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【失却】7歳

第7話

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どのくらいの時間が経っただろうか。
辛うじて保っている意識はたまにいなくなり、
次にユウトが気づいた時には、レブアディーオの姿は見えなかった。
目の前にたくさんの奴らは居るのだが。
心の中で悪態をつきながら暴れてみるも
ユウトを繋いでいる鎖はびくともせず、
目の前の奴らも無反応、自身はただ苦しく
少しも面白くはなかった。
動くだけ無駄だと思いユウトはじっと耐え忍んでいた。
先程は意識がが戻ったばかりで気づかなかったが
そういえば始まったばかりのような苦痛は幾分か和らいでいた。
そうかと思うと突然辺りが眩く光り、
無意識に閉じた目を開くと目の前の奴らが忽然と消えていた。


【遅くなってごめんなさい。
あなたを探すのに手間取ってしまった。
動けないだろうけどそのままじっとしていてね。】


久方ぶりの妙な感覚がユウトの脳内を過ぎると
目の前でもやが集まりだし、
シャルとなった。
その言葉の後にユウトの体全体を光の球体が覆い、直後に
物凄い轟音とともに津波が襲い掛かってきた。
それはユウトの周りを全て勢いのまま流し
ユウトの視界には日が入ってきた。


もう朝だったのか


いつもとは違う時間の過ごし方をしたおかげか、
突然の光におどろいたが、それ以上に周囲の変化にも目を見張った。
幾つかの水たまりがユウトの視界に入っただけで
あとは更地と化していた。



「ユウト!」


聞き覚えのある声がして意識が朦朧としている中、
聞こえた方へ顔を向けると、自然と涙が流れた。
ユウトは疲れと安堵からか、一言発すると意識が抜けた。


「母上、ありがと。」


元々屋敷があった場所から自身を津波から守った黒い膜から
レブアディーオが現れ、苦言を呈した。


「やってくれたな。」


エウは素知らぬ顔でユウトの手首に巻かれていた手錠を外し、
介抱している。
近くに居たシャルの脳内にそっと呟く。


【シャル、この子を連れて地下に逃げなさい。
私では恐らく止められないわ。】


シャルの表情はほとんど変わらなかったが
心中は驚愕であった。
エウの真意を訊ねることは急を要する現状では妥当ではないとシャルは察したのか
遠回りではあるが、緩やかに言葉で制する。


【すぐ見つかるわよ?】


【魔力の大部分を閉じるわ。
そうして地下に隠せば何年かの時間は稼げる。
この子が自分の力で戦えるようになったときに
また開放するわ。】


すぐに反論が返ってきたところを思うにエウの決意は固いらしい。


【でもそれだと・・・。】


シャルの反論に首を振り、その後の言葉を制するエウ。
その行動に、しばらく考えてシャル


【ただでさえ力が戻ってないのに、そんなことしたら
時間稼ぎもなにもないでしょ?
あまり私の分野ではないけど、半分は受け持つわ。】


感謝の言葉を述べるエウ


「しばらくはお別れね。
大きくなったあなたを楽しみに待っているわ。
・・・シャル、頼んだわよ。」


そう言って一人と一匹はユウトを挟むように向かい合い、
互いの魔法でユウトを柔らかな光で包んだ。
傍から見ると場面と登場人物は違えどそれはかつてのような・・・・・・
面影が見え隠れしていた。

一種の儀式のような行いが終わるとシャルは
気を失っているユウトを眩い光の膜で包み、連れ立って
戦場になるであろう場所を離れた。
そんな様子を視界から消えるまで名残惜しそうにエウは見送り、
そんな様子をあくびを噛みしめながら退屈そうにレブアディーオは見送り、
二人は相見えるあいまみえる


「別れは済んだか?
俺は慈悲深いからなぁ。
すぐに全員後を追わせてやるよ。」


やっと退屈な時間が終わったとばかりに、腕をまわし
これからの運動・・に向けて準備するレブアディーオ。


「アディー、辛いでしょ。
今はまだどうにかしてあげられないけど
きっと私達のユウトがどうにかしてくれるわ。
それまで二人で気長に待ってましょ?」

最近では言わなくなったレブアディーオの愛称に憐みの視線を添えるエウ。
最後の言葉を交わし、向かい合ったかつての夫婦は闘いを始めた。
もうすでに当の本人すらも忘れていたことだが、エウだけが覚えていた。

それはユウトの誕生日の前日の出来事であった。






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