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第6章 王都強襲編
64話 凍った世界
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また24時投稿になってしまいました。
……次から気をつけます。
********************************************
痛みが来る。
想像を絶する痛みが。
あと数秒後には首をはねられ、自分は死ぬ。
ルーク・バルサックは、痛みが怖かった。痛いのは昔から、それこそ前世から嫌いだ。痛い思いをせずに、楽に生きていきたい。だから、適当に勉強して自分の身の丈に合った高校に進学し、身の丈に合った数人の友達と馬鹿騒ぎして、同じような大学に進学したのだ。
それは、ルーク・バルサックとして生を受けた今も同じだ。主人公としての知識を活かし、出来る限り苦しまず、痛い思いをしないように過ごしてきたつもりだ。
二度目の人生なのだから、最期は暖かく終わりたかった。
いったい、どこで間違えてしまったのだろうか。
ルークは痛みを堪えるように、歯を食いしばる。そして、セレスティーナの剣が風を切り、ルークの首をはねる瞬間を待った。
「……あれ?」
しかし、いつまで待っても痛みは来ない。
ルークが恐る恐る顔をあげると、リクは剣を振り上げたまま止まっている。いや、ただ止まっているのではない。瞬きをすることなく、呼吸のために胸を膨らませることもなく、闇夜でも目立つ赤い髪の毛が一本も揺らさず、ただただ剣を振り上げたままの姿勢で完全に停止している。
「えっ、え? り、リク……姉?」
ゆっくりと立ち上がり、思い切って手を振ってみる。しかし、リクは何も反応しない。眉間に皺ひとつ寄せることなく、ただ先程までルークがうずくまっていた辺りを見下ろしていた。そろり、そろりと後ずさりしてみるが、相変わらず微動だにしない。
「なんだ、これ?」
その時、ルークは音がしないことに気がついた。
自分の声だけが、不自然なくらい大きく響いている。夜、なので昼に比べると静かだが、それでも全くの無音はありえない。大通りの喧騒も、赤ん坊の夜泣き声も、風の音も、松明が爆ぜる音も聞こえない。
「な、なにが起きてるんだよ!」
その声すら、虚しく裏路地に響き渡る。
ルークは、ぐるりと辺りを見渡してみた。動いていないのは、リクだけではない。もう1人、ルークの視界に止まっている魔族がいた。
ここから少し離れたところから様子を窺っているレーヴェン・アドラーの参謀、ピグロ・オビスだ。ピグロは尊大な態度で腕を組み、じっとリクの様子を観察しているようだ。
「なぁ、答えてくれ。これは、時間が止まったのか?」
ルークは、よたよたとピグロに近づいた。ゲームに登場するピグロは、魔王軍で「参謀」の名を冠している。この異常事態でも、すぐに謎を解き明かす知恵を持っているような気がした。
敵に知識を尋ねるなど、退魔師の矜持に外れる蔑視されるべき行為だということは分かっている。しかし、ルークは現状を1人で解決できるとは思わなかった。
「お願いだ、答えてくれよ!」
自分がピグロに触れば、ピグロの止まっていた時間が動き出すかもしれない。
そんな期待にすがるように、ルークはピグロの腕に触れた。その途端、ルークの指先がふれた箇所が発火し、瞬く間に轟音と共にピグロの全身を包み込む。
「う、うわぁっ!?」
ルークは情けない悲鳴をあげながら、炎から距離を取った。
轟、と一気にピグロは燃え上がる。ピグロは悲鳴を上げることもなく炭と化し、炎は暗い闇の中へと消えてしまった。
ピグロがいた場所には、なにも痕跡が残っていない。しいてあげるとするならば、地面が少しだけ焦げていることくらいだろう。
「どうして……」
『摩擦熱さ、ルーク・バルサック』
ふと、背後から声をかけられる。
ルークが慌てて振り返ると、そこには死神が佇んでいた。死神は柔らかそうな黒い羽をいじりながら、酷く愉快そうに口角を上げている。
『いくら僕でも、時を止めることなんて出来ないよ。
これは、君と僕の周りだけ時間を加速させているんだ。だから、周りが止まって見えるし、触れた物が燃焼する』
ルークは、音を越える速度で動いた時、周りの世界が止まって見えるという話を思い出した。
通常の人間が1の動作をする間に、加速状態にある人間は10もの工程をすませてしまうことができる。その代り、加速状態で紙や服などの物に触れると、空気との摩擦で燃えるという話を遠い昔に聞いたような気がする。
ルークと死神は、リクや世界が停止したように見える。そして、ルークが触ってしまったピグロ・オビスは燃えてしまったのだろう。
「どうして、こんなことをしたんだ?」
リクの動きを止めた時、死神が姿を現していれば良かった。
せめて、ルークがピグロに触る前に一言「触ると燃える」と教えてくれれば、彼は死ななくて済んだはずなのだ。
ピグロを殺したのは、自分ではない。死神が殺したも同然だ。ルークは、死神を軽く睨みつける。すると、死神は「心外だ」とでも言わんばかりに首を横に振った。
『どうしてって……だって、あのままだと君は死んでいた。うん、リクの剣で首と胴体が切り離されていた。それだと、君の願いを聞き入れることが出来ないじゃないか』
「僕の……願い?」
その言葉を聞いた瞬間、どくん、と心臓が高鳴った。
シェール島での戦いの後、死神が教えてくれたことが脳裏に甦ってくる。死神に自分の魂を差し出すことで、願いを何でも1つ叶えて貰える。
あの時は、自分が本来の主人公の魂に寄生しているだけだという事実を知らされた衝撃で、願いを叶えて貰うどころの話ではなくなっていた。だが、その契約云々の話はなくなったわけではない。ただ単純に、後日に流されただけだったことを思い出す。
「まだ、叶えることは出来るの?」
『その通りだよ。僕は、君の願いを聞き入れに来たんだ』
脳まで溶かすような甘い声で、死神は囁きかけてくる。
『君が願えば、何だって叶う。
そう……人生のやり直しだって夢じゃない』
「人生の……やり直し?」
ルークの動悸が、早くなり始める。
もし、10年前……リクを助けていたら、ここまで展開が変わることはなかった。少なくとも、リクは魔族軍にはいなかっただろうし、セレスティーナを殺さずにすんだはずだ。セレスティーナが生きているなら、当然のようにレベッカもクルミも死なず、今もアンナが隣で微笑んでくれたかもしれない。先程のピグロは燃えずにすんだに決まっているし、シャルロッテが自分を拒絶することだってなかったはずなのだ。
過去に戻る。
もう一度、人生をやり直す。
間違いを正し、真にあるべき姿を目指す。死神と契約を結べば、ルークは今度こそ理想のハーレムを形成することが出来るのだ。それに、不幸な未来もなくなり、これまで死んでいった誰もが幸せな世界を歩むことが出来る。
それが出来るなんて、素晴らしい。
『ルーク、どうしたんだい? この状況で何を迷う必要があるんだ?』
それでも、ルークは決心がつかなかった。
何も考えず、自分の欲望のままに願いを叶えて貰いたい。それが一番楽な解決方法であり、みんなが幸せになれる方法のような気がした。
しかし、ルークは両手を挙げて契約を結ぶ気にはなれなかった。
「僕は……」
ルークは、魂を差し出すことが怖くてたまらない。
たとえ、人生をやり直そうと子供の頃に戻ったとする。しかし、どのタイミングで対価を支払うことになるのか分からない。そもそも、魂を死神に喰われたら、その後の自分はどうなってしまうのだろうか。
未来に起きる瞬間について考えると、ぶるりと身体が震えた。
『怖いのかい? ルーク・バルサックが?』
死神は、優しく手を差し伸べてきた。
まるで、いたわるように柔らかそうな手が目の前にある。
『大丈夫、君は何も怖がる必要ないよ。自分の思いがまま、生きたいがままに生きればいいんだ』
「生きたいがままに、生きる?」
『そうさ。僕は、その手伝いをするためにいるんだよ』
だから、この手をつかんで契約するんだ。
死神の甘美な言葉に、ルークは指を伸ばす。だけれども、あと一歩のところで思いとどまってしまう。
何も考えずに、契約をすればよい。死神の言う通り、全てのやり直しを望めばよい。それで、ルークの人生も死んでいった人たちの人生も、大きく良い方向へと変わるに決まっているのだから。
「僕は、みんなのために世界を変える必要があるんだ」
ルークは、二度と笑顔を見ることが出来ない女の子たちの顔を思い浮かべた。
彼女たちが再び笑えるようにするためにも、壊れてしまったリクの人生を救うためにも、間違って殺してしまった魔族や、カルカタで死んでいった同朋たちのためにも、自分のせいで干からびてしまった本来の主人公のためにも、ここは怖い気持ちを抑え込む必要がある。
世界を変えるためならば、怖い気持ちなどいらない。自分の魂の一つや二つ、投げ出す覚悟がないと主人公にはなれないのだ。
『それが、君の願いかい?』
死神の目が、宝石のように無機質な輝きを帯びている。
ルークは、黙って死神を見上げた。どこか嬉しそうな死神を見上げると、ルークの恐怖で凝り固まった表情が少しだけ崩れた。
「僕は、世界を変えたい。みんなを救って、みんなが幸せになって、みんなが笑っていられる世界を作りたい」
ぽつり、ぽつりと言葉を口にする。
一言一言口に出すことで、自分の考えが固まっていくような気がした。
「でもね、それは……たぶん、ぼくのエゴなんだ」
『……』
「うん。きっと、僕は自分が幸せになりたいんだ。自分中心の世界を作りたい」
ずっと隠してきた本音を、ようやく世界に発露する。
みんなが笑っていてほしいのは、みんなの笑顔を眺めていたいから。
リクを殺したいのはセレスティーナを殺した個人的な恨みであり、リクを助けたいのはヒロインを見捨ててしまったという後悔からだ。意図せず殺してしまったピグロや、カルカタでの大敗北のせいで命を失った同朋の退魔師たちを生き返らせたいのは、自分の罪から逃れたいがため。
全部、自分本位の考えに過ぎない。
「だからね、死神」
ルークの心は、不思議と軽かった。
澄んだ空気が通ったように、心が落ち着いている。もう、なにも怖いことはない。
この選択肢が正解かどうか、それは分からない。でも、今は間違っていないと信じたかった。
「僕が願うことは……」
ルークが願いを死神に告げた後……停止した「時」が動き出す。
……次から気をつけます。
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痛みが来る。
想像を絶する痛みが。
あと数秒後には首をはねられ、自分は死ぬ。
ルーク・バルサックは、痛みが怖かった。痛いのは昔から、それこそ前世から嫌いだ。痛い思いをせずに、楽に生きていきたい。だから、適当に勉強して自分の身の丈に合った高校に進学し、身の丈に合った数人の友達と馬鹿騒ぎして、同じような大学に進学したのだ。
それは、ルーク・バルサックとして生を受けた今も同じだ。主人公としての知識を活かし、出来る限り苦しまず、痛い思いをしないように過ごしてきたつもりだ。
二度目の人生なのだから、最期は暖かく終わりたかった。
いったい、どこで間違えてしまったのだろうか。
ルークは痛みを堪えるように、歯を食いしばる。そして、セレスティーナの剣が風を切り、ルークの首をはねる瞬間を待った。
「……あれ?」
しかし、いつまで待っても痛みは来ない。
ルークが恐る恐る顔をあげると、リクは剣を振り上げたまま止まっている。いや、ただ止まっているのではない。瞬きをすることなく、呼吸のために胸を膨らませることもなく、闇夜でも目立つ赤い髪の毛が一本も揺らさず、ただただ剣を振り上げたままの姿勢で完全に停止している。
「えっ、え? り、リク……姉?」
ゆっくりと立ち上がり、思い切って手を振ってみる。しかし、リクは何も反応しない。眉間に皺ひとつ寄せることなく、ただ先程までルークがうずくまっていた辺りを見下ろしていた。そろり、そろりと後ずさりしてみるが、相変わらず微動だにしない。
「なんだ、これ?」
その時、ルークは音がしないことに気がついた。
自分の声だけが、不自然なくらい大きく響いている。夜、なので昼に比べると静かだが、それでも全くの無音はありえない。大通りの喧騒も、赤ん坊の夜泣き声も、風の音も、松明が爆ぜる音も聞こえない。
「な、なにが起きてるんだよ!」
その声すら、虚しく裏路地に響き渡る。
ルークは、ぐるりと辺りを見渡してみた。動いていないのは、リクだけではない。もう1人、ルークの視界に止まっている魔族がいた。
ここから少し離れたところから様子を窺っているレーヴェン・アドラーの参謀、ピグロ・オビスだ。ピグロは尊大な態度で腕を組み、じっとリクの様子を観察しているようだ。
「なぁ、答えてくれ。これは、時間が止まったのか?」
ルークは、よたよたとピグロに近づいた。ゲームに登場するピグロは、魔王軍で「参謀」の名を冠している。この異常事態でも、すぐに謎を解き明かす知恵を持っているような気がした。
敵に知識を尋ねるなど、退魔師の矜持に外れる蔑視されるべき行為だということは分かっている。しかし、ルークは現状を1人で解決できるとは思わなかった。
「お願いだ、答えてくれよ!」
自分がピグロに触れば、ピグロの止まっていた時間が動き出すかもしれない。
そんな期待にすがるように、ルークはピグロの腕に触れた。その途端、ルークの指先がふれた箇所が発火し、瞬く間に轟音と共にピグロの全身を包み込む。
「う、うわぁっ!?」
ルークは情けない悲鳴をあげながら、炎から距離を取った。
轟、と一気にピグロは燃え上がる。ピグロは悲鳴を上げることもなく炭と化し、炎は暗い闇の中へと消えてしまった。
ピグロがいた場所には、なにも痕跡が残っていない。しいてあげるとするならば、地面が少しだけ焦げていることくらいだろう。
「どうして……」
『摩擦熱さ、ルーク・バルサック』
ふと、背後から声をかけられる。
ルークが慌てて振り返ると、そこには死神が佇んでいた。死神は柔らかそうな黒い羽をいじりながら、酷く愉快そうに口角を上げている。
『いくら僕でも、時を止めることなんて出来ないよ。
これは、君と僕の周りだけ時間を加速させているんだ。だから、周りが止まって見えるし、触れた物が燃焼する』
ルークは、音を越える速度で動いた時、周りの世界が止まって見えるという話を思い出した。
通常の人間が1の動作をする間に、加速状態にある人間は10もの工程をすませてしまうことができる。その代り、加速状態で紙や服などの物に触れると、空気との摩擦で燃えるという話を遠い昔に聞いたような気がする。
ルークと死神は、リクや世界が停止したように見える。そして、ルークが触ってしまったピグロ・オビスは燃えてしまったのだろう。
「どうして、こんなことをしたんだ?」
リクの動きを止めた時、死神が姿を現していれば良かった。
せめて、ルークがピグロに触る前に一言「触ると燃える」と教えてくれれば、彼は死ななくて済んだはずなのだ。
ピグロを殺したのは、自分ではない。死神が殺したも同然だ。ルークは、死神を軽く睨みつける。すると、死神は「心外だ」とでも言わんばかりに首を横に振った。
『どうしてって……だって、あのままだと君は死んでいた。うん、リクの剣で首と胴体が切り離されていた。それだと、君の願いを聞き入れることが出来ないじゃないか』
「僕の……願い?」
その言葉を聞いた瞬間、どくん、と心臓が高鳴った。
シェール島での戦いの後、死神が教えてくれたことが脳裏に甦ってくる。死神に自分の魂を差し出すことで、願いを何でも1つ叶えて貰える。
あの時は、自分が本来の主人公の魂に寄生しているだけだという事実を知らされた衝撃で、願いを叶えて貰うどころの話ではなくなっていた。だが、その契約云々の話はなくなったわけではない。ただ単純に、後日に流されただけだったことを思い出す。
「まだ、叶えることは出来るの?」
『その通りだよ。僕は、君の願いを聞き入れに来たんだ』
脳まで溶かすような甘い声で、死神は囁きかけてくる。
『君が願えば、何だって叶う。
そう……人生のやり直しだって夢じゃない』
「人生の……やり直し?」
ルークの動悸が、早くなり始める。
もし、10年前……リクを助けていたら、ここまで展開が変わることはなかった。少なくとも、リクは魔族軍にはいなかっただろうし、セレスティーナを殺さずにすんだはずだ。セレスティーナが生きているなら、当然のようにレベッカもクルミも死なず、今もアンナが隣で微笑んでくれたかもしれない。先程のピグロは燃えずにすんだに決まっているし、シャルロッテが自分を拒絶することだってなかったはずなのだ。
過去に戻る。
もう一度、人生をやり直す。
間違いを正し、真にあるべき姿を目指す。死神と契約を結べば、ルークは今度こそ理想のハーレムを形成することが出来るのだ。それに、不幸な未来もなくなり、これまで死んでいった誰もが幸せな世界を歩むことが出来る。
それが出来るなんて、素晴らしい。
『ルーク、どうしたんだい? この状況で何を迷う必要があるんだ?』
それでも、ルークは決心がつかなかった。
何も考えず、自分の欲望のままに願いを叶えて貰いたい。それが一番楽な解決方法であり、みんなが幸せになれる方法のような気がした。
しかし、ルークは両手を挙げて契約を結ぶ気にはなれなかった。
「僕は……」
ルークは、魂を差し出すことが怖くてたまらない。
たとえ、人生をやり直そうと子供の頃に戻ったとする。しかし、どのタイミングで対価を支払うことになるのか分からない。そもそも、魂を死神に喰われたら、その後の自分はどうなってしまうのだろうか。
未来に起きる瞬間について考えると、ぶるりと身体が震えた。
『怖いのかい? ルーク・バルサックが?』
死神は、優しく手を差し伸べてきた。
まるで、いたわるように柔らかそうな手が目の前にある。
『大丈夫、君は何も怖がる必要ないよ。自分の思いがまま、生きたいがままに生きればいいんだ』
「生きたいがままに、生きる?」
『そうさ。僕は、その手伝いをするためにいるんだよ』
だから、この手をつかんで契約するんだ。
死神の甘美な言葉に、ルークは指を伸ばす。だけれども、あと一歩のところで思いとどまってしまう。
何も考えずに、契約をすればよい。死神の言う通り、全てのやり直しを望めばよい。それで、ルークの人生も死んでいった人たちの人生も、大きく良い方向へと変わるに決まっているのだから。
「僕は、みんなのために世界を変える必要があるんだ」
ルークは、二度と笑顔を見ることが出来ない女の子たちの顔を思い浮かべた。
彼女たちが再び笑えるようにするためにも、壊れてしまったリクの人生を救うためにも、間違って殺してしまった魔族や、カルカタで死んでいった同朋たちのためにも、自分のせいで干からびてしまった本来の主人公のためにも、ここは怖い気持ちを抑え込む必要がある。
世界を変えるためならば、怖い気持ちなどいらない。自分の魂の一つや二つ、投げ出す覚悟がないと主人公にはなれないのだ。
『それが、君の願いかい?』
死神の目が、宝石のように無機質な輝きを帯びている。
ルークは、黙って死神を見上げた。どこか嬉しそうな死神を見上げると、ルークの恐怖で凝り固まった表情が少しだけ崩れた。
「僕は、世界を変えたい。みんなを救って、みんなが幸せになって、みんなが笑っていられる世界を作りたい」
ぽつり、ぽつりと言葉を口にする。
一言一言口に出すことで、自分の考えが固まっていくような気がした。
「でもね、それは……たぶん、ぼくのエゴなんだ」
『……』
「うん。きっと、僕は自分が幸せになりたいんだ。自分中心の世界を作りたい」
ずっと隠してきた本音を、ようやく世界に発露する。
みんなが笑っていてほしいのは、みんなの笑顔を眺めていたいから。
リクを殺したいのはセレスティーナを殺した個人的な恨みであり、リクを助けたいのはヒロインを見捨ててしまったという後悔からだ。意図せず殺してしまったピグロや、カルカタでの大敗北のせいで命を失った同朋の退魔師たちを生き返らせたいのは、自分の罪から逃れたいがため。
全部、自分本位の考えに過ぎない。
「だからね、死神」
ルークの心は、不思議と軽かった。
澄んだ空気が通ったように、心が落ち着いている。もう、なにも怖いことはない。
この選択肢が正解かどうか、それは分からない。でも、今は間違っていないと信じたかった。
「僕が願うことは……」
ルークが願いを死神に告げた後……停止した「時」が動き出す。
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