男装メガネっ子元帥、超女ったらし亡命者に逆尋問を受ける exile

上原

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男装メガネっ子元帥、お楽しみの真っ最中を覗いてダメージを受ける

「ザフエルさんって、いつも妙なことばっかり企んでると思ってましたけど、たまにはいいこと思いつくじゃないですか」

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 今の季節、むしろ暑いぐらいの陽気だというのに。この男、相変わらず上から下まで隙一つない純白の軍装に身を固め、肌身離さぬ腰の黒サーベルに手を置いたまま、汗一つかきもしていない。

「何ですかって、ザフエルさんが言ったんでしょ。新鮮な野菜があれば兵士たちの健康管理もばっちりですぞ、って。頑張ったんですよ、この三ヶ月。見て下さいよこのつややかな実の色。みずみずしく力強い葉っぱの緑!」

 自慢そうにニコルは鼻をこすりあげてみせる。そのせいで、鼻の下に泥がくっついた。見事なチョビヒゲである。
 むろん、ザフエルは、かくも愉快な事態をわざわざ是正してやるほど殊勝な男ではなかった。横目で冷たくちらっとあしらい、そのまま無視を決め込んでいる。

 チョビヒゲ元帥は、晴れやかに続けた。
「ザフエルさんって、いつも妙なことばっかり企んでると思ってましたけど、たまにはいいこと思いつくじゃないですか。ちょっと見直しちゃいました」

 ザフエルはぴくりと眉を動かした。
「私が?」
「え」

 何やら不穏当な間。

「今、何と」
「あ、いや」
 ザフエルは妙にそわそわしはじめた。
「お気になさらず。それより別件の報告がひとつございます」

「ん、何かあったんですか」
 ぷりぷりに熟れた実を前に、ニコルは働く手を止めて訊ねた。

「いえ、あの」
 ザフエルは気後れ気味にかぶりを振る。珍しく歯切れが悪い。

「じゃあ手伝って下さい。食べられそうなのから順に収穫しておかなくちゃ。はいこれ」
 ニコルはこれ以上ないチョビヒゲ笑顔と一緒に、はさみと軍手と汚れタオルと麦わら帽子を順繰りにザフエルへと手渡した。

「いや、その、私は緊急……」
 ザフエルは全力で見ない振りをする。
「採ったらそっちのかごに入れといてくださいねー」
「……はあ」


 しばらくの間。二人で隣り合いに並び、もくもくと収穫作業を続ける。

「閣下」
 ぱちん。はさみを入れる音。真っ赤な野菜を一個収穫。

「何でしょう」
 ぱちん。再びはさみを入れる音。トゲトゲ野菜を一個収穫。

「実はですね」
 ぱちん。けっこう淡々とした作業である。

「はい?」
 ぱちん。トゲがあったりするのでへたの所は気をつけたほうが良さそうだ。

「チェシー・エルドレイ・サリスヴァールの処遇について二点ほど報告があります」
 ぱちん。足下のかごが、色とりどりの野菜でみるみるいっぱいになっていく。

「要件があるなら先に言って下さいよ」
 ぱちん。ニコルは唇を尖らせる。

「閣下が野菜の話ばかりされるから」
 ぱちん。それでも一応手は休めない。

「当たり前でしょう。戦況報告なら執務室でお聞きしてます」
 ぱちん。ひときわ高くはさみの音が響く。

「畑にいる時間のほうが長いようにお見受けいたしておりましたが」
 ぱちん。はさみの扱いが乱雑になる。どうやらむっとしたらしい。

「失敬な。そもそも誰がさんが野菜を作らせようなんて変な気をおこさなければ、ちゃんと真面目に部屋で仕事してるはずでした」
 ぱちん。そろそろ競争のような感じになりつつある。

「何を仰有います。花壇の世話と馬の世話とみんなの洗濯と廊下の雑巾がけと食堂の後かたづけは閣下の任務でしょう。それに野菜作りが加わったところで大した違いは」
 ぱちん。声が喧嘩腰だ。

「全然違います。それは全部単なる趣味であって任務じゃありません」
 ぱちん。収穫の速度が上がってきた。

「野菜ぐらい作ってくれたっていいでしょう。けち」
 ぱちん。ばちん。さらにアップ。野菜が山盛り。

「誰がケチですか。そもそもザフエルさんが」
 ぱちん。ばちん。ばちんばちん。ザルからこぼれ落ちている。かなりムキになりやすい性格のようだ。

「閣下以外に誰がいます。だいたいこんな収穫作業を師団参謀である私にやらせようという魂胆そのものが」
 ぱちん。ばちんばちん。ばちんばちんばちん。目にもとまらぬ神業とはこのことか。

「そんなこと言ってザフエルさんさては自分が野菜食べたかっただけなんじゃないですか」
 ばちんばちんバチバチずばばばばばば。ここまでくるともう誰にも止められない。

「ふむ」
 さすがのザフエルも手を止める。
「そこサボらない」
「いえ」

 チチチ……と青い空に小鳥が鳴き交わし飛んで行く。ここが戦場だなどとはとても思えない、平和な風景だ。正確に言えば戦場ではなく畑なのだから平和で当然なのだが。
 まぶしげにザフエルは手をかざす。遠い眼だった。

「というか……大変なことになってしまったようです」
 かくて野菜畑は、丸裸となった。
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