闇堕ち騎士と呪われた魔術師

さうす

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9.奴隷の少年

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「俺はあいつを苦しめてきた王子や王女が嫌いだ。それに気づきもしなかったくせに、あいつが死んだときだけ『なぜ主人を守れなかった』と俺を責めた国王や王妃も……」
「落ち着け、ランスロット」

 マーリンに頭を撫でられ、俺はハッと我に返った。

「黒い気が大きくなっている。魔物を呼び寄せるぞ」
「……ごめん」

 俺はローブをマーリンに返し、洗濯し終わったばかりの服に袖を通した。

「そろそろ帰ろう。日が暮れちまう」
「そうだな。……ん? 今日も泊めてくれるのか?」
「だって、お前、行くあてないんだろ。魔王が復活するまでは俺の家にいろよ」

 俺の言葉に、マーリンはしばらく黙って何か考え込んでいた。

「なんか言えよ」
「満月の日まで理性を保てる気がしないのだが……」
「は?」
「ランスロット……俺に好かれているということにもっと自覚を持ってくれ。俺が寝込みを襲ったらどうするんだ」

 理性を保てる気がしないって……そういうことかよ。

「そのときは斬り殺す」
「容赦ないな……」

 俺たちは荷物をまとめて、森を出るために歩き出した。

「国王が暗殺されたとなると、これからこの国はどうなるんだろうか」
「第一王子が国王になるだろうな……あの男は何を考えてるのか分かんねえ。先行きが不安だな。それに、しばらくは国中が喪に服すことになる。魔王復活までは大人しく家にいた方がいいかもな」

 俺たちが薄暗くなってきた森の中を歩いていると、木のそばでうずくまっている少年の姿が見えた。

「迷子か?」

 マーリンが少年に近づき、声をかけた。

「こんなところで何をしている」

 少年は何も言わず、じとっとした目でマーリンを見上げた。生意気なガキだな、と思ったとき、俺は少年の足に鎖がついていることに気がついた。

「お前……奴隷か?」

 俺が思わず口にした言葉に、少年は嫌そうな顔をして俯いた。図星らしい。

「主人のところから逃げてきたのか? こんな森にいても飢え死にするだけだ。俺がしばらく匿ってやるよ。俺も昔、奴隷身分だったことがあるから、奴隷の苦しみはよく分かる。そんなに警戒するな。こっちに来い」

 俺がそう言うと、少年はすっと立ち上がって俺たちの方にやってきた。素直に言うことを聞くじゃないかと思っていると、ふっと少年の目に殺気が宿った。俺はドキッとして、剣に手をかけた。だが、遅かった。少年はナイフでマーリンの腹を突き刺していた。

「何……してんだ、お前……!」

 俺は咄嗟に少年を蹴り飛ばした。少年はぼそぼそとした声で言った。

「俺の父さんは、魔王のせいで死んだ……魔術師は敵だ……!」

 少年はナイフを持ったまま、怯えたように震えていた。

「魔術師め……殺してやる……!」

 少年が再びナイフを持って襲いかかってきた。俺は剣を引き抜き、少年の肩を斬りつけた。少年はナイフを落とし、呻き声を上げてうずくまった。

「騎士相手にナイフ一本で勝とうだなんて、百年早いんだよ」

 俺が少年の肩を蹴ると、少年は悲痛な叫び声を上げた。俺は少年の首に剣を突きつけた。

「やめろ、ランスロット」

 マーリンに止められて、俺はハッと振り返った。マーリンの腹を押さえる手は血にまみれていた。

「マーリン、大丈夫か……!? いや、大丈夫なわけねえよな……?」
「大丈夫だ。それより、少年の手当てを……」
「はあ!? お前、自分が刺されてるのに、相手の心配してんのかよ!」
「少年は奴隷だ……病院に連れて行けば、主人の元に連れ戻される……。魔術師はもともと憎まれる存在だ。こういうことには慣れている。お前も、魔術師を憎く思う気持ちは分かるだろう。急所は逸れている……俺のことはいいから、少年を助けてやれ」
「……分かった」

 俺はうずくまっている少年の傷に、魔物討伐で万が一怪我をしたときのために持ってきていた薬を塗って、自分のマントを包帯代わりにして巻いてやった。
 マーリンは少年に向かって言った。

「お前は、魔王が憎いのだな」

 少年は黙って小さく頷いた。

「魔王は近いうちに復活する。その仇討ち、必ず俺たちが果たそう」
「俺を……殺さないの……? 俺はあんたを殺そうとしたのに……!」
「子どもを手にかけるほど、俺は悪趣味ではない」
「おい、マーリン。それ、俺が悪趣味な男だって言ってんのか? 俺はお前を心配して……」

 いや、なんで俺がマーリンのことをこんなに心配してるんだ? これじゃあ、やっぱり、俺がマーリンに絆されてるみたいだ。

「そうだな、ランスロット。主人を守るのは騎士の務め。余計な心配をかけたな」
「そ、そうだ……主人を守るのは騎士の務め!! 別に絆されてるわけじゃねえからな!!」
「分かっている」

 マーリンは俺に微笑みかけた。
 なんだ、その余裕ある態度。気に入らねえ。

「とりあえず家に帰って、手当てするぞ。……おい、ガキ。もう急に他人を襲ったりするなよ! 森を出た先に教会がある。そこなら、お前の助けになってくれるだろう。俺たちに匿われるよりもそっちの方がいいだろ?」

 俺が少年に告げると、少年は礼も言わず、逃げるように去っていった。

「チッ、生意気なガキだったな」
「しかし、ランスロットに似ていたぞ」
「どこがだよ」
「魂の色だ。孤独と憎悪を抱えている。そういう人間は幸せにしてやりたくなる。……世界は歪だ。魔法が使える者と使えない者の分断があまりに大きい。俺はいつか、そんな世界を丸ごと壊してしまいたい」
「……無謀だな」
「そうか?」

 マーリンはふっと笑って俺に尋ねた。その表情は自信に溢れていた。……彼なら本当に、成し遂げることができるんじゃないかと思ってしまうほどに。

「まあ、お前ならきっとできるよ」

 俺は森の先を見つめて呟いた。

「ああ、できる。ランスロットと一緒なら、どんなことでも」
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