魔王の弟が勇者をぶちのめす話。

さうす

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第6話 キアヌと重力の勇者

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「ここが、ライブラのダンジョンか……」

 林を抜けた山奥には、石造りの四角い建物が立っていた。
 苔や蔦に覆われたかなり古びた建物だ。

「キアヌ!」

 そう呼ぶ声がして、キアヌの魔法の杖からジェミニが現れた。

「ジェミニ、どうしたの?」

「現在、このダンジョンに、女神ライブラに守護されし勇者、エーデンが来ている。気をつけろ」

「それ、さっきリンデールから聞いたよ」

「あっ、そう」

 ジェミニは不満げな顔をして姿を消した。

「さて、早速ダンジョン攻略といきますか」

 俺たちはダンジョンの中へと足を踏み入れた。


 石の階段を下りると、薄暗く、広い、四角い石造りの空間が広がっていて、壁に『地下一階』と書かれていた。
 そして、そこには、スライムたちが待ち受けていた。

「あー、スライムがいっぱいだ。やれやれですね」

 キアヌが杖を振ると、スライムたちは一瞬でシャーベットみたいに凍って死んだ。
 スライムがダイヤモンドのような光に包まれて消滅する。

 すると。床がゴゴゴ……と下に動き始めた。

「な、なんだ!?」

 床はしばらく下に向かって移動していたが、やがて、動きを止めた。
 壁を見ると、『地下二階』と書かれている。
 その壁が不意にパカリと開いて、そこから魔物が現れた。
 ドロダグだ。
 キアヌは氷の剣を出現させると、ドロダグをバサリと斬り倒した。

「この辺はまだまだ余裕だな」

 ドロダグが消滅すると、今度は壁がズズズ……と横に動き始めた。

 そして、壁の後ろから、分かれ道が出現した。

「出た!迷路だ!」

「探ってみましょう」

 恒例の、ヒューの探り入れタイムだ。
 ヒューは銀色の糸を分かれ道の中にするすると伸ばしていく。

「何か分かった?」

 キアヌが聞くと、ヒューはコクリと頷いた。

「道は両方とも、下に続いています。階段のように下りて移動するタイプの迷路みたいです。左の道は全ての分岐点が行き止まりなので、右の道が正解だと思います」

 俺たちは、ヒューが言う通り、右の道へと入った。
 ヒューの糸を辿りながら、次々と分かれ道を下へと進んでいくと、広い空間に出た。その床には、真っ暗な四角い穴が空いていた。
 それ以外に、この空間には何もない。

「ちょっと待てよ。俺が調べてやる」

 俺は呪文を唱え、黒い魔法陣を床に描いた。
 魔法陣から黒い線が出て、うねりながら探索するように床を巡り、それが黒い矢印となって床の穴を指し示した。

「先に進むには、この穴に飛び込まないといけないってことか……」

 俺はゴクリと唾を飲んだ。

「私の魔法を使いましょう」

 ヒューは手を上に向けた。
 天井に蜘蛛の糸が張り巡らされ、固定される。そこから穴に向かって糸がたらりと垂れ下がった。

「この糸に掴まってください」
「ありがとう、ヒュー」

 キアヌがヒューの糸に掴まると、糸が穴の中にスーッと下りていった。
 俺もキアヌの後を追って穴の中に下りていく。
 その先には、大きな口を開けた魔物が待ち構えていた。
 中級魔物、ゲルゲンだ。
 キアヌは片手を糸から離し、杖を振るった。
 大きな氷の剣が何本も現れ、ゲルゲンの上に落下し、グサリ、グサリと突き刺さった。
 ゲルゲンは呻き声を上げながら、凍らされていき、光に包まれて消滅した。

 ゲルゲンのいなくなった先は廊下のようになっていた。
 その廊下を進んでいくと、また四角い空間に出た。

 そこには、一人の青年がいた。
 髪は短髪で、白い髪の一部が黒くなっている珍しい見た目をしていた。グレーと黒のモノトーンの服を着ていて、手には変わった形の杖を持っている。

 青年はバッと振り返ると、ピッと杖をヒューに向けた。すると、ヒューは後方に突然弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

「なぜ、魔法使いがこのダンジョンにいる……」

「ヒュー、大丈夫か!?」

 俺が慌てて声をかけるが、ヒューには俺の声が聞こえない。俺はそっとヒューの背中をさすった。ヒューはビクッとして俺のいる方を見た。何かに触られた感覚はあるらしい。
 キアヌもヒューに駆け寄る。

「……お前も、勇者か」

 青年の問いかけに、キアヌは顔を上げて、青年の目を見た。

「君は、ライブラに選ばれた勇者……えーと……エ、エ……」

「エーデンだ」

 エーデンは杖をキアヌに向け、下に振った。
 その途端、キアヌの身体がずんっと下に沈み込んだ。
 キアヌは咄嗟に杖を握りしめた。
 キアヌの杖が光って床に氷が走る。
 キアヌは何かに上から押しつぶされたようになり、ガクンと足をついた。そして、さらに、キアヌの身体は沈み、床に這いつくばるような姿になった。
 一方で、床の氷も広がっていく。
 エーデンは杖を上にかざした。
 ふわっとエーデンの身体が宙に舞い上がる。

「人間が、飛んでる……」

 俺が呆気にとられていると、エーデンは杖をキアヌに向け、勢いよく振り上げた。
 キアヌの身体が持ち上がり、天井にバンッと叩きつけられ、床にドサッと落ちた。

「キアヌ!……くそ、こいつの魔法は多分、特定の場所の重力を操る魔法だ。相当手強いぞ。ここは俺が何とか……」

「ウィル、僕は大丈夫。それより、ヒューのそばにいてあげて。……いきなりヒューを攻撃するなんて、許さない。僕が今からあいつを処す」

 キアヌはゆっくりと立ち上がり、エーデンに向き合った。

 床も天井も壁も氷で覆われていく。
 エーデンは宙に浮いたまま、キアヌの方に杖を向け、再び杖を振り上げた。
 キアヌの身体がまたふわっと舞い上がる。
 キアヌは空中でくるりと向きを変えると、身体が天井に叩きつけられる前に足を天井につけ、自分の靴を一気に凍らせた。
 キアヌは氷で天井に張りつき、ぶら下がった状態になった。そして、そのまま杖を振るった。
 床から氷柱が針山のように生えた。

「覚悟はいい?」

 キアヌが杖を振ると、床の氷柱が上に向けて発射された。
 エーデンは杖を振り下ろした。
 上に向かっていた氷柱が下に落ちていく。同時にキアヌの身体も下に力が加えられ、キアヌは足の氷を解いた。
 キアヌの身体は落下し、床の氷柱に刺さりそうになる。
 キアヌは杖を2回振った。
 すると、床の氷柱が一瞬で消え、今度は天井から氷柱が生え、落下してきた。
 エーデンは上に杖を向けた。下に向かっていた氷柱が上に上っていく。
 キアヌはまた杖を振った。
 天井の氷柱がどんどん巨大化していく。
 どんなにエーデンが上に持ち上げても、氷柱はどんどん大きくなり、床へと迫ってくる。

「どうする?このままだと、氷柱に押しつぶされるけど」

 キアヌはその場にしゃがむと、挑発的な笑みを浮かべた。
 氷柱がどんどん床に迫っていく。
 宙に浮いていたエーデンも、床に足をついた。
 キアヌが杖を振るうと、床から氷が伸びて、エーデンの足を絡めとった。
 氷柱も床に迫ってくる。
 エーデンは杖を持つ手を床についた。

「今度は君が這いつくばる番だよ」

 氷がエーデンの杖と片手を凍らせていった。

 キアヌが杖を振り上げると、天井の氷柱が消滅した。

「お前……強いな」

 エーデンはクールな表情を保ったまま、キアヌを見上げた。

「ねぇ、君、どうしてヒューをいきなり攻撃してきたの」

「ダンジョンは……女神が造った神聖な場所……。魔法使いが来るべき場所じゃない」

「そんなことないよ。ヒューだって、魔法は使えるけど、普通の人間だよ」

 キアヌとエーデンはしばらく無言で睨み合っていたが、エーデンがふと口を開いた。

「俺は……幼い頃、魔法使いに襲われ、傷を負った。これはその時のものだ……。魔法使いは、悪しき存在だ……」

 そう言ってエーデンは服の袖を捲ってみせた。エーデンの腕には、縫い合わせたような痛々しい傷があった。
 キアヌはエーデンの傷を見つめた。

「そっか……。君には、魔法使いにトラウマがあるんだね……」

 エーデンは黙ってキアヌを見上げた。

「確かに、魔法使いには、悪い人もいる。僕も、魔法使いの盗賊に襲われたばっかりだし……。でも、僕は、兄さまに今までたくさん助けられて生きてきた。魔法使いにも悪い人ばかりじゃないってことは、頭の片隅に置いておいて欲しいな」

 キアヌはそう言い残して、ヒューの元へ駆け寄った。

「ヒュー、大丈夫?」
「はい……」
「手、貸すよ」

 キアヌはヒューに手を差し出した。
 ヒューはその手をとるのを少し躊躇っていた。キアヌはヒューの手を自分からとってクイッと引っ張った。

「行こう」

 俺たちは地下へ続く階段を下りていった。
 『地下四階』
 そこに辿り着くと、上級魔物ギョルモンテが待ち受けていた。ぎょろぎょろ動く目が3つあり、大きな口からよだれを垂らしている相当気持ち悪い見た目だ。
 そして、その奥には、宝箱が置いてある。

「こいつを倒せば、ダンジョンクリアか……」

「ギアアアア」

 ギョルモンテが恐ろしい声を上げる。キアヌは杖を握り、大きく振るった。
 猛吹雪がギョルモンテに吹きつける。
 ギョルモンテは足元から徐々に凍りついていく。
 キアヌは、さらに杖を振り、氷柱を発射させた。氷柱が触れたところから、ギョルモンテの身体は勢いよく凍っていく。
 追い打ちをかけるようにキアヌは氷の剣でギョルモンテを斬りつけた。

 やがて、ギョルモンテは動かなくなって、光に包まれ、消滅し、その光の中から鍵が現れた。

「宝箱の鍵だ!」

 俺たちは宝箱を開けて覗き込んだ。

 中には、天秤のような形をした宝石と一枚の紙が入っていた。

 紙には、『ダンジョン攻略証明石。この石は、女神ライブラのダンジョンを攻略したことを証明する宝石です。この石は、魔物ハンターの資格として使用することができます』と書かれていた。

「やったー」

「おめでとうございます、キアヌ様」

「やったな、キアヌ!」

 俺たちが喜びを分かち合っていると。

「キアヌ!」

 そう呼ぶ声がして、キアヌの杖からジェミニが現れた。

「よくやったな。ダンジョンクリアだ。これで、ライブラをギャフンと言わせることができるだろう。……さて、早速次のダンジョンに行ってもらうぞ」

「えー、まだ次があるの?」

「そうだぞ、キアヌ。お前のレベル上げはこれで終わりではない。レベル300にはまだまだ程遠いんだからな」

「やれやれですね」

「次のダンジョンは、女神アクエリアスが造ったダンジョンだ」
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