恋熊 ~少し変な彼女に恋をした熊くん~

でんでろ3

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第2話 初デート

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 八神さんに告白したんだかされたんだかよく分からないけど、カップルになった週の週末、僕は彼女をデートに誘った。悪友どもは、
「随分と積極的だな、おい!」
と冷やかしたが違う。八神さんのことだから、
「夢みたい」
「夢じゃないかしら?」
「きっと夢ね」
「夢だったのよ」
と過去改変能力を発揮しかねない。だから現実をリライトしておきたいのだ。

 待ち合わせ時間の1時間前に待ち合わせ場所についておく。紳士のたしなみではない。八神さんが待ち合わせ時間のはるか前に来て待ち合わせ時間が来る前にやっぱり帰ってしまう。という可能性に備えたのだ。しかし、それはなかった。その代わり待ち合わせ時間になっても八神さんが現れない。
 やっぱりこっちのパターンか。と思いつつ、普通に遅刻している可能性も考慮して、まずは30分待ってみる。しかし、八神さんは現れないだけでなく何の連絡もない。
「あれでいくか」
LINEは使わず八神さんに電話をかける。出てくれるといいが。
 コール4度目八神さんは出た。しかし、何と言おうか迷っているようで無言である。僕は切られないようにすぐに言った。
「もしもし、僕、熊。今、駅前にいるの」
それだけ言って電話を切った。

 その後、八神さんの家を目指しながら電話をかけ続けた。
「もしもし、僕、熊。今、モーソンの前を通ったの」
「もしもし、僕、熊。今、郵便ポストの角を曲がったの」
「もしもし、僕、熊。今、薬屋の角を曲がったの」
「もしもし、僕、熊。今、君の家の前にいるの」
「もしもし、僕、熊。今、君の部屋の前にいるの」
「もしもし、僕、熊。今、君の後ろに……」
「怖いこと言わないで!」
 八神さんが叫んだ。
「やっと声が聞けた」
「熊さん、本当は今、どこにいるの?」
「本当に君の家の前にいるよ」
「えっ?」
「僕の母さんに住所教えたでしょ? あとはグーグル様のお導きのままに」
「あ、そっか。あのね……」
「体の具合悪いの?」
「ううん」
「僕のこと嫌いになった?」
「ううん」
「心の調子かな?」
「……うん」
「そっか」
「あ、あのね、デートが嫌じゃないの! すごく楽しみなの!」
「うん、でも、なぜか家から出られないんでしょ?」
「えっと、あの、随分あっさり信じてくれるのね」
「鬱のことは結構詳しいって言ったでしょ?」
「でも、いくら説明しても解ってくれない人ばっかりだよ」
「君みたいに普段が明るい鬱の人は特にね」
「あー、うん、よくお分かりで。普段から暗くしてた方がいいのかな?」
「そんな人生つまらないでしょ?」
「うん、そう思う」
「ところでさ、外、結構寒いんですよ」
「あ、ごめんなさい!」
「君の部屋に入れてくれたりしない?」
「え? それはちょっと!」
「僕、紳士だよ」
「はぃ?」
「分かってるよ。部屋が散らかってるんでしょ?」
「う、うん」
「でも、部屋掃除苦手でしょ?」
「う――――――っ!」
「女子のプライド捨てると?」
「……苦手です」
「だから、こうしよう? 僕、30分だけ時間つぶしてくるから30分だけテーマを絞って頑張って! それで、30分後に入れてよ」
「えー?」
「君の顔が見たい。どうしても見たい」
「分かった、頑張る」
「はい、それじゃあ、よ――い、スタート!」

 30分後、八神さんの家を再び訪れると彼女は自室に入れてくれた。
「なんだ、床見えんじゃん!」
 見え透いたお世辞ではなく、そこを褒めた。
「それは当たり前なんじゃ?」
「まだまだ、世界は広いのだよ」
 八神さんは少し恥ずかしそうに、
「ベットに座って下さい」
 と言った。
「いきなりベッドに誘われた!」
 わざと大げさに驚いた様に僕が言うと、
「他に座れる場所がないからです!」
 と八神さんは赤くなって否定した。

 八神さんが隣に座った。至近距離から八神さんの顔を見ていたら思わず抱きしめてしまった。八神さんは少し驚いて、とてもドキドキしていた。
「好きだから抱きしめるんですか?」
「分からない」
「えっ?」
「八神さんの顔を見ていたらとても愛おしくなって抱きしめずにいられなくなった。だから、好きなのかもしれない。だけど、好きだから、そういう気持ちになったのかも知れない。でも、鶏が先でも卵が先でも僕は鶏肉も卵も大好きだから、そんなことはどっちでもいいのかも知れない。だって、僕が君を大好きだって思う気持ちには、どんな理屈も入り込む隙なんて無いから」
「夢じゃないんですね」
 僕はこっそりクスッと笑った。
「夢じゃないよ。現実だよ」
「私、こんななのに?」
「こんなところの中にも、こんなじゃないところの中にも素敵なところがいっぱいあるんだよ」
「私、もしかして凄い人見付けちゃったのかな?」
「あんまりハードル上げられても困るけど、期待がないのも寂しいね」
「そうだね。まだ、始まったばっかりだもんね」
「だから、第1目標はお外デートです。年内にクリアして初詣に行きます」
「そうだね! うん! 初詣行きたい!」
「じゃあ、がんばろう!」
「うん!」
 もう、我慢できなかった。僕は八神さんに長い長いキスをした。
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