この世界で夢を見る

yuto

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【出会い】6歳

第2話

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「以上が世界創成期の主な内容となります。」

周りの10名ぐらいの子供たちが期待を持って
光り輝く羨望の眼差しで神父様を見ている。


次の話に期待しているのだろうか?


僕はこういう話は苦手だ・・・
どちらかというならこんな小難しい話より、
楽しい遊びを教えてくれた方がよっぽど嬉しい。


「この事件は精霊戦争イープス・ウイーレと伝えられ
現代ではある程度の全体像の把握は済んでおりますが
まだまだ詳細な内容は謎に包まれ、今でも王国の考古学者達が日々解析に勤しんでいます。」


考古学者諸君・・・これからも頑張ってくれたまえ
僕では力になれなさそうだ。

もうすぐ太陽が天の球と重なろうとしている。
お昼が近くなり、興味の無い話が僕を夢の世界へ誘ってくる。


「明日は精霊イープスについて少しお話しますが、
これより更に詳しい事は、もっと皆が大きくなって
正式に学園に通うようになってからの内容になりますので
今の話の流れを忘れずにいてくださいね?」


まだ・・・あるのか・・・
いつにも増して退屈な授業が僕の意識を刈り取ろうとしてくる。

なんて恐ろしい精神攻撃なんだ、
闇魔法も真っ青だよ

補足の様な説明を神父様が言っているが正直頭に入らない。
もうここまでの様だ。
甘んじて教会清掃の刑を受けよう・・・


猛烈な睡魔に負けまさに机に突っ伏そうとしたとき、

「それでは今日はここまでです。
皆はおうちのお手伝いを頑張ってね?」


終わったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

今日は無事に試練を乗り越えることが出来た。
流石に昨日、教会清掃の刑を受けたばかりにもう一度は辛かった。

僕と同じ思いだった子がほとんどだったのか、
皆元気良く教会から駆け出していった。




ここ ディウ村は王国から遠く離れた村の一つである。
昔は近辺に3つ程、他に村があったが、人口減少等により合併していき
村名は中心にあった村の名前をそのまま引っ張ってきた。
おかげでこの地方の数ある村の中では比較的、村民は住んでいる方であった。

この物語の主人公、ユウト・クラウィデアはそんな辺境地に住む子供の一人だ。
彼の父は過去に武勲を立て続け、一代で辺境伯まで上った猛者であった。
そんな彼の領地強化の施策に”子学大謹”という制度がある。

単純に”子供は学び、大人は勤労を行え”といったものだが、
自身の領地拡大と民からの税金の活用によって行えた施策ではあるが
これが覿面てきめんし、王国中に広がって貴族たちの無駄な出費を減らしたというのは
余談である。


「ただいま~」

これまでの鬱憤を晴らすかのように、溌剌はつらつとした声で住居にしては
やけに立派な自宅で叫んだ。

奥からメイドのメイが飛んできて身支度を整え、自身の主の息子に出迎えの言葉を掛けた。
かすかに鼻腔をくすぐる良い香りがする。
昼食だろうか?


今日の昼食はなんだろうな~


香りからある程度の推察はできるが、それでもまだ目に見ぬ
自分の昼食に期待を膨らませながら屋敷に入っていった。


そういえば今日は父上と母上が帰ってくる日か・・・


ユウトの両親は一か月程前から領地拡大目的での周辺地区偵察という名のデートを
敢行していた。
二人ともが国という箱の中においてはかなりの実力者という事と
年に何回かは行っている一種の行事という事で
領民のほとんどは心配などしては居なかったが
一部の有力者にはやはり杞憂事項の一つであった。


まぁずっと籠もりきりで
散歩したい気持ちは分からんでもないけどなぁ


昼食を食べながらふとそんな事を口に出してみるが
内心はやはり両親の帰宅に少なからず心を弾ませていた。


午後は家が雇った講師とともに毎日の剣術の修行をこなしていたが
両親が今日帰ってくるという事でいつもより早めに終了した。


少し嬉しかったのはここだけの話・・・


夜の帳が降り始めた頃
従者達とともに帰宅を待っていたユウトの耳に
せっせと駆けてくる馬の足音が入ってきた。
音が大きくなるにつれ、ユウトの表情が周囲の景色に反するように明るくなり
年相応の顔色が惜しげもなく周囲に披露され、
周りも釣られてか歓声が上がり始めた。


「今戻った!」

自身が乗っていた馬車を降り
清々しくも重みを帯びた声色で
自身を待ち望んでいた者達に向かって放たれた一言は、
周囲を一旦静寂に誘ったが、またすぐに喧噪を極めていき
集団に向かって歩く様はまさに威風堂々であった。

集団の先頭にてユウトの姿を見つけた先程の発言者
父 レブアディーオは自身の子に近寄ると頭を乱雑に撫で
自身の懐に抱きよせるとそのまま自宅という名の屋敷まで、笑みを帯びたまま
歩を進めたのだった。
その後ろ姿をレブアディーオの伴侶は馬車から含み笑いを伴って
見守っていた。

その夜は件の屋敷からはさぞ豪快で朗らかな
笑いが聞こえたそうな。










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