本当はあなたを愛してました

涙乃(るの)

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第三部

心境の変化

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「バタフライピー?
あぁ、もしかして彼女は、月のものの最中ではないですか?」


「えぇ」


先程マリの着替えの介助をしたので間違いない

「バタフライピーには子宮収縮作用があるのです。
アントシアニンという成分が含まれていましてね、妊娠や月経中に飲みすぎると出血が止まらなくなる恐れもあるのですよ

なるほど、それが原因とも考えられますね

旅の疲れも重なったのかもしれないですね

しばらく安静に休ませてください それではお大事に」

「ありがとうございます」


あまり長く呼び止める訳にもいかずお礼を言って見送った

その後図書室の入室許可をもらい、自身で調べてみた結果、医師の言っていた通りのことが書かれていた

飲食物の成分にまで気が回らなかった自分の落ち度に気が滅入る


異国の食べ物が口に合わずに体調を崩すこともあると聞いたことがあるのに


なのに人為的なものを疑ってしまった自分に嫌気がさす

あの時のマリの言動が少しひっかかるけれど、まだ話せる状態ではないので今度詳しく尋ねようと心に留める



 回復してから帰国するつもりだったけれど、マリの容体は芳しくなく、本人の希望もあり帰国の途についた


無理のないように休憩をとりながら進み

帰国したのは当初の予想の1ヶ月はとうに過ぎていた

マリは療養を兼ねて実家へと帰すことにした


早く元気になってほしい


この時のことを何年も後に思い出すことになる

✳︎✳︎✳︎


「サラ!よく来てくれたね」

「別にあなたに会いに来た訳ではないわ、会いたかったわ~ナタリー、
元気にしてた~、」


「こっちにおいで~」


「あぁちょっと」


「サラお嬢様に抱っこしてもらいましょうね、ナタリーさま」

「おいおいデボラまで」

「少し重たくなりましたね~かわいい!」


「あ、あゔ」



あれからフェリクス様とはナタリーちゃんに会いたいが為に交流を続けている

今ではお互いを呼び捨てに呼び合う仲だ

初対面で自身の持論を打ち明けても、罵倒したりヒステリーを起こしたりしなかったことで友人になれると思ったようだ

ただ単に深く考えずに流しただけなのだけど

きっと今迄友人に恵まれなかったのだろう


詳しい仕事内容は不明だけど、フェリクスは本当に色々な国を行き来しているようだ

この国にもタウンハウスを購入したとの報せを受けてこうして訪れた次第だ


「それにしてもこんなに小さい子を頻繁に連れ回すのはどうなの?フェリクス、もう少し大きくなるまでなんとかならないの?」


ナタリーちゃんを抱っこしながらフェリクスに問いかける

ナタリーちゃんは小さな手で私の服を掴んでにぎにぎしたり、口にいれようとしている


その行動のどれもが愛おしい
目に入れても痛くないってこういうことをいうのね

「あぁ、そのことなんだけど、ちょっと困ったことがあって。
 
ナタリーには、デボラと一緒にしばらくこの邸で過ごしてもらおうと思う」

「ええ?こんなに小さな子に留守番をさせるつもりなの?見損なったわフェリクス」


「いや、でも、どうしても今回は連れていけない…」


「あなたね、仕事と家族とどっちが大事なの」


「もちろん家族だよ!ナタリーは血の繋がった唯一の子供だし。まさかサラに妻みたいなセリフを言われるとは思わなかったよ」


「つ、妻!? 何言ってるの、私は一般論を言っているのよ」

「あぁ、分ってるよ。だが仕事をしなければみんなを養えない。メグミ親子や抱えている者が多いからね」


真面目に返答するフェリクスを見て言葉に詰まる

家庭の事情に口を出してはいけないのに
つい口走ってしまった

唯一の子供というのはどういうことだろう

メグミ親子?

気になるものの、今はぐっと言葉をこらえる

「どのくらいの予定なの?」

「半年ぐらいかな」

「半年も⁉︎半年…
そう、分かったわ、私も協力するわ」

ダーニャお姉様の子供は姪っ子も同然

可愛い姪っ子の為だもの

そうして私は半年間、名目上は邸の留守を預かる代理人兼世話係兼客人として

ありとあらゆる言い訳を自分に言い聞かせて
半年間滞在することにした

ナタリーちゃんやデボラや邸の者達とは交流を深めることができたと思う



その代わり当然ともいうべきか、商会のことはルーカスに任せっきりになった


異国の人達と交流していたことで、考えが麻痺していた訳ではない

よくない状況だと気づいていた

まだ正式に結婚していないから

ナタリーちゃんに会いたいからと



自分を嫌悪しているルーカスと


まっすぐに向き合うのが怖くて逃げたかっただけなのかもしれない

形式的でも結婚式を挙げるとなると決めなければならないことが山積みだ

誰からも祝福されない結婚式

式を挙げずに書類提出だけすることも出来るのだけれど、お互い敢えて触れなかった

すでに世間話もできないほどに私達の関係は冷え切っていたから

当然のことなのだけれど…

仕事を休むなど以前の自分では考えられないことだ

狭い世界にいるのが嫌だと豪語して、物知り顔で自分は視野が広いのだと自惚れていた


良かれと思ってリナを引き留めようと画策したことも、リナにとっては迷惑だったのかもしれない

皮肉なことに仕事から離れることで、色々なことが見えてきた

最善の道のはずだったのに…

自分勝手に誰かの人生を大きく左右させてはいけない
そんな当たり前のことを
自分は分かっていなかった

もしもナタリーちゃんが大きくなって
自分がしたことを知られてしまったら、

堂々と説明する自信がない


きっと顔向けできない


今なら分かる

ルーカスに対して失礼なことをしたこと

リナを深く傷つけたこと


周りくどいことをせず、
フェリクスのように2人に率直に打ち明けていたらもっと違った未来になったかしら


ただ一つ分かるのは、

将来ナタリーちゃんを正妻ではなく、愛人に迎えようとする人がいたら、間違いなく殺意が湧くということ

大切な人には幸せになってほしい

それにフェリクスの力になれるならどんなことも協力する

ダーニャお姉様の親しかった人だもの

結婚にこだわりがないフェリクスと自分は、ある意味似た者同士なのかもしれない

自分の中で
少しづつ何かが変わろうとしていた


そんな心境の変化を知る由もない父と兄からは度々苦言を呈されることになる

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