男装メガネっ子元帥、超女ったらし亡命者に逆尋問を受ける exile

上原

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男装メガネっ子元帥、超女ったらし亡命者に逆尋問を受ける

「えっちぃですな」

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 切迫する空気に耐えきれなくなったか、再びドアが変な音をさせてひん曲がった。黒山の人だかりがそのままの形でなだれ込んでくる。
「お待ち下さいっ!」
 それは師団の兵士たちだった。なぜか全員が全員とも、似たような色刷りの紙切れを手に握りしめている。

 ニコルは、むっとして振り返った。
「何です」

 人間塚の一番下。なだれに押しつぶされ半分ぺちゃんこになった兵士が、空気の抜けたぷぅぴぃ笛のごとくひょろひょろと手をのばす。
「実は」
「待て。言う必要はない」
 兵士の顔を認めたチェシーが苦々しく遮る。

「いえ、言わせて下さい」
 兵士の山が答える。

 ニコルが眼で合図すると、ザフエルは人間塚から一人ずつひっぺがし、廊下にぽいぽい放り投げた。最後にくるりんヒゲの兵士を立ち上がらせる。それは、地下牢の看守だった。

 ヒゲの看守は、顔を真っ赤にして口ごもった。
「実は、その」

「はっきり言いなさい、カルロ軍曹」
 ニコルはさして怖ろしくもない口調で凄む。いきなり名指しで呼ばれ、看守はいっそう萎縮して立ちすくんだ。

「分かった。分かったよ」
 板挟みになり、動揺しきった兵士の様子から察して、チェシーは抗弁の匙を投げた。襟元をゆるめ、胸の内ポケットから四つに折った姿絵らしきものの写しを取り出す。

「これだ」
 肩をすくめて絵をニコルに投げやる。ニコルはそれを受け取り、開いて――

 そのまま顔をユデダコにして固まってしまった。

「私が彼に、名にし負うノーラスの指揮官とはどんな人物かを聞いたんだ。そうしたら彼がそれをくれた」
「も、も、申し訳ございません、閣下!」
 看守は平伏し、額を床になすりつけた。

「勘違いするな。君に責任はない」
 チェシーは堂々と言い訳した。
「彼は誠実な人間だ。それは私が保証しよう。誤解したのは私だ。まあ、絵と比べたら少々肉付きが薄すぎるとは思ったが」

 絵を持ったニコルの手がぶるぶると震え出した。

「あ、あ……あの……そ、そ、それはいいんですけれどどどももも」
「どうした」
「こっ」
「こ?」
「こっこっここここれはっ」
「ニワトリか君は。それくらいの絵がどうした」

 男に対してはおそらく完膚無きまでに容赦ない性分なのだろう。あれほど気障ったらしく口説いておきながら、恐るべき本性への豹変ぶりをみせつけて、チェシーはばっさり切って捨てる。

「ど、どどどうしたって言ったって、これっ」

 ひょい、とザフエルは、ニコルの手から絵をつまみ取った。
「ふむ」
 じいっと見つめている。

 ……穴が開きそうなほど見つめている。

 ……まだ見てるし。

「えっちぃですな」
「誰がですかあっ!!!」

 ニコルは憤死寸前のユデダコ顔で、ザフエルから絵をひったくった。一気に破り捨てようとする。
「こ、こ、こんなもの、いったい誰がっ!」

「何ともったいないことを」
 すかさず、ザフエルがニコルの手から色刷りの絵を奪い返す。

「ただでさえ冬の長いノーラスの地。兵士たちを楽しませる余興や娯楽の一つや二つ、三つ四つ五つぐらいまでは許されてしかるべきです」

 よく見ると、ザフエルのくちびるの端が微妙にぴくぴくしている。気づいた兵士たち全員が、一斉に青ざめた。

 ――ザフエル笑うとき、世界は破滅する――

 などという伝説は当然ないのだが、それぐらいザフエルという男は笑わない仏頂面の人物として名を馳せているのだ。

 ニコルは餌を取られて怒り散らすカラスみたいに、ぎゃあぎゃあと突っかかった。
「娯楽がどうしたというんですか! 神の前にそのようなふしだらなっ……!」

「この絵の何処がふしだらだというのです」
 ザフエルは妙に開き直って、絵をニコルの鼻先に突きつけた。

 首から上だけがニコルにすげ替えられた、「だいなまいとせくしーぐらびあ」。誰が落書きしたものか、「ぁぁん、嫌だよボク……見ないで。恥ずかしいから……」とか横に書いてある――それを。

「バカバカバカ! み、み、見せるな、いかがわしいっ!」

 何が腹立つと言って。
 ザフエルはじめ、この城砦の兵士全員、ニコルが本当は女の子だと知らないのである。知らないから、こんなはれんちな真似ができるのだ。実際は男なのに、まるで女の子のような可愛い顔をしているという色物扱いで。

 もし、本当は女なのだと知られれば、とてもじゃないがこんな笑い話では済まされない。
 
 誰にも明かせない禁忌。知られれば命にすら関わる秘密だ。公国元帥にして最強の闇属性《カード》使い。だが、その正体は――
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