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10.国王への献花
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国王が暗殺されたというニュースは、瞬く間に国中を駆け巡った。街はすっかり葬式ムードになり、賑わいを失っていた。
俺はマーリンの怪我が早く治るように、薬を調達したり、身体に良さそうなものを食べさせてやったりしていた。甲斐甲斐しく世話を焼いている自分がまるでマーリンの嫁のようだな、なんてつまらないことを考えながら数日が経った頃。
「ランスロットは、国王の葬式に参列しなくていいのか」
とマーリンが言い出した。
「いいよ、俺は……城のヤツらからの信頼は地に堕ちてる」
「だが……お前と勇者を巡りあわせたのは、国王なのだろう?」
俺はマーリンの腹に包帯を巻き直してやりながら、マーリンの鍛え上げられた肉体をぼんやりと眺めた。
確かに、俺を騎士団に入れる許可を出したのも、あいつの護衛騎士に任命したのも、あの国王だ。俺は国王をただ憎い人間のひとりだと思っていたが、マーリンの言う通り、あいつと出会うきっかけを作ったのは、国王だと言っても過言ではなかった。
「でも、やっぱり俺は葬式には参列できねえ。城に戻ったら、王子や騎士団に何をされるか分からねえから……」
「そうか……」
マーリンはなぜか寂しげな顔をした。自分のせいで俺が城に戻れなくなったとでも言うかのように。そこで俺はふと思い出して、「だけど」と続けた。
「街に国王のための献花台が用意されてる。そこに花を持って行こうかな」
俺がマントを羽織り、出かけようとすると、マーリンは安堵したように頷いた。
「ああ、そうするといい」
俺は家を出て、近くの花屋に向かった。すると、花屋の店員のおばさんが話しかけてきた。
「ランスロット様……葬儀に参列されるのですか?」
「いや……俺は今、出仕してないからな。でも、献花をしようと思って」
「そうですか……。今回の件、魔王軍の魔術師の犯行らしいですよね。なんて恐ろしいんでしょう……」
魔王軍と魔術師は恐ろしい。この国の一般的な感覚だ。それなのに、俺は気がつくと何か反論しようと試みていた。
「俺も……最近まで、魔王軍の魔術師はみんな悪だと思っていた。だけど……」
マーリンは違う。
そう言いそうになって、俺は不意に、なんで自分はマーリンを庇おうとしているんだと不思議に思った。彼だって、俺たちに刺客を差し向けていた魔王軍の一員だったはずなのに。
「いや、なんでもない」
俺は適当に誤魔化して、白い花を手にし、店を出た。
夕方近くになっていたこともあり、街の広場の献花台の前には人集りができていた。
「ランスロット様だ……」
「ここ最近、見かけなかったよな……」
街の人が俺を避けるように道を空けた。
驚かれるのも無理はない。つい最近まで勇者像の前でただ自暴自棄になっていた俺が、自ら行動を起こすようになったのだから。
俺は白い花を献花台に供え、何となく城に思いを馳せた。俺が感傷に浸っていると、人々が急にざわめきだし、悲鳴を上げて逃げ出した。
振り返ると、魔王軍の印がついた巨大な魔物が這っていた。魔王軍の魔術師が手配したのか、魔王がかつて生み出した魔物の生き残りなのかはよく分からないが、とにかく街の人を襲おうとしているようだった。あるいは、献花台に漂う悲しみに惹かれて来たのかもしれない。
俺は自分の感傷を台無しにされて不快な気分になり、魔物を睨みつけた。
醜い獣のような姿をした魔物は、
「グオオオオオッ!!」
と声を轟かせて献花台を薙ぎ倒した。
「うわあああああん」
子どもの泣き声が聞こえ、見ると献花台のそばで、逃げ遅れた女の子がうずくまっていた。
魔物は女の子を巨大な足で踏みつけようとする。俺は咄嗟に走って女の子を抱え、献花台から離れた。
「おい、泣くな!」
俺が大声で言ってしまったからか、女の子はますます大きな声で泣き出した。
くそっ、こういうとき、あいつならどうする? あるいは、マーリンなら……。
俺は女の子を狭い路地に下ろし、屈んで女の子の目線に合わせた。
「大丈夫。魔物は必ず俺が倒す」
女の子の頭を優しく撫でると、女の子は鼻を啜って頷いた。
魔物は散らばった花をモソモソと貪っていた。俺は剣を抜いて、魔物の身体を踏みつけて上に乗ると、魔王軍の印が刻まれた胴体に剣を突き刺した。
魔物は呻き、暴れて俺を振り落とした。俺は飛び退くようにして着地し、再び魔物の身体に飛び乗って、剣を引き抜いた。魔物は俺を睨み、牙を向けて俺のマントを噛みちぎった。俺は構わず、魔物の足を斬り落とした。魔物はさらに暴れ、白い花が空中に舞った。
「しぶといな」
俺は走って魔物の背中の方に回り込み、魔物の首を刎ねた。
魔物の巨大な頭がごろごろと転がり、魔物は目を見開いたまま動かなくなった。
逃げていた街の人々が恐る恐る広場の様子を見に戻ってきた。
「さすがランスロット様だ……」
「あんな巨大な魔物をおひとりで倒してしまうなんて……」
街の人々に見られながら、俺はさっきの女の子に近寄った。
「きしさま」
女の子が俺の手をくいっと引っ張った。
俺は「どうした?」と聞きながら、女の子の目線に合わせるように屈んだ。
「ありがと」
女の子は俺の頬に優しく口づけをした。
俺は照れ臭くなりながら、女の子に
「お前、家はどこだ? 送って行くよ」
と言った。
「あっち」
女の子が指差す方に向かって、俺は女の子の手を握り、歩き出した。
「あっ!」
女の子が声を上げた。
「みて、きしさま。きれいなおつきさま!」
俺はハッとして空を見上げた。
夕暮れの空に、白く丸い月が浮かんでいた。
「いよいよ、魔王が復活するのか……」
俺はマーリンの怪我が早く治るように、薬を調達したり、身体に良さそうなものを食べさせてやったりしていた。甲斐甲斐しく世話を焼いている自分がまるでマーリンの嫁のようだな、なんてつまらないことを考えながら数日が経った頃。
「ランスロットは、国王の葬式に参列しなくていいのか」
とマーリンが言い出した。
「いいよ、俺は……城のヤツらからの信頼は地に堕ちてる」
「だが……お前と勇者を巡りあわせたのは、国王なのだろう?」
俺はマーリンの腹に包帯を巻き直してやりながら、マーリンの鍛え上げられた肉体をぼんやりと眺めた。
確かに、俺を騎士団に入れる許可を出したのも、あいつの護衛騎士に任命したのも、あの国王だ。俺は国王をただ憎い人間のひとりだと思っていたが、マーリンの言う通り、あいつと出会うきっかけを作ったのは、国王だと言っても過言ではなかった。
「でも、やっぱり俺は葬式には参列できねえ。城に戻ったら、王子や騎士団に何をされるか分からねえから……」
「そうか……」
マーリンはなぜか寂しげな顔をした。自分のせいで俺が城に戻れなくなったとでも言うかのように。そこで俺はふと思い出して、「だけど」と続けた。
「街に国王のための献花台が用意されてる。そこに花を持って行こうかな」
俺がマントを羽織り、出かけようとすると、マーリンは安堵したように頷いた。
「ああ、そうするといい」
俺は家を出て、近くの花屋に向かった。すると、花屋の店員のおばさんが話しかけてきた。
「ランスロット様……葬儀に参列されるのですか?」
「いや……俺は今、出仕してないからな。でも、献花をしようと思って」
「そうですか……。今回の件、魔王軍の魔術師の犯行らしいですよね。なんて恐ろしいんでしょう……」
魔王軍と魔術師は恐ろしい。この国の一般的な感覚だ。それなのに、俺は気がつくと何か反論しようと試みていた。
「俺も……最近まで、魔王軍の魔術師はみんな悪だと思っていた。だけど……」
マーリンは違う。
そう言いそうになって、俺は不意に、なんで自分はマーリンを庇おうとしているんだと不思議に思った。彼だって、俺たちに刺客を差し向けていた魔王軍の一員だったはずなのに。
「いや、なんでもない」
俺は適当に誤魔化して、白い花を手にし、店を出た。
夕方近くになっていたこともあり、街の広場の献花台の前には人集りができていた。
「ランスロット様だ……」
「ここ最近、見かけなかったよな……」
街の人が俺を避けるように道を空けた。
驚かれるのも無理はない。つい最近まで勇者像の前でただ自暴自棄になっていた俺が、自ら行動を起こすようになったのだから。
俺は白い花を献花台に供え、何となく城に思いを馳せた。俺が感傷に浸っていると、人々が急にざわめきだし、悲鳴を上げて逃げ出した。
振り返ると、魔王軍の印がついた巨大な魔物が這っていた。魔王軍の魔術師が手配したのか、魔王がかつて生み出した魔物の生き残りなのかはよく分からないが、とにかく街の人を襲おうとしているようだった。あるいは、献花台に漂う悲しみに惹かれて来たのかもしれない。
俺は自分の感傷を台無しにされて不快な気分になり、魔物を睨みつけた。
醜い獣のような姿をした魔物は、
「グオオオオオッ!!」
と声を轟かせて献花台を薙ぎ倒した。
「うわあああああん」
子どもの泣き声が聞こえ、見ると献花台のそばで、逃げ遅れた女の子がうずくまっていた。
魔物は女の子を巨大な足で踏みつけようとする。俺は咄嗟に走って女の子を抱え、献花台から離れた。
「おい、泣くな!」
俺が大声で言ってしまったからか、女の子はますます大きな声で泣き出した。
くそっ、こういうとき、あいつならどうする? あるいは、マーリンなら……。
俺は女の子を狭い路地に下ろし、屈んで女の子の目線に合わせた。
「大丈夫。魔物は必ず俺が倒す」
女の子の頭を優しく撫でると、女の子は鼻を啜って頷いた。
魔物は散らばった花をモソモソと貪っていた。俺は剣を抜いて、魔物の身体を踏みつけて上に乗ると、魔王軍の印が刻まれた胴体に剣を突き刺した。
魔物は呻き、暴れて俺を振り落とした。俺は飛び退くようにして着地し、再び魔物の身体に飛び乗って、剣を引き抜いた。魔物は俺を睨み、牙を向けて俺のマントを噛みちぎった。俺は構わず、魔物の足を斬り落とした。魔物はさらに暴れ、白い花が空中に舞った。
「しぶといな」
俺は走って魔物の背中の方に回り込み、魔物の首を刎ねた。
魔物の巨大な頭がごろごろと転がり、魔物は目を見開いたまま動かなくなった。
逃げていた街の人々が恐る恐る広場の様子を見に戻ってきた。
「さすがランスロット様だ……」
「あんな巨大な魔物をおひとりで倒してしまうなんて……」
街の人々に見られながら、俺はさっきの女の子に近寄った。
「きしさま」
女の子が俺の手をくいっと引っ張った。
俺は「どうした?」と聞きながら、女の子の目線に合わせるように屈んだ。
「ありがと」
女の子は俺の頬に優しく口づけをした。
俺は照れ臭くなりながら、女の子に
「お前、家はどこだ? 送って行くよ」
と言った。
「あっち」
女の子が指差す方に向かって、俺は女の子の手を握り、歩き出した。
「あっ!」
女の子が声を上げた。
「みて、きしさま。きれいなおつきさま!」
俺はハッとして空を見上げた。
夕暮れの空に、白く丸い月が浮かんでいた。
「いよいよ、魔王が復活するのか……」
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