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魔剣初代の章
魔剣初代──幕切
しおりを挟むさて、と『女鍛冶師』は改めて青年を見やる。
彼女は言った。
この魔剣の有する伸び代は如何程の物かは不明だと。
なんだって花の形態を取り鋼の数百倍の硬度を持ってこの世界の自然界に生息しているのか、その根幹にあるのは本来ミスリルとは生物的可能性を秘めた無機であり有機でもあるのだと。
それが遂に第一号として証明されたのだ。
同時にこれは女鍛冶師の知る限り前例がないからこそ、何が起きるか分かった物ではない。
もしかすると普通の剣として役目を終えるかもしれないし、騎士の望む通りある日突然美女の声が刀身から聞こえて来るかも知れない。
心を覗く術があれば魔剣の胸の内を聞く事も出来るかもしれない。
だが、それが無粋であると分かっていれば愛剣と末永くやっていけるかもしれない。
「これは始まりだよ、あの魔剣はこれから魔剣が望む成長スピードで自然に見聞きした事柄を吸収するんだ。
さて、今回の注文に関して私は依頼人の騎士様を調べないでいたんだ。
早期納品になったからそんな時間が無いのも当たり前だがね? それで君に聞きたいのが……例の騎士とやらはどんな人物なんだい」
「どんな……か。
よくある話だ、依頼人は若手の騎士でな。次の冬には王都でオーク討伐隊を率いる事になっていたエリート武官だ。
剣の腕は優秀。ウチの店の商品の卸先でもある訓練場に顔をよく出す美丈夫でもあるな」
「へぇ、イケメンじゃないか」
「だな。んで……オーク討伐隊の隊長任命式で王に掲げる自らのシンボルともなる剣が欲しかったのだと。
それならばと例の騎士様は宮廷の魔導士とかいうのにアンタの事を聞いて、オーダーメイドを発注するに至ったってわけだ」
赤髪を、揺らして。
「アンタが聞きたいのは結局、なぜあの魔剣を欲したのか。だろ?
その騎士様は『女心が分かる異能』をお持ちらしくてな、どんな女も名前を呼ぶだけで虜にできるそうだ」
「……ほう?」
「アンタには不快な話だったか」
「いいや、いや! ぷ、くく……面白い相手が『最初』の使い手になったものだ。どんな運命を描くのやら!」
青年は赤髪を揺らして、口元を抑えて笑いを堪えている様子の女鍛冶師を見た。
名前を呼ぶ事で虜に出来る。
なるほど、汎用にも魔剣であるならば如何な粗雑な錆びた剣であろうとこの世界では何者かが付けた名か銘がある。
そこで人ならず自らの愛剣さえも世界で最高の味方にしようとしたのだろう。
だが生憎それは叶わない。
「あははっ! あの魔剣に、名は無いよ! 私が文に書き記す中で最初に書いた事だ!
なるほど自由にはならぬかと思えば、その男は嬉しそうに笑ったって? ならきっと今後彼は我が身に隕石でも降るような災難に見舞われなければ面白い未来が見られそうだ!」
「名は無いって……せっかくアンタが打った剣なのに、それで良かったのか?」
「それを言うなら、私の『造る物だけを作る』信条だって首を傾げる話だろうに。
第一、我が子に名を与えるには私は母親として未熟だった、だからあの剣の銘は……」
──女鍛冶師は自身の生んだ奇異な魔剣の銘を、【無名】と呼んだ。
――――『とある女鍛冶師と魔剣【無名】』.終
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