最初に抱いた愛をわすれないで

悠木矢彩

文字の大きさ
21 / 22
侍女マリアの日記

11

しおりを挟む
「会わない…か。参考までに理由を聞いても良いだろうか?」


ランバート殿下はもちろん私も気になります。
リネージュ様の出した答えを。



「あまり参考にならないかもしれません…ランバート殿下にお訊きしたいのですが、離婚した私はあなた様の目にどのように映っておりますか?」


「私の目にか?ふむ…そうだな。私にはあなたがとても強くみえる。か弱く見せようとしているわけでもなく、強がっているのでもなく精神が強いのだなと話していて感じる。」


「ふふ…誉め言葉として受け取っておきますね、そうですね…私は彼に愛人がいることも私から心が離れていたことも知っていました。でも彼を愛していたので彼から言われるまでは自分がクロス侯爵家から出るとまでは考えていませんでした。」


ふぅとまた少し大きな呼吸をされたリネージュ様に肩掛けをお渡ししました。

「有難う、マリア。そう…でも彼からとうとう離婚を言い渡されました。それはこの病気によって余命宣告をされた日の夜でした。」


それをきいたランバート殿下は目を瞠ってしまわれました。

「なんと…!!」

「いえ、彼は知りませんでした、もちろん離婚する身ですので言えませんでした。でも余命宣告をされて離婚される私は一体どこに身を置く場所があるのかと考えました…すぐに無いと気づきましたが。」


貴族女性は結婚したら基本的に帰る場所はない…最終的には修道院へいくしかなくなるのです。

「彼の子供を産むことができず、彼に愛する人ができて、それから別々の寝室に女性物の香水、それと同じ匂いがする手紙、蔑ろにされる態度。私は死ぬ宣告をされて…私の存在価値とは何だろうかと考えました。」


聞いているだけでも胸が痛む思いです。
リネージュ様の悲痛な叫びを私は初めて聞いたのです


「ランバート殿下…あなた様はさきほど私を強いと仰いましたね。」

「あ…ああ。」


「違うのです。」


「なんだと?」


「それは自分の感情を自分の心の奥底に生き埋めにしてるのです。葬ったのではありません。なぜなら無くならないからです。それは時々ふいに露出し、私を苦しめます。でも私はまたそれを埋めるのです。その繰り返しなのです。埋まっている間は別のことを考えられるのです。私にはこの病気の治療がそうでした。」

「なんと、痛ましい…」

「私は、夫に恵まれませんでしたが、それ以外の周囲の人間にはとても恵まれました。マリアもその一人です。病気と離婚があってそのことに気づけました。なので目を覚ました時、その現実に神に感謝します、生かしてくれてありがとうございますと。」


ちらりとリネージュ様は私を見てくださいました。
そして笑顔を見せてくださるのです。
私は涙をこらえることができませんでした。侍女失格でございます。


「ですが…私たち夫婦は子供のことがあろうとなかろうと離婚していたと思います。」


「それ以外にも問題があったということか?」

「そうですね…今回離婚したのは子供ができないという問題でした。しかし子供が問題なのではなく、私たちは同じ方向を見ていなかったのです。」


「同じ方向?」

コクリと頷くリネージュ様に新しい紅茶を差し出します。
冷めた紅茶でお体を冷やしていただくわけにはいきません。



「そうです、この問題に夫婦で立ち向かっていくことができませんでした。私は口をつぐみ、夫は外に逃避してしまいました。ほかの問題が起こった場合も同じことが起こったでしょう。これはなるべくしてなったんだと思っております。」


「…そうか、いずれにしても君はクロス侯爵に会う気は全くないと?」


「法的な手続きはすでに済んでおります、もし会ったとしても、以前の純粋に彼を慕っていた私には戻れないでしょう。会う理由がないのです。」




「そうか…相分かった。個人的なことを訊いてすまない。」


「いいえ、吐き出せてよかったと思います。聴いてくださり有難うございました。」



カタンと席を立つランバート殿下。

そして、再びリネージュ様に手を差し出されました。


「少し時間をかけすぎた、済まない…部屋まで送ろう。」

「有難うございます、今日は体調が良かったのでようございました。」



そうしてお二人はリネージュ様のお部屋までゆっくりと歩みを進められました。











しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう

音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。 幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。 事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。 しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。 己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。 修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...