがそなたの動きを知り得たは、すべて夜月の働きによるものよ。まこと、口惜しかろうなぁ……琥太郎殿……」
 笹虎の勝ち誇る笑いが薄らぐ意識の中、木霊する。
「ど……どういうこと……だ……?」
 意識を強く持ちながら誰にも背を預けることができない状況に絶望しながら、ただひとつの疑念に膝を折るのを食い止める。
「なぜ、裏切った……夜月!  緋美は……どうする……? 最愛の……愛娘は……」
 脳裏に浮かぶは緋美を抱き、あやし、母なる笑みを浮かべる夜月。しかし、そこにあるは琥太郎の悲痛の叫びにさえ答えず、ただ冷たい視線を投げたままの夜月だった。
「なに、夜月は我らが間者よ。端くれにあらず、中核なす者が間者にて候。いやはや、これほど使い勝手のよき者もあるまい……」
 笹虎の言葉が琥太郎に突き刺さる。思い出された母なる夜月の顔がどろどろに溶けていく。緋美を抱く夜月の姿が醜きながら涙を流す物の怪に見える。

 ──夜月が間者……まことのことなのか……?──

 意識を遠退かせながら痛みに堪える琥太郎。そして耳をさらに疑う言葉が琥太郎を襲う。
「さて、夜月……貴様の役目もここまでよ。我らが主の御敵、琥太郎もこの通り。後は切り刻み、その首を持ち帰るのみ。つまり……貴様はもはや用済みにて候」
「なっ……約束が……」
 夜月は言葉を喪う。笹虎は采配を掲げる。一斉に弓を構える兵。
「みなの者、あの二人に矢を放て──」
 振り下ろされる采配。弓を構えた兵たちはその号令に合わせ矢を放つ。飛び交う矢じりの群れはまるで針山が向かってくる様。すべてがついえる時が琥太郎の瞳孔に映る。
「無念……許せ……緋美……夜月を……お前の元へ……送り届けられず……」 

 ドスドスドスッ──

 何本もの矢じりが肉に突き刺さる音が聞こえた。松明の灯しさえ、闇に消えていきそうな鈍い音が広がった。
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