お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩

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番外編

エーミルの場合2

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「…はい」


知ってます…とは口から出なかった。

頬が痩けて目を瞑っているけれど、マレーネ様が仰るとおりの人だと思った。



マレーネ様は彼を見て顔にかかっていた髪を掬いどける。
その仕草は泣いていたあの頃のマレーネ様からは想像できなかったけど、でも本来の彼女の性質をわかっていたらそれは至極当然の動作だった。


「マレーネ様…彼は…その」


「彼をあの頃の名前で呼ばないでほしいの。
今は…そうね…カドゥ…と呼んでほしいの。」


カドゥと呼ばれた彼が目を閉じているにも拘らず微笑んだように見えたのは気のせいか…


「…かしこまりました…」


僕はそう返答するしかなかった。
マレーネ様のことを思えば憎い奴とも思うが、その姿はあまりに痛々しく弱い存在に思えた。


僕がカドゥ(様は要らないらしい)のお世話を任されてから気づいたけれども、彼は偶に目を開けるけれどもここではないどこかをずっと見ていた。
つまりマレーネ様のことも僕のことも見ていなかった。

僕は体を拭いたり、目を覚ましてる間は体を動かすために動く椅子に移動させて陽の光を浴びてもらったり、食べ物は食べたり食べなかったりがあるが、薬を飲ませたり、彼につきっきりになった。


父にも伝えたが「そうか…」としか言わなかった。


マレーネ様は、彼に声をかけたり、散歩に一緒に行ったり、僕の任された仕事だったけど交代でしていた。

軍人だったと聞いていたが寝たきりになった彼はすっかり筋力が落ち、痩せていた。それでも生来の身体的なもので骨格がしっかりしていたからかその仕事は重労働だった。
だけど、彼女の穏やかな笑顔を見ていると頑張れた。

カドゥは何も反応しない。


マレーネ様は疲れないだろうか…
何も反応のない人間にずっと声をかけ続けるのを…



「たまにはマレーネ様に感謝してください」

僕はちょっと不満を彼にぶつけてみた。
いけないことと分かっていても、マレーネ様がそれを許しているとしてもやっぱり納得がいかなかったからである。



偶に目を開けている時に彼に声をかけた。
本来なら不敬罪で僕は刑に処せられるかもと思いながら、でも何も反応しない相手が反応するか…そう…僕は確かめたのだ。

ある日の散歩の時に彼は目を開けていたので、僕は質問したんだ。


「ねぇ…なんでマレーネ様を悲しませたんですか?」



僕から見てもわかる…



そうだよ…マレーネ様はまだアクラム様
のことを愛しているんだ。


ねえ?どうしてなの?







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