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男装メガネっ子元帥、お楽しみの真っ最中を覗いてダメージを受ける
「野菜と査問会とどちらが大事なんですか」 「新鮮野菜!」
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どうにも苦々しい気まずさが、二人の間を漂っている。
このまま下らない言い合いを続けるべきか、見るも無惨になった野菜畑損壊の責任をなすりつけ合うか、あるいは極めて不自然ながらも何ごともなかった風を装い軌道修正するかで迷っているのだろう。しかしどれも彼らのプライドが許さない。プライド以前の問題のような気がしないでもないが……。
ザフエルは、しぶしぶ方針を転換した。
「報告します」
「うかがいましょう」
ニコルもどうにか虚脱状態から脱し、よれよれとまじめ顔をつくった。ただし顔は真面目でも、鼻の下のチョビヒゲはしっかり残ったままである。
「チェ……じゃなくてサリスヴァールの亡命が許可されたんですね。けっこう早かったな。バラルデス卿あたりがうるさく言ってくるかと思ったけど」
「大公弟シュゼルム殿下が、サリスヴァールの身元をお引き受け下さったそうです」
「ふうん」
てんこ盛りの野菜を前に、ニコルは昼あんどんを決め込んだ。ザフエルが説明を続ける。
「しかしシュゼルム公子殿下は、以前からゾディアック王族とも交流があると噂される人物です。サリスヴァールの今後を考えると、あまり芳しい後見人とは」
ニコルは、軽く手で羽虫を払いのけるふりをして、ザフエルの言葉を押しとどめた。どこに眼や耳が潜んでいるか分からない場所で、迂闊なことは言わせられない。
ニコルの意図をくみ取ったか、ザフエルも用心深くうなずいた。
「これに関し、枢密院が査問会を開くとの通達をよこしてきましたので、閣下とサリスヴァールに出席を願おうと思っていたのですが」
「了解。枢密院ということは義父上も参加されるはず。だったら心強い」
ニコルは勢い込んでうなずいた。
「よし行きましょう。いつですか」
「明日の夜です」
「嫌です。そんなの絶対間に合うわけないです」
間髪を入れず断る。だがザフエルは容赦がない。
「今すぐ出立すれば間に合います。今すぐ行ってください。今すぐ」
今すぐを連呼され、ニコルは泣きべそ寸前の顔をした。
「嫌です。自分たちだけで新鮮野菜を食べるなんてズルいです」
「野菜と査問会とどちらが大事なんですか」
「新鮮野菜!」
「何と。しょうがありませんな。ほら」
ザフエルは白い目でぼそりと言うなり、畑に戻ってニンジンとカブをそれぞれ一本ずつ引き抜いた。
「これで我慢して下さい」
「泥つきのまま押し付けられても」
ニコルは、げんなりとザフエルを見上げた。
「もういいです。分かりました。行きます。で、肝心のチェシーさんはどこに」
「あ」
奇妙な沈黙。
珍しく青ざめた様子で、ザフエルは唇をひき結んだ。
「私としたことが。あまりにも閣下とお話しできるのが嬉しすぎて緊急事態だということをすっかり忘れていました」
「緊急事態? 何が?」
ぽかんとするニコルに、ザフエルは闇色の瞳を向けた。声を押し殺す。
「チェシー・エルドレイ・サリスヴァールが脱走しました」
「そんな、まさか」
ニコルはそれだけをうめくと、続く言葉を見失って呆然と立ちすくんだ。
このまま下らない言い合いを続けるべきか、見るも無惨になった野菜畑損壊の責任をなすりつけ合うか、あるいは極めて不自然ながらも何ごともなかった風を装い軌道修正するかで迷っているのだろう。しかしどれも彼らのプライドが許さない。プライド以前の問題のような気がしないでもないが……。
ザフエルは、しぶしぶ方針を転換した。
「報告します」
「うかがいましょう」
ニコルもどうにか虚脱状態から脱し、よれよれとまじめ顔をつくった。ただし顔は真面目でも、鼻の下のチョビヒゲはしっかり残ったままである。
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「大公弟シュゼルム殿下が、サリスヴァールの身元をお引き受け下さったそうです」
「ふうん」
てんこ盛りの野菜を前に、ニコルは昼あんどんを決め込んだ。ザフエルが説明を続ける。
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ニコルは、軽く手で羽虫を払いのけるふりをして、ザフエルの言葉を押しとどめた。どこに眼や耳が潜んでいるか分からない場所で、迂闊なことは言わせられない。
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「了解。枢密院ということは義父上も参加されるはず。だったら心強い」
ニコルは勢い込んでうなずいた。
「よし行きましょう。いつですか」
「明日の夜です」
「嫌です。そんなの絶対間に合うわけないです」
間髪を入れず断る。だがザフエルは容赦がない。
「今すぐ出立すれば間に合います。今すぐ行ってください。今すぐ」
今すぐを連呼され、ニコルは泣きべそ寸前の顔をした。
「嫌です。自分たちだけで新鮮野菜を食べるなんてズルいです」
「野菜と査問会とどちらが大事なんですか」
「新鮮野菜!」
「何と。しょうがありませんな。ほら」
ザフエルは白い目でぼそりと言うなり、畑に戻ってニンジンとカブをそれぞれ一本ずつ引き抜いた。
「これで我慢して下さい」
「泥つきのまま押し付けられても」
ニコルは、げんなりとザフエルを見上げた。
「もういいです。分かりました。行きます。で、肝心のチェシーさんはどこに」
「あ」
奇妙な沈黙。
珍しく青ざめた様子で、ザフエルは唇をひき結んだ。
「私としたことが。あまりにも閣下とお話しできるのが嬉しすぎて緊急事態だということをすっかり忘れていました」
「緊急事態? 何が?」
ぽかんとするニコルに、ザフエルは闇色の瞳を向けた。声を押し殺す。
「チェシー・エルドレイ・サリスヴァールが脱走しました」
「そんな、まさか」
ニコルはそれだけをうめくと、続く言葉を見失って呆然と立ちすくんだ。
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