この世界で夢を見る

yuto

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【失却】7歳

第5話

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いくら考えても戻ってきてからの父の様子は
いつもとは明らかにおかしい所しか無かった。


とりあえず何か事情を知ってそうな母上を探しに行こう


いつか領民に聞いた話では、いつもの散策は基本的に
領地外とは言えある程度すぐに戻れる距離の探索が主な目的だと
小耳に挟んだことがある。
馬車での移動距離を考えれば行けなくもない距離のはずである。


思ったが吉日である。
ユウトはすっと立ち上がると
服を引っ張っていたシャルを優しく抱き上げ、
突っ立っているメイに出かけの準備を言いつけ行動に移そうとしたところで
突如として手の中にいたシャルが”霧散した”。
驚いたがそれと同時に部屋の扉が開いた。


「どこに行こうとしている?」


戻ってきたときの声色のままレブアディーオが一人で
訪ねてきた。
正直に言うがこんなこと一度だって無かった。
いつもは使用人にユウトを呼びに行かせ、
執務室に行った記憶しかない。
体に緊張が走る。


「ちょっと”母さん”を探しに行こうと思って」


負けじと強気な口調で言い返してみるも
レブアディーオの威厳ある態度に些かの変化も見えなかった。


「今日はもう遅い、
早く寝なさい。」


そう言い残すと部屋を去っていった。
部屋から遠ざかる足音を確実に確認した後、
緊張が解け、部屋にあった椅子に倒れるように座った。
メイも緊張していたのかその場で腰が抜けたように割座を組んだ。


色々と疑問に思うことはあるのだが、とりあえず一番に衝撃だったのは
シャルが消えたことだ。
おおよその推察が断定的になったが、シャルは間違いなく通常の動物とは
明らかに違う。
いつもは近くにいると直感的に分かるのだが、
今は感じないことからどこかに退避したのだろう。


・・・そういえばシャルの事を父上に伝えたことが無かったな


意図して伝えなかった訳ではないが、
シャルが来た初日に伝えそびれたのを皮切りにそのまま尾を引く形になって
現状である。
伝える瞬間が無かった訳ではないが、何故か言いだすことは無かった。
ただ、ユウトは性分上隠し事ができるタイプではないことは、自分で一番自覚していた。


何か魔法的な要素が絡んでいるのだろうか?


それともう一つ。
ユウトは自分の母の事を確かに”母さん”とレブアディーオに告げた。

ユウトが今より幼かった頃、
一度だけ周りの子の真似をしてレブアディーオの前でエウの事を
そう呼んだ事があった。
その時にレブアディーオからこう優しく諭された記憶がある


「ユウト、私の事は別に構わないが
お母さんの事は出来れば”母上”と呼んでほしい。
家族だから”様”までつけろとは言わないが
その呼び方には大切に思う心が宿るからね?
呼び方なんてと思うかもしれないが、ユウトは私達にとって
とても大切な存在だ。
だからユウトにも貴族としてではなく、一人のヒトとして
家族のことを大切に思える優しい子になってほしいな。」


ユウトは母の事ももちろんだが
そう教えてくれた父に対しても自然と呼び方が変わった。
思い出していたユウトの綺麗な瞳から自然と涙が零れてきた。


もう一度、あの強く、優しく、気高き
自慢の父上に戻ってほしい。


ユウトの決意は自然と表情にも表れ、先程までとはうってかわった
キリっとした表情はどこか前までのレブアディーオを彷彿とさせた。


なんにしても母上かシャルを探さないと


異変の手紙の主であるエウか、何かを知っていそうなシャルに
事情を聴かねば何も始まらないと察したユウトは
未だ狼狽えているメイを横目で確認し、
その後自室の窓からそのまま外へ飛び出した。
屋敷の敷地外に出るとすぐに目的の一つを感覚で察知した。


「シャル、近くにいるんだろ?」


周囲を警戒しながら小声で暗がりの空間に呼びかけると
目の前で淡い光が集まり、その姿はシャルとなった。


「凄い色々と気になるけどさ、
今はとりあえず離れた方がいいんだろ?」


シャルが深く頷くのを確認すると、
特に当てがある訳でもないがいつもエウと
散歩していた森に向かって駆け出した。


【ユウト、靴は?】


シャルにそう問いかけられ、そういえばと思い出したように
自身の足元を見たユウトは土まみれの素足に苦笑いした。
たまに痛みを感じるが、気にもしていられないと止まることなく走り続ける。
そんな様子を見かねてか、シャルがじっとユウトの素足を観察した。
するとユウトの足元に光が集まり、疲弊しながら剥き出しで地を駆けている
可哀そうなユウトの素足を被いおおい保護した。
ユウトが感謝の言葉をシャルに述べるが返答は返ってこなかった。
痛みも無くなったが、心なしか速度も少し早くなった様な気がして
ユウトは嬉しかった。

領内はとても静かで誰も出歩いてはいなかった。
日も完全に落ちて普段の景色なのだろうが、
ユウトには新鮮な光景であったが、その静けさは異様で心細かった。


【ユウト、恐らくだがすぐに気づかれる。】


静かに出てきたつもりけど、やっぱりうるさかったかな?

そんな事を頭によぎりながらシャルと並走していたが、
横の小動物は首を振った。

僕、口に出てたかな?


【今この領内は誰の仕業か分からないけれど
”人”と分類されるものは全て操られている。
例外だったのはあの時、部屋に居たユウトとメイドの子だけよ。
恐らく私が居たからだとは思うけれど、さすがに屋敷から離れすぎたから
あの子もやられているわ。】


シャルのその言葉に衝撃も走ったが、それ以上にユウトには
後悔の念が押し寄せてきた。


やっぱり一緒に連れてくるべきだったかな


メイとユウトは物心ついたときから一緒にいる。
立場は違えど、一種の家族みたいなものだと言ってもいい。


後で、必ず迎えに行くから



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