花仕舞師

RISING SUN

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第一章── 仁(めぐみ)の導き手、孤独なる老婆

10話

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「柳の舞、しかとご覧じあれ──」
 花霧はその名の如く、まさしく霧のように姿が定まらない。時に幻、時に道標。お雪が過去や記憶に惑わぬように、徐々に霧を振り払う。それは、線香花火の柳のように枝垂れながら舞う。仕舞いが終わりを告げると、霧が晴れ、視界が開け、花霧の姿が明瞭になった。白い目、白い髪を靡かせ、靄のかかるが如く白い、霧霞きりがすみの衣を纏い、うぶな姿で舞を閉じる。そして最後に、花枝の陸、花誓はなうけが蕾が咲くと顔を出す。その刹那、その場は荘厳、厳粛な社が姿を現す。
「これは幻か──」
 お雪は突如現れた社に驚きを隠せない。花で編まれた優雅ゆうげの花冠を頭にかぶり、花契筆ノ詞綴はなちぎりふでのことばつづりを抱き、白紲神環しらつなぎかむわの衣と呼ばれる白衣緋袴を羽織る巫女姿。お雪の『願い』や『覚悟』を天へ届け、意義を成就させる役割を担う。
散菊ちりぎくの舞、いざ奏で奉らん──」
 舞を披露し、花契筆ノ詞綴を最後にお雪に見せる。お雪が頷くと、花誓は誓約が成立したことを知らせるように、それを掲げた。花契筆ノ詞綴を掲げた瞬間、書の文字が淡く光り、空へと舞う。まるでお雪の『めぐみ』が天へ刻まれるように舞い上がる。
  花天照が天に指を指し、光が包む。その光の中で、花護人たちに仕舞われたお雪は浄化され、消滅し始めた。 
 花護人が舞い終わると、清が舞を締めるように舞い始める。お雪の鼓動を受け入れ、激しく、時には静かに──そして花結はなむすびを唱える。

 ──めぐみの名のもとに、花は結ばれ、土と風とに還りゆく。それは終わりではなく、始まりの契り……──

 一呼吸置き、花霊々の舞の終わりを迎える。
「此にて花結、締結──」
 右手めてが持つ線香花火の玉が静かに落ちる。地面に触れると目映まばゆい光がすべてを包み込むように広がり、それぞれの花護人は光の中、静かに消えていった。
 お雪は穏やかな顔をして、人生の終幕を閉じようとしている。
 清は膝をつき、息を切らしていた。壮絶な舞いに、清の表情は疲労が滲み出ていた。清は膝をつき、息を整えようとするが、なかなか整わない。ふと、清は自分の指先がわずかに透けている気がした。だが、それに気づく者はいなかった。
 そして、清は再び悪夢のような淀んだ記憶に取り憑かれ始める。暗闇の中、誰よりも威厳を纏い、舞いの本質を見せつける姿 ──。暗闇に紛れているが、誰がそれを舞っているか、憎悪により炙り出す。頭を押さえる清。その記憶は清の頭を締めつけるが、痛みは伴わない。なのに、魂そのものが、かすかに揺らくような感覚に陥った。

 なぜか──舞い終わるたびに、無情な憎悪が胸を満たしていく。そしてその憎悪が清を支配する時、必ず浮かぶ姿がある。
「またか……!? またか──! われに仇なす御姿──!」
 片時の混乱が、清に生じた。
「「清さま、清さま……いかがにてござりまするか?」」
 舞終えた花根孖の根音と根子が駆け寄る。すでに舞を披露した面影はなく、いつもの幼さを宿す二人に戻っている。
「今度こそは……今度こそは、安らかにてあらん……お雪さまは……いかがに?」
 息を整えながら、清はお雪の姿を確認しようとする。
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