想っていたのは私だけでした

涙乃(るの)

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✳︎✳︎✳︎✳︎


「殿下、魔力の気配を感じます」

「アル、隠れろ!」

木の影に2人は身をひそめた
乱暴な足音が近づいてくる

(アル、お前は小屋の様子を確認しろ。彼女がいれば保護するように)

(殿下は?)
(私はこいつを片付けていく。頼んだぞ)
(はっ)

小声でヒソヒソ会話を交わした後
アルは一人小屋へと急いだ

「くっそ!くそ!どこいった!? 
こっちに来たはずなんだがなー
おい!隠れてるならでておいでー

お嬢ちゃん、ほら、ほら怖がるなよー」

「おじさん、誰か探してるのかな?」

「あん?誰がおじさんだ。なんだてめえは?」

人相の悪い男は、近づいてくると殿下の胸グラを掴み持ち上げる仕草をした

「んぐっんぐっ」
「少し太ったかな~、重いかい?」

「あんちゃん、見た目によらず重いな
じゃねぇよ!ちっ」

殿下を持ち上げようとしたものの、ビクともしなかったので、手を離し悪態をつく

「こちとら機嫌が悪いんだ!金目の物をだしな!」

「ついでに私を売れそうか値踏みしてる?
思考回路が単純で、面白みもないねおじさん」

「なんだと!こんのぐぇ…」

ドサりと男はその場に倒れ込んだ

「おじさんデカいね、ちょっと小さくなってくれる?」

殿下は倒れた男を手のひらサイズに縮めるとポケットにしまった

 「これでよしと。アルはどうなったかな~」

どこか嬉しそうに小屋へと向かう殿下

ポケットを激しく揺らしながら




✳︎✳︎✳︎
小屋に到着したアルは、扉が開け放たれているのにも関わらず、ノックをする

コンコン

「失礼する」

緊急時とはいえ、勝手に入るのは失礼にあたるから正しい判断だと自問自答する
殿下からまた真面目すぎると言われそうだ



中へ入ると奥から物音がした

「診療所ってしけてるなー、」

ガタガタ、バリン

「ここには何かあるか、ぐひひ、これは、またいいねぐひぐひ」

そっと室内の様子を伺うと、
荒らされた形跡がある
散乱した物、割れたガラス、
音がする方角に、引き出しを物色する小柄な男が見えた


中から何か取り出していた
取り出たものをポケットにしまう
金目の物でもあったのか


ん?

アルは戸惑う
男が頭に被ったものが女性の下着だったからだ


「なんて破廉恥な!」

しまった

思わず声が漏れる

「誰だ!」


うぉーーー!

奇声を発しながら、小柄な男が突進してくる

咄嗟に身を交わしたものの、反撃の手が止まる

「ダメだ、直視できない!」

女性の下着を見るなんて!

アルは小柄な男と距離をとり、心を落ち着けるために外へ出ていこうとした

その様子を見た男は、怖がっていると勘違いして追いかける

「なんだ~こえーのか~?ぐひひひひひ」

下着を被った男は、勢いづいて追いかけ回した

女性の下着を見ずに、どう攻撃したものか悶々と悩みながら走るアル

その後ろを、両手を上げて下卑た笑いを浮かべ追いかけ回す下着男


「なんだかな~、このシュールな光景…」

そしてそれを眺める殿下


「殿下!変態がいます!」

「んん?私には変態が二人いるように見えるよ」

「殿下!」

「そんな顔をして走っていたらねぇ。何想像してるのアル?」


「はぁ!?そんな訳ないでしょ!殿下」

「そんなってどんな?私は何も言ってないけど」

「ふざけてないで、なんとかしてください」

「そうだね~」



「きゃー!泥棒!えっなに?私の下着、うそ、信じられない!変態!
あ、昨日の紫の!変質者!気持ちわるっ!出て行って!」

そこへちょうどスミレが戻ってきた

「無事だったのか」
「ご無事だったのですね」

「あっお嬢ちゃんぐひぐひうぎゃっ」


「はぁはぁはぁ、気持ち悪い!」

力の限り箒で下着男をボコボコ叩くスミレ


「もう、そのあたりで。この箒は預かろう」

「触らないで!変態!」

「なっ!私は」

「ははは、心配いらないよお嬢さん、アルは変態というか真面目すぎる堅物だから」

「2人ともこの変態連れて出て行って!」

ピシャリと言葉を撥ねつけられ2人は顔を見合わせる

「驚かせてすまない。私達は怪しい者ではない。あなたが心配で」

「心配される覚えはありません」

「あの、昨日のお礼も兼ねてどうか話を」

「この変態は始末するから」

「始末って…村に屯所があるから騎士に預けて下さい」

「あぁ、ポケットの中と一緒にね、アル、一旦退散してすぐに戻ってこよう」

「はっ、では失礼。この男は私が」

倒れ込んだ男を引きずりながら2人は去って行った

あっ下着…
スミレは下着を被ったままの男を複雑な気分で睨んで見送った

返してと声をかける勇気もなく、勿論捨てる確定だが、複数の人間に見られる方が恥ずかしいと決心して叫んだ  


「その下着は、見られないように捨ててください!」

真っ赤になりながら叫んだ。
あの2人から下着を渡されるのもいたたまれず、小屋に走って戻り扉をバタンと閉じた

 ずりずりと崩れ落ちるように床にへたりこむ

「なんなの…これ」

飛び込んできたのは荒らされた室内

「最悪」











  




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