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魔剣三代目の章
それは一人の騎士の
しおりを挟むこの世界に陸は一つしかない。
巨大な一対の天秤。
四大世界と現代の学士達が呼称するこの世界において、その歴史は混迷を極めた過去がある。
その原因は遥か千年以上の時を遡り、異世界からの来訪者と世界の命運をかけた大戦争が起きた事にある。
かつての世界には国の境界線はなく、種族もまた現在の様に多岐に渡る物では無かったという。
だがその歴史を紐解くには、余りに失伝された情報が多い。
語り継ぐ役割を持った先達の者も皆等しく、命と言葉を紡ぐ事も叶わずに死んでしまったからだ。
では、この世界はどうやって今の形になったというのか。
何故かつては平和だったのに、今となっては人々は散り散りになってしまったのだろう。
(……それも、やはり『魔女』の所為なのだろうか)
「隊長? 如何かなされましたか」
「いや──何でもないよ。すまないな諸君! 私は花を愛でるのは得意だが鎚を磨く事に関しては無愛想になってしまいがちだ!」
「ハハァッ! 頑張れよ大将!」
ドッと笑い声が広がる。
彼等こそ花を模った鎧を纏う銀騎士、四大世界において南の象徴とされる『アーシェント王国』を守護する戦士達の一団であった。
尤も。この場において真に『騎士』と呼ばれているのは彼等一団を率いている指揮官たる『彼』だけであり。
他の騎士達は所謂『従騎士』という、王の祝福を未だ受けていない者達である。
ミスリルとも異なる魔力鎧を纏いし『彼』こそはクリフォード・エイラ・ハウンゼン。
若くしてその人格と力量を王に認められ、オーク討伐隊の任を与えられた男だった。
「もうじき、オークの襲撃を受けたという集落に到着する。各々装備を検め戦闘に備えてくれ」
「了解!」
彼等はこの日、王都近辺で村や集落を襲っているというオークの群れを討伐すべく行軍していた。
『オーク』とは筋肉の肥大化と共に半獣人化した者達。魔性に堕ちたモノ。
本来は野山や森林地帯で穴倉に籠っている様な存在として広く知られる輩であったが、数ヵ月の間にオークによる襲撃事件がアーシェント国内で相次いでいたのである。
それらを解決または討伐すべく、十二人の『騎士』を指揮官とした中隊を編成された内の一隊がクリフォード達であった。
森林に面した集落が視認出来る距離にまで近付いて来ると、クリフォードの指揮に応じて一度足を止める。
クリフォードは騎士だけが有する超人的な視力で集落の惨状を遠巻きに眺め、息を吐いた。
集落にいた村人の多くは殺され、数少ない生存者達は既に捕らわれた後に何処かへ拉致されたと彼は見た。
家屋らしき建造物は全て潰されているのだ、焼かれていないのはオークとて火を恐れるからだろう。
彼は騎士達が装備を検めている間、次いで集落の側にある森を見た。
(……恐らくはあの中にいるのだろうな。それほど大きくない森林だ、燻り出すか包囲戦に持ち込めば被害を軽減できるだろうか?
今日は上手い具合に風が無い分、オークに匂いで察知される事もないだろう)
山岳地に比べれば殆ど平原の中にあるようなもの。
開けた視界で急襲を受ける事も無い筈だと彼は思う。
最悪、森林内で混戦となっても集落に陣を敷いてからルーティンを組む事で安全に事を終えられる筈である。
時間と体力が削られるだろうが、仕方ない。
副官に幾つかの案を投げた後、作戦を固めよう。
そう思いクリフォードが頷き振り返った時だった。
───ズボォッ!!
「な、なんだ!?」
「──敵襲! 地中から来てるぞ! 総員後退せよ、各自隣り合う者をサポートしつつ距離を取るんだ!」
「後方分隊からの報告! 森林東からオークと『オーガ』の混成群が此方へ接近中とのこと!」
(森林東……この奇襲で下がった我々の退路を断つつもりか!)
突如として平原に立ち込める粉塵。
信じ難い事に、予め掘っていたとでもいうのか討伐隊の行く手を遮る様に大地が陥没したのである。
完全に意表を突かれたその奇襲に数人の騎士が土中から伸びる魔の手に捕まってしまう。
混乱は避けねばならぬと後退させたものの。
隊の退路上にはオークのみならず、オーガ種と呼ばれる攻撃性と膂力が大幅に増した大型の半獣人が何故かこの場面で現れたのだ。
鎧兜の中でクリフォードの額を冷えた汗が伝う。
オークとオーガが徒党を組むなど有り得ない、そもオーガとは強力で恐ろしい怪物の類ではあるが『縄張り』にさえ入らねば人を積極的に襲うような種ではないのだ。
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