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第7章 8日間戦争編
73話 責任
しおりを挟む「無礼であるぞ、リク・バルサック!!」
まっさきに異論をぶつけてきたのは、大柄な魔族だった。
引き締まった筋肉を誇る虎型の魔族の女性、ケイティ・フォスター少将は、リクをまっすぐ睨みつける。シャルロッテの戸惑いを感じた態度とは異なり、ケイティはリクに対して明確に敵意を現していた。
「シャルロッテ様の天下が終わりだと!? しかも、シャルロッテ様に敬称をつけずに呼び捨てにするとは……貴様、これは上官侮辱罪だぞ!
よっぽど殺されたいみたいだな、リク・バルサック!」
ケイティは音を立てながら派手に立ち上がり、鋭い爪をリクに向けた。ケイティから発せられる怒りは、まるで豪火のようだ。ケイティに一歩でも近づいたら、消し炭になってしまいそうな勢いがある。
対してリクは、細く笑ったままだった。
「さすがに、私はまだ死にたくないわよ」
リクは音を立てずに立ち上がると、怒り心頭なケイティと向き合った。
「それに、殺される道理もないわ。これは、議会に向けての進言よ。その内容も効かずに『侮辱』と決めつけるのは、不自然ではないかしら?」
リクは冷静に言ってのけた。リクの余裕を保つ姿が、ケイティの豪火に油を注いだのかもしれない。ケイティは目まで真っ赤に充血させると、リクに飛びかかろうと腰を屈めてきた。
「リク・バルサック、貴様――!」
「ケイティ、よすのじゃ」
しかし、シャルロッテがケイティを手で制した。ただ片手を上げただけだったが、それでもケイティを止めるには十分だったらしい。ケイティは噛みしめた歯の隙間から唸り声を漏らしながらも、すごすごと引き下がった。
「リク・バルサック少将は、軍人上がりの新参者。このような場に慣れておらぬのじゃ、立ち振る舞いが分からなくて当然じゃろう。これから気をつければ、問題ない」
シャルロッテはそう言うと、優雅に扇子を広げた。
どうやら、シャルロッテはリクの進言を「なかったこと」として片付けようと考えているらしい。
「それで、すべてが円満に治まるじゃろう。リク・バルサック少将は今後の魔王軍に必要不可欠となってくる人材じゃし、これから学んでゆけばよい。うむ、それで良いな?」
シャルロッテが促してくる。
「これで、円満解決」と言いたげな笑顔を浮かべている。これは、シャルロッテが戦力を手放したくないのか、それともリクに恩を売るつもりなのか、はたまたその両方なのかもしれない。リクは了解した、とでも言いたげな微笑みを浮かべると、
「はい、たしかに学ぶところがおおい若輩者です。
ですが、物事の分別はつけているつもりです」
リクは、はっきりと言い切った。
シャルロッテに言われて「はい、そうですかー」と引き下がる女だったら、こうして首のかかった舞台にあがるわけがない。リクはハルバードこそ握っていなかったが、戦場のようだと感じていた。勝利条件は、敵将の首をとること、敵将の首はシャルロッテ、妨害するはケイティ・フォスターをはじめとしたシャルロッテ擁護派の魔族たち、といったところだろう。
「この数か月のシャルロッテ様の行動には、いささか魔王代行としての節度が足りないように思います」
「節度?」
シャルロッテのこめかみが、ぴくりっと動いた。
「どういうところじゃ?」
「たとえば、ろくに調査もせずにシェール島へ軍を派遣し、敵の罠に落ちたことです。あのとき、もう少し慎重に事を進めていれば、少なくともゼーリック中将が討ち死にすることはなかったかと」
リクがそう言えば、わずかに辺りがざわついた。
ゼーリックの件に関しては、不満を持っている魔族が多い。ただでさえ、魔族の数は少ない。退魔師と戦うために軍を大規模に展開しているが、そのせいで若い魔族の大半は軍人だ。風のうわさでは、魔都でも若い魔族が不足していると聞く。貴族の魔族たちも子どもたちや跡取りを軍隊に所属させており、リクの率いる部隊にも貴族出身の魔族をちらほら見かける。つまりは、フェルトの街で討ち死にしてしまった貴族もいるのだ。
魔族の貴族にとって自慢、かどうか リクは知らないが、それでも貴重な子どもが死んだことには変わりない。その場合、シャルロッテの采配に不満を抱かない方がおかしいだろう。
「魔王の冠があるならば、一刻も早く奪還しなければならないのは当然の理じゃ」
それに対して シャルロッテは、しれっとした表情で言い放った。
「人間側に利用されないために、迅速に回収に向かわせるのは不自然でもなかろう」
「ことの真偽を確かめることくらいはするべきだったと。メイ・アステロイドの様子から察するに、あれは手に入れたばかりの情報。あの場で即答しなくても良い事案だったのでは?」
魔王の冠に関する情報が飛び込んできたのは、シャルロッテ主催の園遊会だった。突然飛び込んできた報告に対し、さほど悩むこともなく、思いついたように命令を下した。あれは、為政者の判断ではない。
「……たしかに……」
ぽつり、と誰かが呟いた。
あの園遊会には、有力な魔族が招待されている。議会へ招致されるような魔族ならば、あの園遊会に招待されているはずだ。だから、誰もがシャルロッテの判断を目にしている。
シャルロッテの一師団分の魔族を死地へ追いやることになった決断は、さほど考慮することなく行われたものなのだと……ここに集まった魔族の誰もが知っている。
シャルロッテの判断は、間違ったものなのではないか? という考えに議会が染まり始めたときだ。
「それは、結果論だ!」
それを吹き飛ばすように、ケイティの声が轟いた。
「確かに、熟考は極めて大切だろう。
だが、リク・バルサックよ……常に戦場では状況が変わりゆくことくらい理解しているはずだ。 あの時点において、『魔王の冠』は今後の戦況を左右する重要な道具となってくる。それが見つけたとなれば、即決が求められるのは、必然のことだ」
ケイティの言葉は、虎の咆哮のように議会全体へと響き渡る。
その声に圧倒されてか、シャルロッテに対して疑問を抱く声が小さくなった気がした。
「それが失敗に終わったから、シャルロッテ様に責任をとれだと!? 冗談もほどほどにしろ!」
リクは、ケイティの発言に耳を傾ける。
確かに、ケイティの言い分も間違っていないかもしれない。だけど、リクは認めるわけにはいかなかった。
「それでは、誰が責任を取るの?」
リクはハルバードで敵の攻撃を払うように、悠々と言葉を発する。
「いざという時に責任をとることが、責任者としての使命でしょ?」
「責任ならば、実際にあの場で指揮をとっていたゼーリックや貴様がとるべきだ。罠だと気がつかなかったのだからな」
ケイティは怯むことなく堂々と言い返す。そして、たたみかけるように言葉を続けた。
「不足の事態に対応できてこそ、一流の指揮官だ。それができなかった貴様は、本来であれば降格ものなのだぞ! それを、シャルロッテ様は恩情として……」
「その言葉、そっくりそのまま返すわ。
魔王軍のトップが不足の事態に対応できないようだと、この先が思いやられる」
「不敬が過ぎるぞ、リク・バルサック!
貴様はシャルロッテ様のお力を知らないから!」
「お力を? っぷ、あは、あはははは!!」
ここで、とうとうリクは笑いが堪えられなくなった。人目を気にせず、リクは思いっきり笑い転げた。
「本気で言ってるの? 力が強いから、魔王様の妹だから、魔王軍を治める価値があるって?」
「……なにが言いたい?
魔王軍を治めるならば、それ相応の力が必要だ。よもや、リク・バルサック……貴様はシャルロッテ様の地位を得ようとしているのではなかろうな!?」
「まさか。ありえないわ」
リクは、きっぱりと否定した。ケイティは、すぅっと目を細める。まるで、リクの本心を見破ろうとしてくるかのような視線だ。
「私は人間よ? 人間が魔王軍を率いるなんて笑止千万。賛同が得られるわけがないし、そもそも魔王代行なんて馬鹿げてるのよ」
議会が騒がしくなる。議会に出席している魔族たちは、「リクがシャルロッテを蹴落とし、自分が魔王代行の座につく」のだとばかり思い込んでいたのだろう。その予想が外れ動揺している者が半数、残りの半数は、リクが何を言い出すのか興味津々に身を前に出していた。
「馬鹿らしい、じゃと?」
シャルロッテの拳が、わなわなと震える。リクは、にやりとした微笑みを浮かべた。
「だって、魔王軍の頂点は魔王様でしょ?
魔王様がいないから、強力な魔族が協力して魔王軍を管理するのは分かるわ。
でも、いないからって 魔王代行が魔王のように権力を振る舞うのは少し違うでしょ?」
シャルロッテの行動は、どれも「魔王軍のため」という要素が少ない。
魔王の冠についても、もし魔王軍のためを思っての行動ならば少し慎重に行動するだろう。それに……
「なによりも、デルフォイでは『ルーク・バルサックを気に入ったから』なんて理由で部下を全滅させた。
それに対する責任もとらずに、ルーク・バルサックを野放しにしつづけている」
レーヴェンは、人間のリクが万が一 反旗を翻したとき、自ら責任をとって処分すると明言している。それに、リクの裏切りを防止するため真名まで握った。
ここまでしても、もし……リクが裏切りに走ったときには、レーヴェンがリクを殺処分し、責任をとることだろう。
だが、シャルロッテは違う。
「ルーク・バルサックにうつつを抜かした責任、どうやってとるつもり?」
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