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第4話「衝撃のコンビニエンスなストア」
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ヨシュアは第一階層を、なんとか命からがら駆け抜けた。
どうにか最後の下り階段を抜けると……そこには、一種異様な光景が広がっていた。
「こ、ここは……なあ、リョウカ! お、降ろして、くれよ」
「あ、うん。ごめんね、ヨシ君」
「……お前まで。その、ヨシ君って」
「なんか、セーレさんがそう呼ぶから、かわいいなあって。……駄目?」
「べっ、別にいいけどよ!」
ヨシュアを小脇に抱えていたリョウカは、彼をそっと立たせてくれる。
男にとって『かわいい』は、これは褒め言葉でもなんでもない。ヨシュアは確かに、男子としては小柄だし、酷く華奢な痩せっぽちだ。運動も武術もまるで駄目だが、顔の造形は妹同様にかわいいらしい。
よく言われる。
嬉しくないのだ。
そんな気持ちがいつも、目元を険しく不機嫌そうに縁取らせる。
「それにしても、こりゃ……えっ? ここ、地下だよな? なあ」
「うん、そだよ。ここから広がってるのが、第二階層『翠緑林ノ禁地』って呼ばれてるの。今抜けてきたのは、第一階層『白亜ノ方舟回廊』かな」
「方舟、か……あの塔がか?」
振り返れば、今しがた降りてきた巨大な塔が突き立っている。魔王城の真下に、それは大地を貫くように突き刺さっているのだ。
方舟と言われれば、そう見えなくもないが……何故、海や川のない地下に?
それに、漕ぐためのオールも風を受ける帆もない、巨大な金属の固まりにしか見えない。
それよりも、とヨシュアは改めて前を向く。
彼が立っている小高い丘の下に、鬱蒼とした原生林が広がっていた。見上げれば空が青く、ここが地下深くだということを忘れてしまいそうになる。
「ヨシ君っ、こっちだよ。セーレさんも、えと……レギンレイヴさん? だっけ。とにかくみんな、こっちこっちー!」
あれだけの大荷物を背負って、さらには戦闘までこなしたにもかかわらず……リョウカは元気よく歩いてゆく。
周囲には、ちらほらと冒険者の姿があった。
皆、装備やいでたちをみるだけで一流冒険者と知れる古強者ばかりだ。
そして、周囲にモンスターの気配はなく、どうやらここが中継地点になっているようだ。
リョウカは驚くべき胆力と膂力で、背負う荷物の重さも感じさせずに歩いていった。
その先に、大勢の冒険者達が集まる不思議な場所があった。
「おっ、来たんじゃねえか?」
「ってことは、このチラシはマジだったのかよ!」
「ラッキーって感じだけど、子供ぉ!?」
「おいおい、こんなお嬢さんがここで店を開くってか?」
「いや、待てよ……どこかで……見たような、見ないような」
大人達の誰もが振り返り、無遠慮な視線でリョウカを撫でてゆく。
しかし、彼女は気にした様子もなく、自分の店……コンビニエンスストアとかいう商売を始めようとしていた。
彼女が構える店舗が、これまた妙なものである。
「なあ、セーレ……お前、あの妙ちくりんな建物……いや、乗り物? 見覚えはないか?」
「んー、そういえば車輪っぽいのがあるし、乗り物みたいだよねー。ベリアルの戦車! には似てないか。こゆのはね、同じ七十二柱のオセが教養あって詳しんだけどさ」
それは、牛や馬が引く荷車とはまるで違う。
動物で引くとしたら、ドラゴンくらいの力がないと無理だろう。それくらい、重々しい金属の塊である。並んだ車輪は全て、牙の並ぶ鋼鉄のベルトで一繋ぎになっている。そして、天井にはドーム状の構造物から長い長いポールが二本突き出ていた。
恐らく、あれは洗濯物等をかける物干し竿だろうか? だが、それにしては不思議な物騒さをヨシュアに伝えてくる。ちょっとした一軒家くらいの大きさで、その巨体によりかかるようにして木造二階建ての小屋があった。
リョウカはその建物の前で荷物を紐解くと、集まった冒険者達に一礼した。
「みなさんっ、おまたせしました! これより、迷宮密着型コンビニ、ブレイブマートの開店ですっ! 魔王城でお配りしたチラシに割引券もついてるので、よろしくお願いしますっ!」
例の大荷物から、大量のアイテムが現れた。
冒険者にはお馴染みの応急薬や解毒剤は勿論、飲み物の小瓶や弁当まで出てきた。
そして、居並ぶ誰もがリョウカに殺到する。
「本当にここで商売するってか! ガハハッ!」
「丁度、携帯食料にも飽きてきたとこなんだよ。弁当を人数分くれ! 五人パーティだ!」
「ここに来るまでに消耗しちまったからな……薬品類を一通り頼む」
「この割引券で二割引きかい? 気前がいいねえ!」
リョウカはもみくちゃにされながら、次々とアイテムを売ってゆく。
慌ててセーレが、自分で受け持った分の荷物を持って手伝いに走った。
ぼんやりとヨシュアは、大混雑の光景を見守るしかない。
しかし、ふと隣を見れば……先程召喚したレギンレイヴがじっと見詰めてくるのだった。
「な、なんだよ……レギンレイヴ」
「いやあ、そのぉ……自分、そろそろヴァルハラに帰りたいんスけど」
「ああ、そうだったな。えっと、ちょっと待てよ。おーい、セーレ!」
ヨシュアが呼んでも、セーレが気付く様子はない。
彼女は今、リョウカと交代して売り子の真っ最中である。お色気ムンムンな彼女を前に、嫌がおうにも冒険者達は活気づいていいた。
そして、店の中からリョウカは、さらに商品を持ってきて並べ出す。
「……なんか、大盛況ッスね。あ、鎧だ。剣とかもある」
「何でも屋かよっ! ……な、なあ、レギンレイヴ」
「なんスか」
「コンビニって……コンビニエンスストアって、知ってるか? お前の世界にはある?」
「うんにゃ? 初耳スね。ただまあ、コンビニエンスって確か異教徒の言葉で……利便性とか好都合とか、そゆ意味じゃないスかね」
「なるほど」
確かに、最凶最悪の祭終迷宮、ディープアビスの中に店があるとしよう。しかも、消耗品から武具の類、食料や飲料まで売ってるとあらば便利だろう。
そして、それはリョウカのようにある程度強い人間にしかなしえない商売だ。
何故なら、この場所まで降りてくる前にモンスターの餌食になってしまうからだ。先程降りてきた第一階層『白亜ノ方舟回廊』には、外の世界とはまるで別物のモンスターが跳梁跋扈しているのである。
「ま、そゆことで……自分、帰るスから」
「待ってくれ、レギンレイヴ。その、召喚した俺が言うのもなんだが」
「仕事はしたスよ? もぉ、さっきから眠くてだるくて……」
「その、な。お前が帰るためにまた、セーレの力が必要なんだよ」
レギンレイヴは、三白眼気味のジト目を見開いた。
こうして見ると、眠たげな表情もどこか愛らしい。
だが、彼女は次の瞬間には「はぁぁ?」と、女の子がしてはいけない表情で睨んでくる。
「どゆことッスか。そもそも、この世界の人間がどうやって自分を……ここって多分、異教徒の王ソロモンが創った世界スよね」
「その辺はまあ、伝説というか、神話というか。とりあえず、話を聞いてくれ」
ヨシュアが命懸けで召喚したセーレは、七十二柱の魔神と呼ばれる最強の眷属の一人だ。彼女と契約したことにより、彼女の魔族としての格、霊格をヨシュアは得たことになる。そして、セーレの霊格より下の存在を召喚する際は、以前のように命の危機を持ってあたる必要はない。
セーレを通じて異世界に接触するため、相応の体力を消耗するだけで済むのだ。
逆に、召喚した異界の協力者達は、セーレの力を借りねば帰還させられないのである。
「マジなんスか」
「……マジです」
「マジかー……チッ」
舌打ちされた。
レギンレイヴ、高貴なる戦乙女とは思えぬ態度である。
だが、彼女はやれやれと肩を竦めると、槍を担いで冒険者達の中へ分け入っていった。慌ててヨシュアがあとを追うと、あっという間に混雑に巻き込まれてしまう。
横入りするなとか、ポーションは謙虚に九個でいいとか、大変な騒ぎである。
どうにかヨシュアがリョウカの元に辿り着いた時には……レギンレイヴの帰還問題はある意味で片付いたようだった。
「本当スね? これを手伝ったら、本当に帰れるんスね? 痴女ねーさん」
「もぉ、その痴女ねーさんって禁止だよぉ。ん……痴女姉様なら、イ・イ・カ・モ♪」
「痴女いことは否定しないんスね……痴女姉様」
「ささ、笑顔! 笑顔よだっ、レギンちゃん! お客様は神様なんだからぁん」
「自分の神様はオーディン様だけッスけど……まあ、その、らっしゃっせー」
レギンレイヴはころころとセーレに転がされるようにして、流されまくっていた。そのまま手伝わされ、売れた商品をぎこちない笑顔で客達に渡している。
ヨシュアもリョウカの隣に潜り込んで、会計を手伝い始めた。
支払われるのは全て、各国の共通通貨であるフェンである。
お弁当が500フェン、飲み物が小瓶で150フェン、薬品類や武器防具はそれなりの値段がする。ヨシュアはいちいちリョウカに確認を取りながら、必死で客をさばいた。
「確かにこりゃ、俺でもできる仕事かもしれない……けど、この忙しさは!」
「ゴメンね、ヨシ君。開店初日から忙しくて」
「あ? いや、いいさ。どのみち魔力を持たない俺には、生きてく術なんて限られてる」
「でもでもっ、わたしはヨシ君が……キミが来てくれて、助かってるぞ? すっごく!」
面と向かって言われると、少し気恥ずかしい。
反面、召喚術を手に入れた今はヨシュアだって冒険できる……戦える。先程の短い旅路で、召喚術の弱点や欠点を知ることもできた。
そして、魔王も勇者もいない世界に残された、最後のダンジョンが目の前に広がっている。
「な、なあリョウカ。店が終わったら、今日の営業が終わったらさ……その、俺と一緒に少し冒険してみないか? お前の剣術は大したものだし、俺もセーレやレギンレイヴと――」
だが、その時笑顔でリョウカは言い放った。
その一言に、思わずヨシュアは言葉を失う。
「店、閉まらないよ? コンビニだもん」
「……へ? いや、だってそろそろものも売り切れちゃうんじゃ」
「業者に手配してあるから、次からは半日おきに地上から送られてくるの。仕入れは万端ですっ!」
「で、でも、閉めないと夜が来るし」
「冒険者には昼も夜もないんですよ? それに、夜しか出ないモンスター、決まった時間にしか作動しないトラップとか仕掛けがあります。それが、ダンジョンッ!」
まるで見てきたようなことを言うリョウカ。
ヨシュアはこの時初めて知った……彼女がやろうとしているコンビニエンスストアとは、二十四時間営業であらゆるジャンルの商品を売る業務形態なのだった。
どうにか最後の下り階段を抜けると……そこには、一種異様な光景が広がっていた。
「こ、ここは……なあ、リョウカ! お、降ろして、くれよ」
「あ、うん。ごめんね、ヨシ君」
「……お前まで。その、ヨシ君って」
「なんか、セーレさんがそう呼ぶから、かわいいなあって。……駄目?」
「べっ、別にいいけどよ!」
ヨシュアを小脇に抱えていたリョウカは、彼をそっと立たせてくれる。
男にとって『かわいい』は、これは褒め言葉でもなんでもない。ヨシュアは確かに、男子としては小柄だし、酷く華奢な痩せっぽちだ。運動も武術もまるで駄目だが、顔の造形は妹同様にかわいいらしい。
よく言われる。
嬉しくないのだ。
そんな気持ちがいつも、目元を険しく不機嫌そうに縁取らせる。
「それにしても、こりゃ……えっ? ここ、地下だよな? なあ」
「うん、そだよ。ここから広がってるのが、第二階層『翠緑林ノ禁地』って呼ばれてるの。今抜けてきたのは、第一階層『白亜ノ方舟回廊』かな」
「方舟、か……あの塔がか?」
振り返れば、今しがた降りてきた巨大な塔が突き立っている。魔王城の真下に、それは大地を貫くように突き刺さっているのだ。
方舟と言われれば、そう見えなくもないが……何故、海や川のない地下に?
それに、漕ぐためのオールも風を受ける帆もない、巨大な金属の固まりにしか見えない。
それよりも、とヨシュアは改めて前を向く。
彼が立っている小高い丘の下に、鬱蒼とした原生林が広がっていた。見上げれば空が青く、ここが地下深くだということを忘れてしまいそうになる。
「ヨシ君っ、こっちだよ。セーレさんも、えと……レギンレイヴさん? だっけ。とにかくみんな、こっちこっちー!」
あれだけの大荷物を背負って、さらには戦闘までこなしたにもかかわらず……リョウカは元気よく歩いてゆく。
周囲には、ちらほらと冒険者の姿があった。
皆、装備やいでたちをみるだけで一流冒険者と知れる古強者ばかりだ。
そして、周囲にモンスターの気配はなく、どうやらここが中継地点になっているようだ。
リョウカは驚くべき胆力と膂力で、背負う荷物の重さも感じさせずに歩いていった。
その先に、大勢の冒険者達が集まる不思議な場所があった。
「おっ、来たんじゃねえか?」
「ってことは、このチラシはマジだったのかよ!」
「ラッキーって感じだけど、子供ぉ!?」
「おいおい、こんなお嬢さんがここで店を開くってか?」
「いや、待てよ……どこかで……見たような、見ないような」
大人達の誰もが振り返り、無遠慮な視線でリョウカを撫でてゆく。
しかし、彼女は気にした様子もなく、自分の店……コンビニエンスストアとかいう商売を始めようとしていた。
彼女が構える店舗が、これまた妙なものである。
「なあ、セーレ……お前、あの妙ちくりんな建物……いや、乗り物? 見覚えはないか?」
「んー、そういえば車輪っぽいのがあるし、乗り物みたいだよねー。ベリアルの戦車! には似てないか。こゆのはね、同じ七十二柱のオセが教養あって詳しんだけどさ」
それは、牛や馬が引く荷車とはまるで違う。
動物で引くとしたら、ドラゴンくらいの力がないと無理だろう。それくらい、重々しい金属の塊である。並んだ車輪は全て、牙の並ぶ鋼鉄のベルトで一繋ぎになっている。そして、天井にはドーム状の構造物から長い長いポールが二本突き出ていた。
恐らく、あれは洗濯物等をかける物干し竿だろうか? だが、それにしては不思議な物騒さをヨシュアに伝えてくる。ちょっとした一軒家くらいの大きさで、その巨体によりかかるようにして木造二階建ての小屋があった。
リョウカはその建物の前で荷物を紐解くと、集まった冒険者達に一礼した。
「みなさんっ、おまたせしました! これより、迷宮密着型コンビニ、ブレイブマートの開店ですっ! 魔王城でお配りしたチラシに割引券もついてるので、よろしくお願いしますっ!」
例の大荷物から、大量のアイテムが現れた。
冒険者にはお馴染みの応急薬や解毒剤は勿論、飲み物の小瓶や弁当まで出てきた。
そして、居並ぶ誰もがリョウカに殺到する。
「本当にここで商売するってか! ガハハッ!」
「丁度、携帯食料にも飽きてきたとこなんだよ。弁当を人数分くれ! 五人パーティだ!」
「ここに来るまでに消耗しちまったからな……薬品類を一通り頼む」
「この割引券で二割引きかい? 気前がいいねえ!」
リョウカはもみくちゃにされながら、次々とアイテムを売ってゆく。
慌ててセーレが、自分で受け持った分の荷物を持って手伝いに走った。
ぼんやりとヨシュアは、大混雑の光景を見守るしかない。
しかし、ふと隣を見れば……先程召喚したレギンレイヴがじっと見詰めてくるのだった。
「な、なんだよ……レギンレイヴ」
「いやあ、そのぉ……自分、そろそろヴァルハラに帰りたいんスけど」
「ああ、そうだったな。えっと、ちょっと待てよ。おーい、セーレ!」
ヨシュアが呼んでも、セーレが気付く様子はない。
彼女は今、リョウカと交代して売り子の真っ最中である。お色気ムンムンな彼女を前に、嫌がおうにも冒険者達は活気づいていいた。
そして、店の中からリョウカは、さらに商品を持ってきて並べ出す。
「……なんか、大盛況ッスね。あ、鎧だ。剣とかもある」
「何でも屋かよっ! ……な、なあ、レギンレイヴ」
「なんスか」
「コンビニって……コンビニエンスストアって、知ってるか? お前の世界にはある?」
「うんにゃ? 初耳スね。ただまあ、コンビニエンスって確か異教徒の言葉で……利便性とか好都合とか、そゆ意味じゃないスかね」
「なるほど」
確かに、最凶最悪の祭終迷宮、ディープアビスの中に店があるとしよう。しかも、消耗品から武具の類、食料や飲料まで売ってるとあらば便利だろう。
そして、それはリョウカのようにある程度強い人間にしかなしえない商売だ。
何故なら、この場所まで降りてくる前にモンスターの餌食になってしまうからだ。先程降りてきた第一階層『白亜ノ方舟回廊』には、外の世界とはまるで別物のモンスターが跳梁跋扈しているのである。
「ま、そゆことで……自分、帰るスから」
「待ってくれ、レギンレイヴ。その、召喚した俺が言うのもなんだが」
「仕事はしたスよ? もぉ、さっきから眠くてだるくて……」
「その、な。お前が帰るためにまた、セーレの力が必要なんだよ」
レギンレイヴは、三白眼気味のジト目を見開いた。
こうして見ると、眠たげな表情もどこか愛らしい。
だが、彼女は次の瞬間には「はぁぁ?」と、女の子がしてはいけない表情で睨んでくる。
「どゆことッスか。そもそも、この世界の人間がどうやって自分を……ここって多分、異教徒の王ソロモンが創った世界スよね」
「その辺はまあ、伝説というか、神話というか。とりあえず、話を聞いてくれ」
ヨシュアが命懸けで召喚したセーレは、七十二柱の魔神と呼ばれる最強の眷属の一人だ。彼女と契約したことにより、彼女の魔族としての格、霊格をヨシュアは得たことになる。そして、セーレの霊格より下の存在を召喚する際は、以前のように命の危機を持ってあたる必要はない。
セーレを通じて異世界に接触するため、相応の体力を消耗するだけで済むのだ。
逆に、召喚した異界の協力者達は、セーレの力を借りねば帰還させられないのである。
「マジなんスか」
「……マジです」
「マジかー……チッ」
舌打ちされた。
レギンレイヴ、高貴なる戦乙女とは思えぬ態度である。
だが、彼女はやれやれと肩を竦めると、槍を担いで冒険者達の中へ分け入っていった。慌ててヨシュアがあとを追うと、あっという間に混雑に巻き込まれてしまう。
横入りするなとか、ポーションは謙虚に九個でいいとか、大変な騒ぎである。
どうにかヨシュアがリョウカの元に辿り着いた時には……レギンレイヴの帰還問題はある意味で片付いたようだった。
「本当スね? これを手伝ったら、本当に帰れるんスね? 痴女ねーさん」
「もぉ、その痴女ねーさんって禁止だよぉ。ん……痴女姉様なら、イ・イ・カ・モ♪」
「痴女いことは否定しないんスね……痴女姉様」
「ささ、笑顔! 笑顔よだっ、レギンちゃん! お客様は神様なんだからぁん」
「自分の神様はオーディン様だけッスけど……まあ、その、らっしゃっせー」
レギンレイヴはころころとセーレに転がされるようにして、流されまくっていた。そのまま手伝わされ、売れた商品をぎこちない笑顔で客達に渡している。
ヨシュアもリョウカの隣に潜り込んで、会計を手伝い始めた。
支払われるのは全て、各国の共通通貨であるフェンである。
お弁当が500フェン、飲み物が小瓶で150フェン、薬品類や武器防具はそれなりの値段がする。ヨシュアはいちいちリョウカに確認を取りながら、必死で客をさばいた。
「確かにこりゃ、俺でもできる仕事かもしれない……けど、この忙しさは!」
「ゴメンね、ヨシ君。開店初日から忙しくて」
「あ? いや、いいさ。どのみち魔力を持たない俺には、生きてく術なんて限られてる」
「でもでもっ、わたしはヨシ君が……キミが来てくれて、助かってるぞ? すっごく!」
面と向かって言われると、少し気恥ずかしい。
反面、召喚術を手に入れた今はヨシュアだって冒険できる……戦える。先程の短い旅路で、召喚術の弱点や欠点を知ることもできた。
そして、魔王も勇者もいない世界に残された、最後のダンジョンが目の前に広がっている。
「な、なあリョウカ。店が終わったら、今日の営業が終わったらさ……その、俺と一緒に少し冒険してみないか? お前の剣術は大したものだし、俺もセーレやレギンレイヴと――」
だが、その時笑顔でリョウカは言い放った。
その一言に、思わずヨシュアは言葉を失う。
「店、閉まらないよ? コンビニだもん」
「……へ? いや、だってそろそろものも売り切れちゃうんじゃ」
「業者に手配してあるから、次からは半日おきに地上から送られてくるの。仕入れは万端ですっ!」
「で、でも、閉めないと夜が来るし」
「冒険者には昼も夜もないんですよ? それに、夜しか出ないモンスター、決まった時間にしか作動しないトラップとか仕掛けがあります。それが、ダンジョンッ!」
まるで見てきたようなことを言うリョウカ。
ヨシュアはこの時初めて知った……彼女がやろうとしているコンビニエンスストアとは、二十四時間営業であらゆるジャンルの商品を売る業務形態なのだった。
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