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17話:帰還
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異世界生活九日目(続々)
勝さんの殻の中は不思議な空間だった。外からは光っていて何も見えなかったのに、中からは360度、外の景色が見渡せる。
「すごい……!」
わたしたちの住処が、どんどん小さくなっていく。あっ、ベンケイガニさんたちが、ハサミを振って見送ってくれている。
(こんなに慕ってくれてるみんなを、私は置いて行こうとしてるんだ……)
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
「メグミー! からのなかすごいねー!」
「うん、外がこんなに綺麗に見えるなんてびっくりだね」
「え、外が見えるの? そんな機能あったの?」
「えっ……勝さん、知らなかったんですか?」
「いや~、殻として背負ってただけだからね。実は中に入ったの初めてなんだ」
「初めて!? それで“乗れる”って断言してたんですか!?」
「まあ、殻が“乗っていいよ”って教えてくれたから……」
「殻に意識あるんですか……?」
「たぶんね、なんかAI的なサムシングが入ってるっぽいんだよね」
呆れを通り越して、もう感心するしかない。
「じゃ、出発するよー。捕まれるところあったら掴まってて!」
ドシン!
視点が一気に高くなる。いつも水を引いている沢が、すぐそこに見える。
勝さんが動き出すと、景色が流れるように後ろへと飛んでいく。でも殻の中は、まるで動いていないかのように静かだった。
「本当に動いとるのかわからんくらい静かですごいのう……」
ガザ爺も、わたしと同じ感想のようだ。
ズシン、ズシン、ズシン……
あっという間に森を抜け、巨大な茶色い岩壁の前にたどり着いた。
「この先、登るから壁にもたれてたほうがいいよー!」
「えええええっ!?」
ガシン、ガシン、ガシン!
景色が空を向いているのに、体はまったく傾かない。壁に押しつけられることもない。
(超古代文明の技術……すごすぎる!)
「空、飛んでるみたいだね!」
ミコちゃんは楽しそうだけど、わたしはちょっと生きた心地がしない。
そして岩壁を越えると――そこには、砂漠とクリスタル状の破片がどこまでも広がる、不思議な景色が現れた。
「ここがこの大陸の中心地。“滅びの地”って、俺は勝手に呼んでる」
「クリスタルの破片は、古代都市の名残だよ。さあ――もうすぐ、“次元の穴”に着く」
いよいよ、元の世界に……帰れるんだ。
ミコちゃん、コメちゃんズ、ガザ爺……みんなとも、もうすぐお別れ――。
「みんな、ここまでついてきてくれてありがとう。わたし、元の世界に帰るね」
「うむ、向こうでも達者でな。気にせんでよい、わしらは自然と共に生きていく」
「メグミに会えてよかった! カニたちと仲良くなるきっかけをくれた」
「メグミー、げんきでねー!」
みんなの言葉に、胸がいっぱいになる。
「着いたぞ。これが、“次元の穴”だ」
そこには、虹色の縁をまとった黒い穴がぽっかりと開いていた。
私は、殻から降りて、そっと近づく。
穴の奥に、日本の街並みが映し出された。――わたしの住んでいた街だ。
(さようなら、みんな――)
覚悟を決めて、わたしは飛び込んだ――
バチバチバチーーーーーン!
「っ!?」
――はじき出された。
「やっぱりか~」
「え!? ど、どういうことですか勝さん!」
「うん、恵ちゃんはね……“存在力”が大きくなりすぎたんだ」
「存在……力?」
「こっちの世界の魔力を浴びて、普通の人間より“強すぎる存在”になっちゃった。日本じゃその力を受け止めきれないんだよ」
「そんな……じゃあ、もう帰れないってこと?」
「うん。もしかしたら、まだ人間の姿だから通れるかもと思ったんだけど……無理だったみたいだね」
「……」
「でも、君の気持ちに反応して、“次元の穴”は君の街を映している。言葉だけなら、伝えられると思うよ」
私は、強く両親のことを思い浮かべた。
次元の穴が揺れ、実家の居間が映し出される。父と母が、そこにいた。
「お父さん! お母さん!」
「……ん? 恵の声か?」
「あなた、上見て! 恵が……恵がいるわ!」
「恵! 無事だったのか……!」
「ごめんなさい……信じられないかもしれないけど、わたし、異世界に行って……もう帰れなくなっちゃったの!」
「異世界……って、それ……」
「でも、こっちには、助けてくれるカニさんたちがたくさんいるの!」
「カニ!?」
「うん、紹介するね!」
私は殻に戻り、ミコちゃんたちを呼び出した。
「メグミ!? 帰ったのではないのか?」
「帰れなかったの。でも、両親に挨拶だけさせたいの!」
再び次元の穴に繋ぐと、父母の驚いた顔が見えた。
「こっちで一緒に過ごしてきた仲間たちだよ!」
「で、でかい……」
「いつも恵がお世話になっております」
(あっ、通じない!)
私は慌てて通訳する。
「えーっと、ガザ爺が『娘さんを奪ってしまったようで申し訳ない』って……でも、すごく感謝してるって」
「そうですか……なら、それで十分です」
「メグミの幸福は、わしらが全力で守ります!」
「メグミのしあわせは、ぼくらのしあわせ!」
「恵、また話せるのかい?」
「……それは俺から。今回の通信は奇跡。次に繋がる保証はないし、続けるとそちらの世界が危険に晒されるかもしれない」
「一回きり、なんだ……」
「お父さん、お母さん、わたし……こっちで幸せに生きていくから! だから、悲しまないで……!」
通信が揺れ始める。
「チャンネルが切れる……もう、お別れだ」
「二人とも、ずっと元気でいてね! わたしも、ずっと元気だから!」
「恵ぃぃぃ!」
通信が……切れた。
――私は、もう帰れない。
でも、この世界には、わたしを想ってくれる仲間たちがいる。
ここからが、本当の異世界生活の始まりなんだ!
勝さんの殻の中は不思議な空間だった。外からは光っていて何も見えなかったのに、中からは360度、外の景色が見渡せる。
「すごい……!」
わたしたちの住処が、どんどん小さくなっていく。あっ、ベンケイガニさんたちが、ハサミを振って見送ってくれている。
(こんなに慕ってくれてるみんなを、私は置いて行こうとしてるんだ……)
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
「メグミー! からのなかすごいねー!」
「うん、外がこんなに綺麗に見えるなんてびっくりだね」
「え、外が見えるの? そんな機能あったの?」
「えっ……勝さん、知らなかったんですか?」
「いや~、殻として背負ってただけだからね。実は中に入ったの初めてなんだ」
「初めて!? それで“乗れる”って断言してたんですか!?」
「まあ、殻が“乗っていいよ”って教えてくれたから……」
「殻に意識あるんですか……?」
「たぶんね、なんかAI的なサムシングが入ってるっぽいんだよね」
呆れを通り越して、もう感心するしかない。
「じゃ、出発するよー。捕まれるところあったら掴まってて!」
ドシン!
視点が一気に高くなる。いつも水を引いている沢が、すぐそこに見える。
勝さんが動き出すと、景色が流れるように後ろへと飛んでいく。でも殻の中は、まるで動いていないかのように静かだった。
「本当に動いとるのかわからんくらい静かですごいのう……」
ガザ爺も、わたしと同じ感想のようだ。
ズシン、ズシン、ズシン……
あっという間に森を抜け、巨大な茶色い岩壁の前にたどり着いた。
「この先、登るから壁にもたれてたほうがいいよー!」
「えええええっ!?」
ガシン、ガシン、ガシン!
景色が空を向いているのに、体はまったく傾かない。壁に押しつけられることもない。
(超古代文明の技術……すごすぎる!)
「空、飛んでるみたいだね!」
ミコちゃんは楽しそうだけど、わたしはちょっと生きた心地がしない。
そして岩壁を越えると――そこには、砂漠とクリスタル状の破片がどこまでも広がる、不思議な景色が現れた。
「ここがこの大陸の中心地。“滅びの地”って、俺は勝手に呼んでる」
「クリスタルの破片は、古代都市の名残だよ。さあ――もうすぐ、“次元の穴”に着く」
いよいよ、元の世界に……帰れるんだ。
ミコちゃん、コメちゃんズ、ガザ爺……みんなとも、もうすぐお別れ――。
「みんな、ここまでついてきてくれてありがとう。わたし、元の世界に帰るね」
「うむ、向こうでも達者でな。気にせんでよい、わしらは自然と共に生きていく」
「メグミに会えてよかった! カニたちと仲良くなるきっかけをくれた」
「メグミー、げんきでねー!」
みんなの言葉に、胸がいっぱいになる。
「着いたぞ。これが、“次元の穴”だ」
そこには、虹色の縁をまとった黒い穴がぽっかりと開いていた。
私は、殻から降りて、そっと近づく。
穴の奥に、日本の街並みが映し出された。――わたしの住んでいた街だ。
(さようなら、みんな――)
覚悟を決めて、わたしは飛び込んだ――
バチバチバチーーーーーン!
「っ!?」
――はじき出された。
「やっぱりか~」
「え!? ど、どういうことですか勝さん!」
「うん、恵ちゃんはね……“存在力”が大きくなりすぎたんだ」
「存在……力?」
「こっちの世界の魔力を浴びて、普通の人間より“強すぎる存在”になっちゃった。日本じゃその力を受け止めきれないんだよ」
「そんな……じゃあ、もう帰れないってこと?」
「うん。もしかしたら、まだ人間の姿だから通れるかもと思ったんだけど……無理だったみたいだね」
「……」
「でも、君の気持ちに反応して、“次元の穴”は君の街を映している。言葉だけなら、伝えられると思うよ」
私は、強く両親のことを思い浮かべた。
次元の穴が揺れ、実家の居間が映し出される。父と母が、そこにいた。
「お父さん! お母さん!」
「……ん? 恵の声か?」
「あなた、上見て! 恵が……恵がいるわ!」
「恵! 無事だったのか……!」
「ごめんなさい……信じられないかもしれないけど、わたし、異世界に行って……もう帰れなくなっちゃったの!」
「異世界……って、それ……」
「でも、こっちには、助けてくれるカニさんたちがたくさんいるの!」
「カニ!?」
「うん、紹介するね!」
私は殻に戻り、ミコちゃんたちを呼び出した。
「メグミ!? 帰ったのではないのか?」
「帰れなかったの。でも、両親に挨拶だけさせたいの!」
再び次元の穴に繋ぐと、父母の驚いた顔が見えた。
「こっちで一緒に過ごしてきた仲間たちだよ!」
「で、でかい……」
「いつも恵がお世話になっております」
(あっ、通じない!)
私は慌てて通訳する。
「えーっと、ガザ爺が『娘さんを奪ってしまったようで申し訳ない』って……でも、すごく感謝してるって」
「そうですか……なら、それで十分です」
「メグミの幸福は、わしらが全力で守ります!」
「メグミのしあわせは、ぼくらのしあわせ!」
「恵、また話せるのかい?」
「……それは俺から。今回の通信は奇跡。次に繋がる保証はないし、続けるとそちらの世界が危険に晒されるかもしれない」
「一回きり、なんだ……」
「お父さん、お母さん、わたし……こっちで幸せに生きていくから! だから、悲しまないで……!」
通信が揺れ始める。
「チャンネルが切れる……もう、お別れだ」
「二人とも、ずっと元気でいてね! わたしも、ずっと元気だから!」
「恵ぃぃぃ!」
通信が……切れた。
――私は、もう帰れない。
でも、この世界には、わたしを想ってくれる仲間たちがいる。
ここからが、本当の異世界生活の始まりなんだ!
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