花仕舞師

RISING SUN

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第九章──忍(しのび)の想い、秘めし愛の守り手

143話

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 ──十年前──

夜月よづき、今宵の密命、くれぐれも気を付けられよ……敵陣深く斬り込むゆえ、しくじれば命取りにて候」
「心得ておりまする……」
「それに、稚児ややこも産まれたばかり……無理をなさることもなかったのではござらぬか?」
「確かに、愛しき娘、緋美を胸中に想えば心苦しゅうございまする……されど、我ら忍びの身。掟に従うは定めにて候」
 琥太郎、夜月は言葉を軽く交わし、上弦の月光の中敵方陣の川下で影を潜めた。
 当時、ある国の忍びの里、身隠みかくれにて筆頭たる腕の持ち主であり、里、党首の信頼も厚く重要な密命で絶対的な力を発揮していた。そして夜月もくノ一として紅一点でありながらも他の忍よりも抜きん出ていた。
 そして今宵の密命、その領主から敵対国の一番手将を密かに絶つめいが下されていた。
「やけに静かにてござるな……」
 黒の頭巾をかぶり気配を伺う琥太郎。確かに見張りらしき人物は確認できたが、しかしあまりにも粗末な見張り。この暗闇、松明の灯りは命綱。灯さねば闇を支配する者どもの格好の餌食も同然。だが各箇所に点々と灯す程度。これでは狙えと言うもの。
「夜月……何か怪しきことと思わぬか?」
「何を仰せられる。確かに手薄には見ゆるが、それは我らが力を侮りし証ぞ。進みまするぞ、琥太郎殿……」
 闇夜に紛れる夜月。
「待たれよ! 夜月……どうなされた……?」
 今まで勝手行動を取らなかった夜月。しかし、焦るが如く突進する夜月。
「仕方なし……皆、段取りどおり事を運べ!」
 他のともがら衆に指示を出す。各地に配置した身隠衆が動き出す。
 しかし……事運ぶ前にすべてが見抜かれたように明々と松明が灯る。それは琥太郎たちすべてを照らすように。影が消えていく。

「今ぞ……! この灯りは我が御旗に味方せり! 賊どもを討ち滅ぼせ!」
 敵方から戦声いくさごえが響く。多勢なる軍が声をあげ押し寄せる。
「退け……ここは一旦退けぇ──!」

 ──なぜ……敵は我らが奇襲を知った? それに陣の配置を?──

 琥太郎が叫ぶ。が、影に生きた者が影を消され水辺に打ち上げられた魚と同じ。血飛沫が舞い、一つ一つ影が消えていく。琥太郎は応戦しながらも徐々に押されていく。舞うように忍者刀を振りなんとかかわす。しかしながら闇夜を敵に奪われた琥太郎の力は半減する。
「夜月……どこだ……どこにおる……!?」
 消え行く仲間たちの中、取り囲まれた夜月を見つける。
「夜月──!」
 敵方を切つけ、なんとか夜月の元に辿り着く。
「無事か、夜月……」
「すまぬ、琥太郎殿……われが不覚にて……このような……結末……」
「案ずるな……今は退くことのみぞ……緋美の元へ帰ること、まずはそれが肝要にて候……」
 しかし、二人に明々と灯る松明は風前の灯だった。
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