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第1~3章 ダイジェスト編
退魔戦記 ‐片翼のリク‐(後編)
しおりを挟む魔王代行――シャルロッテの外見は、可愛らしい幼女だ。
黒を基調としたドレスを纏い、秋の麦穂を思わせる金髪をツインテールに纏めている。耳の上あたりから生えた立派な日本の角は、髪を縛る簪のようだ。とても200歳を超えているとは思えない。
リクと彼女が訪れたのは、デルフォイの街だった。
雪でも振り出しそうな寒空にもかかわらず、大通りは色とりどりのマントや仮面をつけた人で賑わっていた。
「デルフォイの仮装祭り」のおかげで、シャルロッテの角も仮装として受け止められていた。
その祭りで、シャルロッテは射的の景品に興味を示す。
シャルロッテに命令され、リクは弓に手を伸ばした。
しかし――手に取りかけた弓を、横から取る者がいた。
「そこのお嬢さん、僕が代わりにやりましょう」
リクが顔を上げると、銀髪の少年が弓を引き絞っていた。矢をつがえ、目標に狙いを定めている。見事、景品を撃ち落とした少年は、シャルロッテの心も射止めてしまった。
シャルロッテは「この少年と2人で話がしたい」と、リクの制止を無視して、少年と人混みの中に消えてしまう。
リクは呆れ果て、宿へと戻る――が、その後すぐに事態が急変する。
シャルロッテが退魔師に捕えられ、彼女の護衛が全滅してしまったのだ。
しかも、シャルロッテを捕縛したのはバルサック家の跡取りだと。
そう――銀髪の少年の正体は、ルーク・バルサックだったのだ。
シャルロッテをハーレムに加えるため、そして、ゲームの攻略のため、デルフォイへ来ていたのである。
ルーク滞在の知らせを聞いた瞬間、リクは残忍な笑みを浮かべた。
10年間、顔を合わせていなかった弟との感動の再会に、心が躍らないわけがなかった。
伝令兵のロップを通じてヴルストを呼び寄せると、彼の鼻を頼りにシャルロッテを探すことにする。その道中「魔王軍諜報部隊のクルミ」という少女が手伝いを名乗り出て、一同を先導する。
シャルロッテが囚われている場所は、デルフォイの街を修める領主の邸宅。そこをルーク・バルサックとヒロインたちが仮宿と定め、拠点を置いているらしい。
正面突破は危険すぎるため、クルミの案内でリクとヴルストは地下通路を通ることにした。
しかし、通路の角を曲がった瞬間、強烈な光が薄暗い通路に満ちる。あまりにも強い光に、目を瞑ってしまったが、辛うじてハルバードを抜くことができた。だが、視力を奪われた代償は大きい。光の方向から殺気を感じた、と思ったときには、すでに矢が目の前まで迫って来ていた。身体をねじるように避けるが、それでも間に合わない。
リクの腕に、矢が刺さった。幸か不幸か、矢傷は浅く、そこまで血は出ていなかった。
やがて、光は収まり、通路に薄暗さが戻ってくる。
クルミの傍には、いつの間にか三つ編みの幼女――レベッカが佇んでいた。
この2人は、愛するルークがセレスティーナの死で悲しむ姿を見ていらず、しかも、その実行犯が血を分けた姉だと知ってしまう前に殺してしまおうと企んでいたのだ。
リクは、怒りに燃え上がる2人を見て、思わず笑い出してしまった。
「雌豚の死に悲しむなら、戦場に出さずに籠で飼えば良かったじゃない」
リクは自分に置き換えて考えてみる。
もし、自分が良い残り、敬愛するレーヴェンが戦場で死んでしまったら、その死を悲しむよりも、まず自分を叱責する。なぜ、レーヴェンを護りきれなかったのかと。仇への憎しみよりも先に、己の無力を嘆くはずだ。
それを告げれば、クルミたちは「リクが狂っている」と断定し、剣を手に取った。
こうして、地下通路での戦いが幕を上げる。
先手を取ったのは、レベッカだった。
だが、幼いレベッカは経験が足りない。リクが剣の軌道にハルバードを添わせて弾くと、あっという間に体勢を崩し、よろけてしまった。
その後も、懲りずに怒涛のような剣を振るうが、太刀筋に粗が多すぎる。リクはレベッカの懐に入ると、そのまま組み伏せた。左手で両手をつかみ、右足をレベッカに乗せる。そのまま、全身の体重をかけるように抑えつけた。
もちろん、クルミがすぐに救助に向かう。だが、リクは1人で戦っているのではない。ヴルストがクルミの攻撃を弾き、戦闘不能にする。それを確認した後、リクはレベッカの首を断ち切った。
次にクルミの息の根も止めようとしたが、ここでヴルストが制止する。
クルミが諜報隊の内通者だと判明した現在、どの機密情報を流したのか調べる必要があった。リクは納得すると、そのままクルミを連れて、ひとまず外へ出ることにする。
そして、クルミの下へ歩き出した刹那――
「……してやる。ルークのために……やる……ルークのために、皆殺しにしてやる」
クルミの胸の合間に黒く光る何かを見つけた。
黒光りする球体は、表面が凹凸しており、その形はまるで爆弾そのものだった。リクはハルバードを投げ捨て、爆弾を取り除こうと手を伸ばす。
しかし、気がつくのが一歩遅かった。クルミは涙を流しながら、身体を屈める。そして――
かちゃり、という音が地下通路に木霊した。
クルミを中心に爆風と熱が四散する。リクは咄嗟に両腕を盾にして衝撃波を受けた。だけど、抑えきれない。リクが「吹き飛ばされた」と感じたときには、なにもかも遅い。
すべてをかき消すような轟音と白い光が、リクの視界を覆った。
奇跡的に、リクは無事に生還した。
白い光が満ちた瞬間、ヴルストが身を挺して護ってくれたのだ。しかし、両者ともに重傷だった。リクは壁に叩き付けられた衝撃で激しい頭痛と悪寒を感じ、ヴルストも身体中のいたるところに瓦礫の破片が突き刺さり、大量の血を流していた。
なんとか追手を倒した者の、そのまま地下通路に倒れ込んでしまう。
そんな2人を助けたのは、デルフォイに住まう盲目の神官――シビラだった。
彼女は現在が視えない代わりに、未来が視えてしまう稀有な能力の持ち主である。彼女は「リクに会いたかった」と語り、彼女に1つ――予言を下す。
「このまま魔王軍に留まり続けると、貴方は1年以内に命を落とす」
リクが死ぬ未来を――。
※
さて、地下通路崩落の音は、地上にまで届いていた。
ルークはシャルロッテ攻略のため、彼女を虜にしようと手を差し伸べる。しかし、突如として起こった地震に動揺してしまい、シャルロッテの好感度が下がってしまう。
「そう簡単に平和な世界が築けたら、誰も苦労はせんよ」
シャルロッテは、ルークを突き放した。
ルークは何が起こったのか分からない。とりあえず、ゲームの攻略法通り、剣を抜くことなく、シャルロッテを説得しようと攻撃を躱しつづける。その姿を見て、シャルロッテはルークに背を向けた。
「世界を見聞するのじゃ、小僧。その後で、まだ甘ったれた理想を吐くのか、楽しみにしているのじゃ」
こうして、シャルロッテは去って行った。
ルークは茫然と彼女の後姿を見送る。攻略が成功したのか、失敗したのか。彼が悩んでいると、ヒロインの一人――エリザベート・ブリュッセルが現れる。
エリザベートは
「ルーク君が悲しんでいる。きっと、あの幼女魔族が脱走したからだ」
と判断し、シャルロッテ討伐命令を下してしまう。
シャルロッテは、50を超える追手の軍勢に追われ、あわやこれまで!というときに、裏路地でリクたちと合流した。――合流してしまったのである。
2人とも傷の手当は受けたとはいえ、まだ完全に体調が回復したわけではない。
それでも、リクは懸命に戦った。
20ほど薙ぎ棄てたが、まだ沸いてくる。
30ほど切り殺したが、まだ剣戟が止まらない。
40は殺しただろう。しかし、襲い来る数は減らない。
増援を呼ばれ、徐々に、確実にリクたちは壁際に追い込まれていく。
退魔師たちが、リクに覆い被さるように上から剣を振り下ろしてくる。その隙間から、槍が真っ直ぐ狙ってくる。リクは軽く跳ねとび、槍の上に乗った。左手で銀の剣を抜きながら、目の前にいた退魔師の懐を抉り、体重をかけるように押し倒す。
しかし、この時には体力の限界が迫っていた。
剣の雨を避けながら、右手のハルバードで周囲を薙ぎ払った。10人の退魔師は赤い水溜りに崩れ落ちたが、その向こう側から幾本もの槍が突進してくる。
リクは右手のハルバードを盾のように構えた。そのすべてを防ぎきれるとは思っていない。槍が襲いかかった瞬間、ハルバードで不正で、左手の剣で一矢報いてやる。
彼女は、襲い来る槍に目を細める。槍が目の前に迫り、そして――
「散れ、人間」
突如、一筋の太刀が上から振り下ろされる。
リクに襲いかかろうとしてきた槍は、全て地面に転がり、退魔師たちは身体を2つに切り分けられてしまっていた。
闇夜に溶け込んでいるというのに、その両翼は輝いて見えた。
レーヴェン・アドラーが応援に駆け付けて来てくれたのである。
リクはレーヴェンにだけ無理をさせるわけにはいかないと、死力を尽くす。血を浴びながら路地を駆け抜け、敵が物凄い勢いで激変していく。懲りずに応援を呼びに行こうとする退魔師は、後から駆けつけたロップの足が逃さない。
着実に、1人、1人と殺していき、そして、ついに最後の退魔師の首元を叩き切った時――デルフォイの裏路地に静寂が戻った。
今回の戦いは、レーヴェンが助けてくれなければ、自分の命はなかった。
これで、二度も命を救われてしまった。
リクは強く誓う。もっと強くなりたい。もっと強くなって、傍で役に立ちたい。命を救われたのだから、いざというときに、レーヴェンの命を救えるくらい――傍で戦いたい。
自分の命が尽きる、その時まで。
一方。
ほぼ同時刻、ルーク・バルサックの元にも、クルミとレベッカの死が伝わった。
特に、クルミはルークが提案した爆弾で自爆した形跡がみられたという。
意気消沈する彼に、もう1人の姉――ラクが囁いた。
「これを機に魔族に復讐しよう。セレスティーナやレベッカたちの仇を討つ。それこそが、バルサック家の次期当主として――」
「駄目だよ!」
ルークは反射的に否定していた。
ゲームの主人公は、華々しく活躍する。
どんなに辛い目に遭っても、魔族を恨むことだけはしなかった。選択ミスでヒロイン候補が魔族に殺された時も、和解の道を探し続けていた。
ルークは必死になって、魔族を恨む自分を諌める。しかし、感情を抑え込もうとすればするほど、魔族に対する憎しみが膨れ上がってしまう。
「これは、悪夢か。
でも、それでも、僕は――」
魔族に対する憎悪を募らせながら、悪夢を目指し続ける義務があった。
それが、ルーク・バルサックの使命なのだと信じて――
リク・バルサックとルーク・バルサック。
デルフォイを後にした2人は、この先どのような物語を紡いでいくのか。
それは、まだ先の話――。
《退魔戦記 『バルサックの双子 ―片翼のリクと白銀のルーク―』より抜粋》
************************************************
20話から31話(第3章「仮装祭の悪夢編」)のダイジェストです。
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